コミックナタリーの読者には、マンガの原画展に行くのが好きな人も多いはず。だがマンガの原画の、どこに注目したらいいかを教えてもらったことがある人は、ほとんどいないのではないか。
自分でもペンを走らせているマンガ家や、仕事で原画を目にすることの多いマンガ編集者、そして原画展を企画・制作する学芸員といったプロは、原画を鑑賞するときどんなところに注目しているのだろう。そんな人たちに、「こういう視点で観ると原画展ってもっと面白いよ」と教えてもらえたら、原画展に行くのがもっと楽しくなるかもしれない。そんな思いから、「マンガ原画展の歩き方」はスタートした。
今回は、川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムの館長・小林順子氏と、学芸員・川面博子氏にインタビューを実施。同ミュージアムでは現在、開館15周年を記念した展示「藤子・F・不二雄ミュージアム 開館15周年記念 ドラえも~ん! 願いをかなえるひみつ道具展」を展開している。期間限定で行われる原画展とは違い、いわば“いつでも会いに行ける”原画があるのがこのミュージアムの大きな魅力。原画を見るときに注目すると面白いポイント、今回の企画展でぜひ味わってほしいところ、小さなお子さんに感じてほしいこと、ミュージアムの設計思想まで、幅広く話を聞いた。
取材・文・撮影 / 鈴木俊介
話を聞かせてくれたのはこの人
小林順子さん
ミュージアム開館の翌年から学芸員として展示等を担当。2024年、館長に就任した。
川面博子さん
入社5年目。学芸員として展示・企画の中心を担っている。幼少期にはマンガの執筆に挑戦したことも。
原画は情報の塊
──さっそくですが、川面さんは原画のどんなところを魅力に感じていらっしゃいますか。
川面博子 デジタル作画が普及してきたから言える点もあると思うんですけど、まずは「実際にものがある」ということ。あと、その中に含まれている情報量が圧倒的ですね。もともと版下として作られたもの、つまり、「印刷後にこういうふうになる」というのを想定しながら描かれていたものではあるんですけど、実際原画を見ると、印刷後には写らない修正痕だったり、ペンタッチの強弱とかインクの濃淡だったりとかが、意外とわかるんです。そういう情報量が圧倒的に多い。藤子・F・不二雄先生の場合は、ダイレクトに原画を切り貼りして描き直していることも多いので、そこについ目が行ってしまいますね。
──コマごと切り貼りされていらっしゃる箇所が多いのは、私も興味深く拝見しました。
川面 先生は、てんとう虫コミックスに何を載せるか、載せるにあたってどういうふうにしたらストレスなく、面白く読めるかというのを追求されていたように感じます。学年別学習雑誌向けに一度仕上げたマンガも、改めて手を入れることが多かった。すごく誠実な方だったんだなというのが、原画からも感じられて面白い。「大長編ドラえもん」とかも、初出と単行本とを読み比べてみると全然違うところがあったりします。今年2月には「のび太の海底鬼岩城」が新作映画として公開されましたので、ミュージアムでも連動展示をさせていただいたんですが、いい機会だと思って、思い切りマンガを読み込んだり原画を見たりさせていただきました。すると、すごく計算して修正していらっしゃったんだなというのが伝わってくる。ただただすごいなと、圧倒されてしまいました。
──F先生の原画を観るならここを見てほしいというのはどこですか?
