雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第14回では2026年7月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
ヤンマガが一番得意なジャンルの作品
とり 私はヤンマガで始まった「蟻と蜂」がマジで面白くて。一気に3話まで読んじゃいました。
くろねこ ヤンマガが一番得意なジャンルの作品って感じがしますよね。
とり 父親が実は殺し屋っていうのはなんとなく予想ついたんですけど、息子が対立する相手だとは思わなかったので、え?息子と父親が戦う話なの?って驚いて。あと息子のふざけたセリフとかもけっこう好きで。ギャグもありつつ、殺し屋のブラックなところも描かれていて、その甘じょっぱさが病みつきになる感じで面白かったです。
りす 父親が、殺し屋を引退しようとしたら引き止められるのだけど「私がその気になれば、この組の人間を1日で全滅させる事ができる」って言ってたじゃないですか。だったら、運命のイタズラで息子と戦うようなことになってもその瞬間に組織を見限ってしまえばいい気がしたんですよね。それで組織から報復を受けるようなことになっても、息子と手を取り合って組織を壊滅させれば済む話だなって、読みながら思いました(笑)。
くろねこ 父子の対決自体がテーマなのかなと思いましたけどね。
りす この父親は組織よりも家族を取りそうだなと思って。
くろねこ 確かに父親はそうかもしれないけど、息子はそういうタイプじゃなさそうなんですよね。そこが面白そうだなと思って。
とり 私は口が悪いだけで、家族愛のある息子だと思って読んでました(笑)。
くろねこ まだどうなるかわからないですけど、私は息子が曲者っぽいなと思いながら読んでます。
うさぎ 殺し方が乱暴というか、狂気がありそうですよね。
りす ターゲットが父親って知らないまま戦うことになって、最後の最後でお互いに気がついて、そっから手を取り合って組織を壊滅させる絵が見たいですけど。でもどっちに転んでも、1話でこれだけ話が盛り上がるんだから、面白い作品なのは間違いないですね。
「チー付与」の業務用餅が描くオリジナルの少年マンガ
くろねこ 「チー付与」の業務用餅さんのオリジナル新連載「武者嶽園」も始まりましたね。相変わらずギャグに独特さがありますけど、意外と王道の少年マンガなのかなと思いました。
りす 今のところ「チー付与」ほど荒唐無稽なギャグは出てこないですけどね。むしろコミカライズの「チー付与」のほうがのびのびして見えるのはなんでだろう(笑)。
うさぎ 普通に少年マンガっぽい話にもできるのに、ギャグをねじ込んできている感じを少し受けました。
くろねこ 「チー付与」のイメージが強すぎるのかもしれない。絵の雰囲気は意識的に少年マンガっぽくしてるような気もします。
うさぎ 「チー付与」も最初の頃はさっぱりしてましたよね。絵が。
くろねこ 純粋に画力が上がったのかもしれない。
りす 業務用餅さんに限らず、やっぱりマンガって描き続けてるとうまくなるんでしょうね。連載してたら月に何十枚も描くわけですから。ほかの作品でも、連載最初の頃と10巻ぐらいの絵を見ると全然違ったりしますし。そんなに画力推しみたいな作品じゃなかったはずなのに、気づいたらめちゃめちゃ絵に迫力があるマンガになってるなんてこともありますよね。
くろねこ でもこの方、本当に何者なんでしょうか。突然出てきましたよね。
りす 業務用餅っていう名前でめちゃめちゃ絵がうまくて面白いから、絶対誰かの変名だと思ったんですよ。でも過去の経歴があったら、多分特定班が特定していると思うんですよね。同人とかやってた人なのかな?
