雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第12回では2026年5月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
ありそうであまりなかった、美術館の裏側を描くお仕事マンガ
うさぎ モーニング(講談社)の新連載「白眉の司」がすごく面白かったです。
くろねこ かなり話題になってましたね。美術館の学芸員の話って、ありそうであまりないですし。最近だと「税金で買った本」も人気ですが、商売とは少し違った文化的なお仕事マンガというところで、通じるものがあるのかも。
りす 人が来ない美術館とか博物館を潰そうみたいな話題が気になっていたので、タイムリーなテーマだなと思いました。人が来ないところは予算縮小の傾向にあって、クラウドファンディングでお金を集めるみたいなのもよく目にしますよね。
うさぎ 主人公がアルビノだという設定も興味深かったですね。光過敏だから、普通に飾られているものは全部眩しく見えてしまって、距離を取ってしまっていた。そんな彼が、“陰”の中で見る美術品の美しさに惹かれるシーンは、読んでいてゾクッとしました。
とり 最後のほうの見開きですよね。最初はけっこうギャグ寄りの作品なのかなと思ってたところで、あの見開きがすごい鳥肌もので。見せ方もすごくうまいなと思いました。
りす 主人公が最初に感じていた、美術館は居心地が悪いみたいな気持ちもわからなくはないですよね。見方がわからないと、ただ絵がいっぱいあるなとしか思えないから。コミックナタリーで掲載している「マンガ原画展の歩き方」ともちょっと通じる話ですね。
とり あと先輩のキャラがすごい強くて、今後もこういう面白い先輩とか後輩が出てくるのかなって思ったら、めっちゃ楽しみです。
くろねこ 美術が好きすぎて仕事にしてるぐらいの人だから変わった人が多そうだし、今後も癖がある登場人物が出てきそうだなって期待しちゃいます。
りす 先輩のキャラはすごい誇張されてて、いかにも変人って感じで描かれてるけど、お仕事マンガだから現実に即してる部分もあって。そのバランスがいい。変わり者ではあるのだろうけど、やっぱりコミュ力が大事みたいな話が作中でも出てくるじゃないですか。展示するってことは物を借りたり展示のための場所を確保したりするわけで、ただ変人ではやっていけないだろうし。そういう部分もちゃんと描かれてるのがいいですね。
ギャップが惹きつける、ヒーラーかと思ったら狂戦士だった話
うさぎ 話題という意味では、「オーバーヒール ヒーラーかと思ったら狂戦士だった件」も面白かったです。コミナタの週間アクセスランキングでも1位になっていました。記事のメイン画像を、扉ページじゃなくて見開きにしたのがよかったのかな? 扉ページは主人公の子がかわいい印象なんだけど、見開きは凶悪さが前面に出ていて、インパクトがあったのかな、という気がしました。
りす 記事のメイン画像って、カラーカットとかキービジュアルに当たるものがあればそれを使うことが多いと思うんですけど。「オーバーヒール」の紹介をするなら、まず見せたいのはあの場面ですよね。見た瞬間にヒーラーがめちゃめちゃマッドなことがわかる。主人公がわかりやすく狂気を帯びていたり、ヒーラーなのに暴力的だったり、そういうギャップがあるキャラが人を惹きつけますよね。
とり 私も絵がけっこう好きだなと思って。全体的に濃厚な絵ですけど、読みやすくて。
りす さすがゴラクが好きなとりさん。こういう濃い絵が好きなのか。
とり 親しみがありました(笑)。けっこうグロかったですけど。
りす テーマ的に壊しても直せるっていうとこが重要なので、ちゃんとグロいところはグロく描くことで、「直せるから壊す」っていう設定が生かされていますよね。
雑誌の作者コメントやあらすじスペース、なくなっていく文化なのかも
りす 奥田亜紀子さんの「余白」は、企業の公式Webサイトっていうちょっと変わった媒体での連載。マンガ雑誌の新連載は毎号読んでたら自然と目に入るけど、こういうマンガが載らなさそうな場所でいきなり新連載が始まるから油断ならないですよね。
うさぎ Webだからカラーを使えるのがいいですよね。第1話は黄色、第2話は青がアクセントになっていて。僕は読書家の少年が主人公の第2話がすごくよかったです。好きだった女の子が天文好きだったから、彼女の借りた本をマネして読んでいるうちにいつの間にか宇宙に詳しくなって、気がついたらプラネタリウムの解説員になっていたという話なんだけど。
りす 「余白」っていうわかりづらいテーマではあるんだけど、日常の中のちょっとしたブランクスペース的な作品。単行本になるんですかね?
うさぎ マンガ本編が1話ごとに1、2……10コマ。ページ割りにもよるでしょうけど、だいぶかかりそうじゃないですか?