川面 先生ならではと言うと難しいんですが……見ていて「え、なんで?」と思うのはドラえもんの体の縦線でしょうか。コミックスだけ読んでいたときはスクリーントーンかなと思っていたんですが、あれ、全部手描きなんですよ。それを最初から最後まで貫徹されていらっしゃる。時代の流れに沿って、柄物はスクリーントーンに置き換えたりされているものもあるんですけど、ドラえもんの縦線に関しては一貫してずっと手描き。しかも、コマによってドラえもんの大きさが違ったりしても、縦線の幅は計算して合わせていらっしゃる。そういうところが、知ると「え?」ってなる、面白い部分かなとは感じます。
──どこまでF先生ご自身が線を入れていらっしゃったんでしょうね。
小林順子 ある程度はアシスタントさんが線を引かれていたと思いますけど、やっぱりそれを始められた、それを指示されたというところが画期的ですよね。さっき川面が言ったように、コミックスを読んでいるとドラえもんの体に線が引かれているという印象はないかと思うんです。それが原画のサイズでよくよく見ると、全部の縦線が手で引かれていることがわかる。一度それに気がつくと、縦線の1本1本がきっと気になると思います。
わからないことを見つけよう
──ミュージアムにはお子さんや外国の方もたくさんいらっしゃって、マンガの原画を初めて目の当たりにする方も多いんだろうなと感じました。そういう方に、こういうところを見ると面白いよとアドバイスをいただけませんか。
川面 正直、原画の鑑賞の仕方については人それぞれでいいと思っていて、つい写植を追ってマンガを読んじゃうとか、「これどうやってできているんだろう」と仕組みが気になっちゃうとか、楽しみ方は人それぞれ。でもせっかく原画を見るんだったら、ほかの媒体では見えにくい点を探すと面白いんじゃないでしょうか。印刷に反映されていないところに先生の手描きの文字とかが隠れていたり、写植が剥がれていると先生が鉛筆で書いたセリフの文字を読むこともできます。それから、先生が書かれたわけじゃないですけど、印刷所さんへの指示とか、そういうものも原画ならではの情報ですよね。それこそ写植だって、今ではDTPソフトに置き換わってしまって、ロストテクノロジーみたいなものじゃないですか。原画が残っているということ自体が素晴らしく、貴重な可能性の塊なんじゃないかなと思っています。
小林 初めて見る方は、わからないことを見つけていただくと面白いんじゃないでしょうか。「どうして青鉛筆で塗ったところは印刷に出ていないんだろう?」とか、そんなことでもいいですよね。「なんで?」と思ったとき、それにはこういう理由があるんだ……と知っていただけたら、「じゃあこれは?」みたいに、興味や知識がどんどんつながっていくのかなって。1枚だけでもじっくり見て、「なんでだろう」という部分を見つけていただけたら、“本物”を見た意味が出てくるんじゃないでしょうか。そういうきっかけになればいいですよね。
注目は「バイバイン」と“オチ”
──この記事を読んだ人に、今ミュージアムで展示されている中で「この1枚に注目してほしい」という原画を選ぶとしたら?
川面 この質問はすごく悩んで、事前に質問案をいただいた後、小林とも相談したんですが、「ドラえもん」のエピソードの1つ、「バイバイン」を推させていただこうかと思います。「バイバイン」は、お話を知っていても、原画をちゃんとご覧になったことがある方は、多くないんじゃないかと思っていて。この原画は一色の墨塗りで、それ自体も珍しいことなんです。
小林 薄墨が使われているんです。普段は黒いインクで、ドラえもんの体の青いところは縦線を引いたりトーンを使ったりされているんですけど、「バイバイン」に関してはカラー原稿のように、ドラえもんの体は薄めた墨でグレーに塗られている。くりまんじゅうのグラデーションもそうやって表現されています。
──(公式図録を見ながら)本当だ、「バイバイン」だとドラえもんも縦線じゃないんですね。「バイバイン」は人気エピソードですし、展示自体は過去にもきっと、何度もされていますよね。
小林 そうですね、何度かあります。カフェのメニューになったこともありました。おかわりすると、そのたびにくりまんじゅうの数が倍になって出てくるんです(笑)。
川面 ご質問が「1枚」というお題だったので、こういう回答にさせていただいたんですが、今回の特別展は短編作品をテーマにしたものなので、ぜひオチのコマの比較もして楽しんでほしいです。オチのコマって、1話の中で最も情報量が詰まったコマだと思っていまして。
小林 のび太がいて、ドラえもんが横で何か言っていて、その後ろでジャイアンたちがひどい目に遭っていて……とか、3つくらいの状況が1コマにポンと入っている。なぜこれが1コマで、全部動きが読めて、理解できるのかしらって不思議です。自分が描くとしても──もちろん私は素人なんですが、こんなまとめ方できないって思ってしまうくらい、すごいテクニックなのかなって。先生の一種の才能、特長の1つなんじゃないかと思います。
川面 どこを見てほしいか、2人で話したらここは一致しましたよね。ぜひオチのコマに注目して鑑賞してほしいと。今回の特別展のように、たくさんの短編作品のオチを比較しながらご覧いただける機会もなかなかないと思います。最後が大ゴマなことも多いですので、ぜひオチのコマを見て、こういうオチになった要因に浸っていただけたらうれしいです。
※ちなみに「バイバイン」はてんとう虫コミックスだと17巻に収録されている。持参して、印刷されたものと原画を見比べても楽しいだろう。
「ひみつ道具展」はどう生まれた?