くろねこ 本当に謎が多いですね。
自分が歳を重ねたときに考えるであろうことが描かれてる
とり おざわゆきさんの「あたしにオテロを踊らせてごらん」もとてもよかったです。マンガとしても面白いんですけど、いずれ自分が年を重ねたときに考えるであろうことが描かれていて、学びになりました。ダンスと出会って心が輝いていく、みたいな描写も生き生きしててよかったです。
りす 持ち物を処分するシーンが出てくるじゃないですか。あれは読みながら、自分も好きなものをいつまで集めるんだろうとか、思い入れだけで残してあるものっていつまで取っておくんだろうって思いましたね。処分したら元気がなくなっちゃった、みたいなシーンも共感できるし、その描き方もうまいなと思いました。
うさぎ 全体的にリアルですよね。いい暮らしをしているおばあちゃんの配信者が出てきますけど、実際にああいう配信をしている人いますから。
りす ああいう人たちって動画ではいいところだけ見せて憧れさせるけど、その責任は取ってくれない。みんながそういうふうには生きられないので。
とり 今の自分にはまだ想像がつかないですけど、親友が施設に入る話もそうだよなと思って。歳を重ねていったら友達が施設に入ったり、突然亡くなったりとかあるだろうし。そういう今の歳では考えつかなかったようなことに気づかされました。
りす でもダンスと出会って、まだまだ人生はこれからっていうマンガなんですよね、きっと。
とり そうですね。ダンスに生きがいを見出していく感じになるのかなと。
りす 自分が70代になったときに、この主人公みたいに新しいことができる気がしないから、今仕事で忙しくてももっといろいろやろうかな、みたいな気持ちになりました。
山本英夫の新作「酔拳JAPAN」は独特な味
とり 「酔拳JAPAN」は独特な味のマンガだなって思いながら読みました。
ぞう 山本英夫さんは、元々ほかとは違う感覚のマンガを描かれる人ですよね。
とり いい意味で始まりから気持ち悪い感じがあって、癖になりますね。
ぞう ほかの作品よりちょっとマイルドだけど、相変わらず痛そうな絵を描きますよね。単純に殴るとか蹴るみたいな暴力描写はそんなにないんですけど、いちいち全部痛そうで、何を食べたらこんな絵を思いつくんだろう?って思います(笑)。
りす じっくり描いてますよね。今時のマンガだったら居酒屋の話は1話で終わらせて、主人公がいろんなところに行く話になりそうなのに。ずっとYouTuberがしゃべっているところが描かれていて、主人公らしき酔拳の人はずっと飲んでいるだけ(笑)。
ぞう 酔拳の人はお酒飲んでないときはただのサラリーマンっぽくって、彼がお酒の席で起こるトラブルを解決していく話なのかなと。でもその記憶がないから自分が何をしたのかわからないみたいな。話がまだ進んでないので、もっと違う内容になるかもしれません。バトルマンガとか(笑)。そういう意味でも気になるマンガです。
モキュメンタリーやJホラーのコミカライズもまだまだ多い
くろねこ 押見修造さんの「口に関するアンケート」のコミカライズもありました。短期連載だったようで、もう連載は終わって単行本も出てますが。
りす 最近、モキュメンタリーとかJホラーのコミカライズ多いですよね。日本のホラーの小説が人気で、そのブームがマンガにも来ている。この「口に関するアンケート」や「近畿地方のある場所について」も映画化もされてるし、原作の背筋さんはJホラーブームの最前線の人だと思うんですけど。みんなが今好きなのはこういうホラーなんだなって思いながら読みました。
くろねこ 以前は「リング」とか「らせん」みたいな、いわゆるお化けみたいなのを扱うのがJホラーでしたよね。でも最近のJホラーはモキュメンタリーとか田舎の過疎地が舞台の話が主流なイメージです。
りす 呪いの手紙とか呪いのビデオもモキュメンタリーに近いから、その系譜として直系な感じがしますけどね。
くろねこ 確かに。都市伝説とかもそれに近いですね。
