天下の大将軍を夢見る主人公・信と、中華統一を目指す若き王・嬴政の歩みを壮大なスケールで描く「キングダム」。同作の実写映画第5弾となる「キングダム 魂の決戦」が7月17日に封切られた。「キングダム 魂の決戦」で描かれるのは、原作でも屈指の人気を誇る「合従軍編」。秦国の存亡を懸け、楚、趙、魏、韓、燕、斉の6国からなる“合従軍”と秦の攻防戦が繰り広げられる。
本コラムでは「キングダム 魂の決戦」も含む、これまでに映画化されてきた範囲の原作の名言をコミックナタリー編集部と「キングダム」好きのライターで選定し、各シーンのエピソードとともに解説。骨太なキャラクターたちが放つ名言の数々を通して、これまでのエピソードを復習するのに役立ててほしい。なおコラムでは「キングダム 魂の決戦」内の名言やエピソードについても触れているので、前提知識を入れないで映画を楽しみたい人はご注意を。
※紹介する名言およびエピソードの詳細は原作に準拠しています。
文 / 岸野恵加
1. 漂「お前が羽ばたけば 俺もそこにいる」
(映画「キングダム」 / 原作1巻1話)
戦災孤児となり、厳しい環境でもお互いを鼓舞しながら生きてきた主人公・信と、その相棒の漂。「武功を挙げ、天下最強の大将軍となる」と大きな夢を掲げる2人だが、ある日影武者として王宮へ召し抱えられた漂は、クーデターに巻き込まれてしまう。
なんとか家に帰り着いた漂だが、大量の血を流すほどの致命傷を負っていた。自らの死を悟った漂は、信へ最期の思いを託す。「俺達は力も心も等しい 二人は一心同体だ お前が羽ばたけば、俺もそこにいる」。「キングダム」の物語が進むにつれて信は着実に武功を挙げ、大将軍への道を歩んでいくが、彼の胸の奥には常に漂の存在がある。物語の原点と言えるシーンだ。
2. 嬴政「王ならば“人を生かす”道を拓くために剣をとるべきだ」
(映画「キングダム」 / 原作3巻21話)
実弟・成蟜が起こしたクーデターにより失脚し、玉座奪還の計画を練る秦王・嬴政。成蟜勢力へ立ち向かうには兵力が足りず、山民族の王に協力を仰ぐため、信たちとともに深い山の奥を訪ねた。しかし山の王である楊端和は、遥か昔、秦人に受けたむごい仕打ちについて語り、「祖霊の怨念を鎮めるために 現秦王のそなたの首をはねねばならん」と冷酷に政へと告げる。
政は動じず、祖先の愚行を真摯に謝罪してから、「この問題は根深い 俺一人の首をはねて解決するのは間違い」と持論を展開。王は恨みや憎しみではなく、“人を生かす”道を拓くために剣をとるべきであると説いていく。政が目指すのは、全国境を廃除し、“中華を統一する最初の王”になること。その途方もなく大きな目標が、作中で初めて語られた名シーンである。政が描く中華の理想像を、信もここから一緒に追い求めていく。
3. 麃公「なかなか見事な大炎であったぞ 呉慶!」
(映画「キングダム2」 / 原作7巻72話)
中華統一への第一歩として、隣国の魏へと進攻した秦軍。魏軍総大将の呉慶は、類稀な軍才を兼ね備えた“知略型”の名将だ。対する秦軍総大将は、野生の直感で戦う“本能型”の麃公。麃公は軍の先頭を走り、猛攻を仕掛けていく。ついに呉慶の待つ本陣へ辿り着き、「ようやく会えたのォォ」と不敵に微笑む麃公。一歩も譲らぬ2人の一騎打ちが始まり、過去に母国を滅ぼされた怨念を胸に己を戦へと駆り立てる呉慶を、麃公は「下らん負け犬の感傷だな!!」と一蹴する。
2人は全力でぶつかり合い、ついに麃公は呉慶を討った。麃公は「ここまで儂を苦戦させた知略と 最後に武に走ったその激情 なかなか見事な大炎であったぞ 呉慶!」と、敵であった呉慶を讃える。信にとっても“将軍とは何か”を考えるきっかけを授けられた、大きな意味を持つ一戦であった。ちなみに映画最新作「キングダム 魂の決戦」には、信と麃公が熱く言葉を交わすシーンが登場するので要チェックだ。
4. 紫夏「“月がいつも以上に輝いているのは くじけぬようにはげましてくれているのだ”と」
(映画「キングダム 運命の炎」 / 原作8巻76話)
常に冷静沈着だが、奥に熱い思いを秘めている政。幼き頃の彼に大きな影響を与えたのが、女商人の紫夏だった。少年時代、秦の人質として趙に身を置き、趙人から憎悪に満ちた暴力を受け続けてきた政は、痛みを感じなくなるほどに心を壊してしまっていた。秦王が亡くなり、そんな政を将来の王として秦国へ秘密裏に連れ帰る任務を、紫夏は請け負う。