──今、企画展のスペースでは、「ドラえもん」のひみつ道具に着目した原画展が開催中です。あらゆるエピソードの原画が、「テストで0点とりたくない!」「おやつをもっと食べたい!」といった“のぞみ”別に並んでいて、面白い切り口だなと感じました。普段、どんなふうに企画を考えていらっしゃるのですか。
川面 ミュージアムの方針と学芸の意図と、包括的に考えることが多いです。作品やキャラクターが周年を迎えるタイミングであったり、映画に原作があるので盛り上げましょうとか、そういうことがあれば学芸も一緒になって準備していきます。今回に関してはミュージアムの15周年なので、皆さんに注目していただける機会でもありますし、先生のライフワークである「ドラえもん」、その短編をテーマに据えようと考えました。大長編はカラーや扉絵とかもすごく充実していて、美術展として華やかにはなるんですが、「ドラえもん」って短編も面白いですし、原画もきれいで、コマの密度とか情報量とかも、すごく面白いんですね。なので今回は短編にしぼって見てもらいたいと思ったというのが、企画の始まりになりますね。
──短編作品を見せたいというのが入り口で、「じゃあひみつ道具に着目したらいいんじゃないか」というふうに進んでいった?
川面 そうですね。わかりやすさ、親しみやすさというのは必要なので。それを考えたときに、ひみつ道具というテーマはいいんじゃないかということになって、企画が固まっていきました。
──そうして決まったテーマに合わせて、たくさんの原画の中から、展示するものを選定していかれた、と。なるほど、そういう順番なんですね。先ほども原画展を拝見していて、「ジャイアンのリサイタルを阻止するエピソードがこんなにあるんだ!」と驚いたりしました(笑)。
川面 そうなんです(笑)。たくさんの原画をチェックしていると、これも見てほしい、こんな展示はできないかといろいろなアイデアが積もっていきます。アカデミックな展示をしたいなって考えることもあるんですけど、なかなか難しい。たくさんのお客さんに観ていただくためには、やっぱり間口も広くしなければなりません。ですので楽しそうなテーマとか、そういう切り口から考えていく展示が多いですね。
“本物”を見ていただきたい
川面 実は常設展の部屋も、展示する原画を定期的に入れ替えているんですよ。
──そうなんですね。私も先ほど館内を巡らせてもらったとき、前回来たときにはなかったものもあるなと思いながら拝見しました。
川面 ケース展示の中は、展示する期間が長いのもあってほとんど複製原画なのですが、その代わり、両方の壁にある扉絵コーナーと1話読みコーナーは、定期的に展示原画を入れ替えるようにしています。展示する期間や、それを原画にするか、複製原画にするかどうかなどは、劣化の防止のためにある程度プランニングをしていて。特に劣化しやすいのはカラー原画になりますので、カラー原画を展示するときは複製原画を準備して、展示期間を綿密に管理しています。
──カラーはやはり退色が激しいんですね。具体的に、どれくらいの期間なら大丈夫とかあるんでしょうか。
小林 それが、はっきりしたことがわからないんです。ですので、例えば3カ月展示したいとなったら、半分くらいで入れ替えるか、1カ月目と3カ月目は複製にしようとか、そうやって管理しています。ただ、やはり複製原画ではなく“本物”もちゃんと見ていただけるようにしたいので、その期間が重ならないように順番を調整しています。「このフロア、全部複製原画だな」とはならないように……。