りす 「口に関するアンケート」の原作小説って、書店とかで売ってるの見たことあります? 豆本くらいの、すごいちっちゃいサイズで。あの見た目がまず興味を引きますよね。
くろねこ それも最近のJホラーの傾向じゃないですか。装丁とかデザインに凝って、ギミックも含めて楽しむみたいな。色つけて装丁を工夫して怖さを演出したり、あえて新聞紙みたいなガサガサの紙を混ぜたり。
りす 売れてるからそういう遊びを受け入れてくれる土壌があるのかも。読書体験的にもそのほうが面白いですよね。今は電子のほうが売れるっていうけど、そんな中でも紙で買いたくなる本が作れるのはすごいな。
くろねこ それだけ紙で買うっていう人がいるってことですもんね。
森薫が審査員を務めた四季賞受賞作、石田祐康監督の読み切りも
くろねこ 前回に続いて読み切りの話になりますけど、四季賞の「SAVIORmetrics」が好きでした。普通の学園ラブコメと見せかけて、しっかり野球マンガだった。
とり 安易に恋愛とかラブコメ方面に行かなかったのが個人的によかったポイントでした。全部が全部恋に進む必要もないし、名前のない関係値だってあるだろうしなと思って。
りす 野球部の子が試合で守備をミスしたのがトラウマになってて、練習試合で同じ場面になってこっちに来なくてよかったって一瞬思うんだけど、やっぱり向き合わなきゃってなるシーンは、読んでて「お!」って思いましたね。
くろねこ 悩みと健全に向き合ってる感じがしますよね。トラウマとかを扱うと落ちていく方向の描写に行きがちだけど、ちゃんと自力で克服するところまで描かれてる。
うさぎ 天真爛漫でいろいろできちゃう女の子と、実はトラウマを抱えてる男の子が、お互いに歩み寄って問題が解決して1歩進むみたいなところは、「スキップとローファー」っぽさも感じました。そこの読み味がさわやかでよかったです。
くろねこ 今期の四季賞は、審査員が森薫さんなんですよね。森薫さんが選んだなと思いながら読むと、余計味わい深いです(笑)。
りす 野球マンガとか高校生っていうテーマが、いわゆる“森薫”のイメージとは離れているなと思ってて、そこも読んでて面白かった。同じく読み切りですが、「ペンギン・ハイウェイ」の石田祐康監督が描いた「Mooove220km」はどうでした?
とり 最高でした。めっちゃ好きです。
りす 読みながらやっぱりアニメっぽいなと思って。このアニメっぽさってなんなんだろう?と思いながら読んでました。
くろねこ 動きが多いからじゃないですかね? 静止画感があんまりないというか。
りす 読みながら、ちょっと紀伊カンナさんのマンガを思い出しました。紀伊さんも元アニメーターでしたよね。アニメーターが描くマンガって、独特の雰囲気があるのかもしれない。このマンガは、パイコミックスの「夏の読み切りマンガ祭り」っていう企画の中の1作みたいですけど、ほかのマンガも面白そうですね。
うさぎ パイ インターナショナルは、もともとはアートレーベル内で、マンガもイラストも、一緒に掲載されていたんですけど、2020年にパイコミックスっていうマンガだけのレーベルが立ち上がったんですよ。そういう経緯もあってか、イラストレーターさんやアニメーターさんなど、普段マンガ描いてない人も登場する機会が多くて、ほかでは読めないようなマンガが読める媒体になってる気がします。
座談会に参加した編集部員
- うさぎ:本文では触れられなかったけど、「あんてぃくうす-古道具屋のメイドさん-」もいいメイド×アンドロイド作品で好きでした。
- くろねこ:「映画ちいかわ」は最高でした。次は「劇場版まじかるちいかわ」が観たい。
- ぞう:「杉雪カコと見たい明日」とっても面白かったです。連載お疲れ様でした。全4巻。オススメです。
- とり:「路傍のフジイ」完結しましたね。じんわりと沁みる物語をありがとうございました。
- りす:「対ありでした。」のアニメを観て、ゲームが強い女の子には夢があるなと思いました。「アーケードゲーマーふぶき」とか。