孤独と絶望の中で心を閉ざし、月を睨んでいた9歳の政に、紫夏が掛けたのがこの言葉だ。紫夏は「苦しみのどん底で見上げる月はいつも以上に美しく輝いて見えます まるで自分をあざけり笑っているかのように」と政の心を代弁するように語りつつ、月が自分を励ましているという言葉を政に贈る。紫夏もまた幼き頃に養父の存在に助けられており、彼に教えてもらった言葉だという。これに政は感銘を受け、しばし月を見つめていた。政は命からがら秦に帰り着くが、その道中で紫夏は追手の攻撃に遭い、命を落としてしまう。政と紫夏のストーリーは、マンガでも映画でも多くの人の涙を誘った。
5. 尾到「みんなお前と一緒に夢を見てェと思ったんだ」
(映画「キングダム 大将軍の帰還」/ 原作14巻148話)
信が隊長を務める秦軍の部隊・飛信隊は、戦いを終えて一息ついていたある夜、突如趙軍総大将・龐煖からの夜襲に遭い、多くの犠牲を出してしまう。龐煖の圧倒的な攻撃に意識を失ってしまった信を連れ、飛信隊の面々はなんとか退却。さらに山の中で奇襲に遭い、尾到・尾平の兄弟は、深傷を負いながらも信を背負って逃げていく。
尾兄弟は信と同じ城戸村の出身で、幼い頃から信を知り、信が初めて伍を作ったときからその一員として信とともに戦ってきた。尾平は敵を撒こうと尾到へ信を託し、尾到は信を守るため、さらに深い山の中へと歩みを進める。ようやく信が意識を取り戻すと、尾到とともに、初めて村で出会った頃の思い出を振り返った。しかしそんな温かい時間もつかの間。自分が助からないことを悟った尾到は、信へと「戦争やってんだ 死人はでるさ」「いいんだよ信 みんなお前と一緒に夢を見てェと思ったんだ それでいいんだ……これからもお前はそうやって 大勢の仲間の思いを乗せて天下の大将軍にかけ上がるんだ」と、心からの思いを伝える。その後「少し眠ろう信 寝れば治る」と信を安心させ、休ませる尾到。しかし信が再度起き上がると、尾到はもう二度と目を覚ますことはなかった。
6. 王騎「命の火と共に消えた彼らの思いが 全て この双肩に重く宿っているのですよ」
(映画「キングダム 大将軍の帰還」/ 原作16巻165話)
9年前の戦で、王騎の妻になるはずだった六将・摎を討った龐煖。因縁に決着をつけるべく、ついに両軍の総大将である王騎と龐煖が対峙した。龐煖を前にすると、「亜っ」と圧倒的な覇気を放つ王騎。9年前に王騎に敗れて屈辱的な思いを抱き、深山で修練に勤しんできた龐煖は、「来い王騎 今の貴様を砕くために我は来た」と気勢を上げる。
目にも止まらぬ速度で、お互いの矛をぶつけ合う王騎と龐煖。己は武の極みに達したと自負していた龐煖だが、王騎の圧倒的な攻撃を受け「なぜに… この男の刃ははじき返すことがかなわぬ程に こうも重い!!」と不可解な表情だ。これに王騎は、「十三の頃より数えきれぬほどの戦場を駆け回り 数万の戦友を失い数十万の敵を葬ってきました 命の火と共に消えた彼らの思いが 全てこの双肩に重く宿っているのですよ もちろん摎の思いもです」「山で一人こもっているあなたには理解できないことでしょうねェ」と、自身の強さの理由を毅然と語る。信も「だから俺らは強くなるし そこを通ってきた将軍ってのは強ェんだ」と頷きながら、自身が目指す将軍像を描いた。
7. 王騎「素質はありますよ 信」
(映画「キングダム 大将軍の帰還」/ 原作16巻172話)
予想だにしなかった李牧軍の突撃を受け、苦境に陥った秦軍。王騎と龐煖の一騎討ちは崩れ、大乱戦の様相を呈す。李牧軍の魏加が放った矢が一瞬の隙を作り、龐煖の矛が王騎の体を貫いてしまった。敗北と自らの死を悟りつつも、配下の兵士を鼓舞し続ける王騎。危篤状態でも龐煖への攻撃の手を緩めず、その気迫に圧倒された龐煖が「貴様は一体 何者だ」と問うと、「ンフフフ 決まっているでしょォ 天下の大将軍ですよ」と凛々しく豪語する。
信が王騎を支えながらともに馬に乗り、なんとか戦線を離脱。王騎は最後の力を振り絞り、騰や蒙武、自身の配下へと、最後の言葉を伝えていく。そして信へは「修業をつけてやる約束でしたね 見ての通り無理になってしまいました」「皆と共に修羅場をくぐりなさい 素質はありますよ 信」と言葉を遺し、愛用の矛を託すと、静かに息を引き取った。多くの読者が悲嘆にくれた王騎の死は、「キングダム」序盤における大きなターニングポイント。王騎に“大将軍”たる素質があると認められた信は、王騎の思いを胸に、将の道を勇ましく駆け上がっていく。