──どのくらい劣化してしまうのかはわからないけれど、本物を見ていただくことにはこだわっていらっしゃると。
小林 ええ。ただ、先生が使われているカラーの主な画材は水彩絵の具ですので、カラーインクとかに比べるとまだ少し、退色の度合いは低いかなと思っています。あと、先生ご自身が持ってらっしゃった期間の保管状態がすごくよかったみたいなんです。カビが生えたり、曲がったりという状態のものがほとんどない。仕事場をご自宅と分けていらっしゃったので、原画の管理もしっかりされていたんだろうなと思います。それもあって、非常にいい状態で残っているものがたくさんありますが、これから展示する行為を重ねることで、どれくらい劣化していくかというのは未知数なんです。
何度も来れる、何度来ても発見がある
──このミュージアムが期間限定のマンガ原画展と違うのは、常設展があって、「ドラえもん」に限らずF先生のいろいろなものはお見せしたうえで、別のことができるという点にあるのかなとも思っていたのですが。
川面 もちろん、念頭には置いていますね。私が入社した当時は常設展のエリアで「ドラえもん50周年展」をやっていたので、思い切って企画展のほうは「SF短編」がメインの展示をやってみたりしていました。知名度としては「ドラえもん」が圧倒的な部分もありますので、「思ったより知っている作品が少ないな」では、せっかく足を運んでいただいたお客さんが残念に感じてしまうかもしれない。私たちは、「知らなかったけど、この作品も面白いな」という気づきを得てもらうことを目標にはしているんですけど、そのためには来館していただく必要があるし、来たときに少しでもがっかりさせない、楽しんでいただくためには、人気の作品を揃えたりするのは大切だと思っているので、企画展と常設展はセットで考えています。
──「何度も足を運べる」というのも、ミュージアムであるということの魅力かなと感じました。
川面 ミュージアムが建って15年経ちますが、常設展も数年単位で入れ替えています。「まんがができるまで」とか、「先生の部屋」とか、そういう核となる部分以外は更新していっているんですね。今ですと、みんなのひろばに「のび太の家」の模型があるんですが、実はのび太の部屋に掛けてあるカレンダーって毎月変わっているんですよ。そういうちょっとした変化も楽しんでいただけると思います。
──そうなんですか。以前来たときは風鈴や金魚鉢もなかったような気がしていたのですが、あれも夏仕様だったんですね。
川面 企画展についても、会期を分けてまったく違う原画を展示していますし、先ほど小林が説明したように、劣化防止のため原画と複製原画を入れ替えたりしていますので、同じ会期中でも、1カ月前に複製だったものが数カ月後には本物が見られたりします。常設展エリアの壁の展示もそうですね。TVアニメの「ドラえもん」で観たひみつ道具と同じ原画が見られたら面白いかなと、連動させて掛けかえてみたり。そうやって柔軟に考えていますね。そのほかにも、最後にあるケース──今は「海底鬼岩城」関係のものを展示しているんですが、そこもいろんなものを見ていただける展示スペースにしています。
原画の高さは“129.3cm”
──開館15年という節目のタイミングでもありますが、開館当初から何か変化はありましたか?
小林 原画の見せ方自体は、実はそんなに変わっていません。今でこそ、美術館で原画が展示される機会というのも多くなったと思うのですが、ここが建った頃はまだそのはしりだったんじゃないでしょうか。“ミュージアム”という名称ですけど、私たちはファンの方にマンガ原画の“美術館”というスタイルで、原画を見ていただきたい。原画は先生のお仕事の証として、気軽に、でも美術館という特別な空間で鑑賞していただきたいと思うんです。一方で、先生の作品自体が親しみやすくて楽しいものなので、そこをぐっとシリアスにしすぎないということも心がけています。原画を飾る高さも、一段掛けのところは額の中心がドラえもんの身長、つまり129.3cmになるようにしています。ドラえもんの身長って、先生が執筆されていた頃の小学4年生の平均的な身長なんですが、マンガを読んでいただいている、のび太くんと同じくらいのお子さんの視線のど真ん中になる。そういう意図があります。
──そんな隠し要素もあるんですね。
小林 はい。そして原画がやっぱり主役でいてほしい。例えばキャラクターのどアップを壁にプリントしたり、大ゴマを壁いっぱいに伸ばしたり……。そういう演出をしてもいいんですが、そうしますと皆さん目がそっちにいってしまうので、原画とじっくり対話する時間というのが短くなってしまうかなって。そういう思いがあって、原画の周りには目を引きすぎるものは置かないようにしています。キャプションと、コーナーサインとか、それくらいで留めて、あまり奇抜な演出をしすぎない。原画のほうに集中していただく。同じような意図で、開館当初から、音声ガイドを無料で提供しています。今は少し時代が変わって、ご自身のスマホでも無料で聞けるようにもなりました。キャプションの文字に集中して原画を眺める時間が減ってしまうのはもったいないので、説明は耳で聞いていただいて、目は原画をゆっくりご覧いただきたい。キャプションの文字もなるべく少なくしようと、そんな方針を取っておりまして、15年間ほとんど変わっていないかなと思います。展示室I(常設展のエリア)だけちょっと文字が多いんですけど、「ドラえもん50周年」のときがちょうどコロナ禍まっただ中でして、一時期音声ガイドの貸し出しを休止していたんですね。それでガイドがなくてもご説明できるよう、開館当初よりテキストの量がかなり増えまして……。その余波もあって、あそこは文字が多めに残ってます。でも、基本的には目は原画だけを楽しんでいただいて、最低限の説明は音声ガイドで聞いていただけたら十分かなって思っています。せっかくここにいらしたなら、画像ではない、本物の原画の空気感を感じていただけたらうれしい。そういった方針は変わらずですね。
──「変化があった」というよりも、15年それを守ってきたというほうが大きいでしょうか。
小林 そうですね。ちょっとずつ変化はしていますし、これくらいの演出ならいいかなというトライアルも少しずつ入れてはいっています。そういうところは何度も足を運んでくださっている方は感じてくださっているかもしれませんね。
子供にはどう楽しんでほしい?