8. 信「間違っても死ぬなよ」
(映画「キングダム 魂の決戦」/ 原作25巻270話)
6国が手を組んだ“合従軍”が秦に侵攻を開始し、秦は絶体絶命のピンチに。なんとしてでも侵略を止めるべく、秦の各将各軍は、これまで一度も破られたことのない秦の国門・函谷関へと集結する。そこで信は、同世代の将でありよきライバルでもある楽華隊の蒙恬、玉鳳隊の王賁と再会。突如直面した国家存亡の危機を蒙恬は嘆くが、信は「これが“戦国”だろ」と、覚悟を決めた表情だ。
自分よりも先に二千将になった王賁に信が「俺はこの戦で三千将になってやるからなァ」と張り合うと、王賁は涼しい顔で「俺は五千将を目指す そうすればもうその上は──“将軍”だ」と返す。この言葉に大いに刺激を受け、さらに奮い立つ信。それぞれの配置に付くために別れる直前、信は「間違っても死ぬなよ」と真顔で伝える。そして無事に戦を終えてから、また一緒に酒を呑むことを約束するのだった。切磋琢磨しながら成長する3人のよき関係性が、よく伝わってくるやりとりだ。
9. 騰「私には中華をまたにかけた大将軍 王騎を傍らで支え続けた自負がある」
(映画「キングダム 魂の決戦」/ 原作26巻283話)
激しさを増す秦と合従軍のぶつかり合い。蒙武・騰が率いる9万の秦の連合軍と、15万の楚軍は、最大規模の戦を展開していた。楚軍第一軍の将である臨武君は「この俺とまともに戦いたかったらあの六将王騎でも墓から引っ張り出してくるべきだったなァ」と、秦軍に屈辱的な言葉を浴びせる。そこへ“ファルファルファル”とお決まりの効果音を発しながら、自ら打って出る騰。激しい競争をかいくぐってきた叩き上げの将・臨武君を、最初から圧倒していく。
騰は副官として、誰よりも長く王騎のそばでともに戦ってきた。臨武君が「なぜ俺の力が通じぬ」「たかが王騎の傘の下で戦ってきただけの男に」と顔をしかめると、騰は「お前は修羅場をくぐってきた己の力に絶対の自信があるのだろうが 私には中華をまたにかけた大将軍王騎を傍らで支え続けた自負がある」と断言し、軽々と臨武君を斬る。王騎と騰の偉大さ、そして2人の絆の強さに胸を打たれるシーンだ。
10. 信「てめェの痛みはしょってってやる」
(映画「キングダム 魂の決戦」/ 原作27巻287話)
かつて趙と秦の間で勃発した“長平の戦い”。当時秦の将軍・白起は、投降した趙の兵40万人を、残酷にも生き埋めにした。趙の将軍・万極はこの虐殺から生き延びた過去を持ち、家族を惨殺されたことから、秦への根深い恨みを抱いている。そして彼のもとに集った兵士たちも“長平の戦い”の遺族・遺児のみで構成されており、深い怨念に包まれていた。
「全員一人残らず地の底に沈めてやる」と目を血走らせて豪語する万極へ、複雑な思いを抱えながらも対峙する信。彼は怨嗟の渦の中にある万極へ「お前にはたまたまそこから引き上げる人間が周りにいなかっただけだ」「分かってんのか万極 一番呪われちまったのはお前自身なんだぞ」と同情するような言葉を送りつつ、「てめェの痛みはしょってってやる」と度量の広さを見せながら、勢いよく剣を振りかざす。
なお映画最新作「キングダム 魂の決戦」において、この信と万極の戦いは大きな山場として描かれている。信役の山﨑賢人と万極役の山田裕貴の気迫に満ちた“魂の決戦”を、ぜひスクリーンで見届けてほしい。
映画「キングダム 魂の決戦」あらすじ・解説
馬陽の戦いで王騎(演:大沢たかお)を失ってから3年。飛信隊の隊長として千人将に昇格した信(演:山﨑賢人)と、秦国の若き王・嬴政(演:吉沢亮)のもとに、六国が手を組んだ合従軍が侵攻を開始したという急報が届く。趙国の宰相・李牧(演:小栗旬)の策略により、総数50万の圧倒的兵力が秦の国門である函谷関へと迫り、秦国は絶体絶命の危機に陥るのだった。信は同世代の若き将である楽華隊・蒙恬(演:志尊淳)、玉鳳隊・王賁(演:神尾楓珠)とともに戦場へ。函谷関には麃公(演:豊川悦司)、桓騎(演:坂口憲二)、王翦(演:谷田歩)、蒙武(演:平山祐介)、騰(演:要潤)、蒙驁(演:坂東彌十郎)、張唐(演:橋本さとし)ら秦国を代表する将軍たちが集結していた。国の存亡を懸けた運命の決戦が始まる。
(c)原泰久/集英社 (c)2026映画「キングダム」製作委員会