──先ほども少し触れましたが、このミュージアムは常設展に「まんがができるまで」があったりして、初めて原画に触れる人にも親切な設計だなと感じています。改めて、お子さんにはこんなふうに楽しんでほしい、こんなところを見てほしいという場所があればお聞きできますか。
川面 やっぱりお父さんお母さんに連れられて来るような小さいお子さんは、まだ原画にはあまり興味がないのが正直なところと言いますか……。そこまでリアクションはなく、だいたい「早く次に行こうよ」と親御さんの手を引いて、親御さんはもっと原画を見たかったけど仕方ない、しょうがないと連れられていくパターンが多いようですね(笑)。でも、当館の展示室もそうですが、美術館ってほかと違う独特の雰囲気があるじゃないですか。ちょっと暗くて、静かで、なんだかみんな真面目に絵を見ているみたいな。そういう空間を初めて体験するお子さんもいらっしゃると思うんです。だから、理解できなくても、初めて美術館を体験していただくのが当館だといいなという思いもあります。ドラえもんがいたなとか、ちょっと不思議な雰囲気だったなとか、少しでも楽しい思い出として残ってくれれば、「あそこもう一回行ってみようかな」とか、「あの作品なんだったかな」と思ってもらう機会になると思います。
──なるほど。
川面 マンガの内容をある程度理解できるようになっているお子さんですと、いろいろとパターンが分かれてきますね。原画をマンガとして楽しんで笑っている子もいれば、1枚の絵をじっと見つめている子もいます。親御さんがもともと先生の作品をお好きで、きっとおうちに本があるんでしょうね、「Uボーだ!」みたいに、「よく知ってるね!?」とこちらが驚いてしまうようなお子さんも意外といらっしゃるんです。
──後ろからそっと見守ってらっしゃったりもするんですか。
小林 ありますね。どういうところを見ているのかなと、こちらも気になっているので。
──きっとお子さんは大人と見方も違いますよね。
川面 大人の方になりますと、最初の「ごあいさつ」も含めて企画展示のテーマをしっかりと楽しんでいただける方もいらっしゃって、アンケートとかでご感想をいただけると励みになります。どうしても作品とかキャラクターとかが親しみやすいですし、間口としては広く、とてもいいものではあるんですけど、展示の根底としては、それを生み出した先生ってすごいんですよってことを伝えたいと常に思っていますので、その意図を展示から汲み取っていただけると、学芸としては「ああ、よかったな」と思いますね。
原画からマンガへ、そしてまた原画へ
──原画の展示を通して来場者に伝えたいことは。
川面 それは本当にシンプルで、藤子・F・不二雄先生のマンガってすごく面白いんだよってことです。そして皆さん、そんなマンガを自然に受け入れていらっしゃるかも知れないですけど、それを描いた先生って実はすごいんですよってことですね。それを、原画を通して知っていただく、感じていただくということを常に考えています。お子さんであれば、原画を読んで続きが気になって、マンガを手に取っていただいて、マンガ自体に親しんでいただければそれもうれしいですし、いろいろこだわりとか思いとか、小分けにすればたくさんあるんですけど……。やっぱりここのマンガは面白いですし、先生はすごいですし原画もすごいですよということをお伝えできるのが一番かなと思っています。
小林 マンガに戻っていく──と言うと語弊があるかもしれませんが、マンガをもう一回読もうかなと思っていただけたら、一番いいのかなって思っているんです。原画は版下だって話もありましたけど、先生が意図した完成品って、印刷物のマンガのほうにあると思うんですよ。ですから、読んで楽しんでいただくのは、本が一番いいんですよね。ですけど、せっかくの原画展示です。それを描いた先生にも思いを馳せる、そういったツールの1つにしていただいたら、先生のお仕事、その量や熱量含めてですね、「すごいな」と感じ取っていただけるのかなって期待しています。
──原画を見て、またマンガを読んで、そしてまた原画を見たくなると(笑)。そう思ったとき、いつでもF先生の作品に会いに来られるというのが、読者としてはうれしいです。
川面 先生はマンガを通して良質の娯楽を提供したいと思っていらした、というインタビューの記録があるんですけど、マンガを読んで純粋に面白いと評価されることが一番で、こうやって原画が展示されることってあまり想定されていなかったと思うんです。やっぱりマンガを好きになっていただくということが、先生を好きになっていただくことの原点ではあると思いますので、それを私たちは原画を通してやっていこうと考えています。先生を好きになった方は、原画を見て感動するんじゃないでしょうか。そういういい循環を生み出していければいいなと思っています。
「藤子・F・不二雄ミュージアム 開館15周年記念 ドラえも~ん! 願いをかなえるひみつ道具展」
期間:2026年7月1日(水)~2027年6月20日(日)※予定
前期 2026年7月1日(水)~2027年1月17日(日)、後期 2027年1月23日(土)~6月20日(日)※予定
会場:川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム 展示室II
住所:神奈川県川崎市多摩区長尾2-8-1