りす 月に2本ペースで1年連載予定って予告されてますね。電子でもいいからまとまってほしいですけど。電子ならカラーがそのまま使えるだろうし。
うさぎ 毎話、最後に一言コラムがついているから、これを1ページ使って載せてもいいかもしれない。
りす 一言といえば、雑誌の奥付の作者コメントって読んでます? 子供の頃は楽しく読んでいたのだけど、もう最近は熱心に読まなくなっちゃったなと思って。昔は作者の言葉が読めるところって貴重でしたよね。今はXとかSNSで作者が個人でいくらでも発信できる時代だし、ああいうコメント欄ってもしかしてなくなっていく文化なのかもって思ったんですよね。
くろねこ コメントもそうですし、あらすじも減りましたよね。昔は少女マンガだと1ページ目に1/3ぐらいの大きさで、登場人物の相関図と前回のあらすじが絶対入ってたじゃないですか。
とり 確かに。あと昔の少女マンガの単行本は左側のページにも枠が設けられていて、作者のコメントとか落描きが載っていたり。
くろねこ そうそう。雑誌ではおたよりコーナーとか広告とかなんですよね。単行本になるとそこにコマを増やしたり、描き下ろしのイラストを入れたりするんですけど。それが楽しみで単行本を買ってたから、減っちゃうの悲しいなと思って。
りす 「こんにちはー!」みたいなテンション高い感じで、好きな音楽のこととか近況報告みたいなのを書いてる長細い枠ですよね。言われるまで気にしたことなかったけど、確かに減ったかも。あれって、もしかして少女マンガの文化ですか? 少年マンガの単行本では、あまり見た記憶ないかも。
うさぎ 少年マンガも、昔は単行本の冒頭に必ずあらすじや登場人物紹介があった印象ですけど、それも最近なくなってきてる気がしますね。
くろねこ なんかだいぶ話がそれましたね。
りす こういう話をする時間も、日常の中に生まれる「余白」ですね。
うさぎ うまくつながった(笑)。
「刃牙」なのに「浦安」っぽい、独歩のグルメスピンオフ
うさぎ 「バキ外伝 独歩-独り飲み喰い歩き-」は読みましたか? 「刃牙」なのに、なんでこんなに「浦安」っぽいんだろう?と思ったら、「浦安鉄筋家族」の浜岡賢次さんがネーム原作をやっていて、想像してたのと違う感じでびっくりしました。絵を描いてるのは「バキ外伝 ガイアとシコルスキー~ときどきノムラ二人だけど三人暮らし~」の人で、さすが独歩の絵は上手なんだけど。
とり それに言及したポストがバズってて、めっちゃ面白かったです。
くろねこ 私は「刃牙」のことあまり詳しくないんですけど、「カイジ」のスピンオフに近い感じなのかな、と思いました。「トネガワ」とか「ハンチョウ」みたいに、本編と関係なく独立して楽しめるタイプの作品というか。
うさぎ 「ハンチョウ」はまさに成功例ですけど、スピンオフが本編を食うぐらい人気になった作品ってなかなかないですよ。
りす キャラクターが立ってて単独のスピンオフが作れるのはすごいことですね。キャラ崩壊のことも気にしなくていいくらいまで作品が認知されている。
うさぎ 「刃牙」外伝には「烈海王は異世界転生しても一向にかまわんッッ」という異世界転生ものもあるじゃないですか。「『刃牙』は知らないけど『烈海王』を楽しく読んでる」って人もいるでしょうし。「ハンチョウ」もそういうことですよね。「『カイジ』読んでないけど、『ハンチョウ』は面白い」みたいな。
りす 「ハンチョウ」しか読んでなくて「カイジ」読んだことない人が、カイジのことを「ハンチョウの原作」って言ってたな(笑)。
一同 (笑)
くろねこ こういうのって誰がアイデアを出してるんですかね。作家さんなのか、編集者さんなのか……。「ハンチョウ」思いついた人すごくないですか? 発明ですよ。
りす 「もう本編と関係なくグルメやりましょう!」って(笑)。「独歩」もキャラの濃いグルメマンガになったら面白いですね。
お菓子が添え物じゃない、小説家と編集者の「文豪のおやつ」
りす 僕は今回「文豪のおやつ」が一番面白かったです。新米の編集者が小説家のところに原稿を取りに行ったら、おやつを持ってこないと原稿をあげないって言われて。編集者がおやつを持っていったらそれが作家のインスピレーションを刺激して、落としそうだった原稿があがるっていうお話。編集者が持っていく手土産と、小説家がどう反応するかみたいなことで話が転がってくのが面白かった。
ぞう 最初はただ締め切りを延ばしたくて、適当なこと言ったのが始まりなんすけど、昔の文豪のわがままエピソードをうまいこと採り入れつつ、面白おかしく描いてるなと。振り回される編集者の男の子もいいキャラクターをしてて、逆に振り回しそうな存在感を出しているのも面白い。コンビものとしても楽しめそうです。
りす お菓子がキーアイテムになって昔話が始まったり、作家が思いついたり。ただ美味しければいいんじゃなくて、人に渡すものってそこにストーリーがあるというか。何を渡そうか考えて、それを受けた人のリアクションがあって、人と人をつなぐアイテムとしての手土産っていうのが面白いなと思いました。
ぞう 添え物じゃないですよね。お菓子自体が。
とり 先生が甘いものを心から欲してる描写がすごくかわいかったです。2話はあんぱんなんですけど、食べるためにまた嘘をついたりして。あとは編集者の人が差し入れのために探し回る描写も丁寧に描かれてるので、物語の起伏があって面白いなって思いました。
くろねこ これは実際にあるお店ではないんですかね。
ぞう はっきりとは言えませんが、お店の名前とかは出てないですね。戦後という設定なので、現存してるお店がないのかもしれないですけど。
くろねこ 逆に珍しいですよね。そういうのって実際にあるお店と絡めてやりがちですけど。宣伝とかにもなりそうだし。
りす どこのあんぱんっていうのじゃなく、あんぱんっていうもの自体の価値を描きたいのかもしれない。
マンガにおける画力の重要性とは?
りす カレー沢薫さんの「理解のない夫くん」も面白かったです。
うさぎ これって実話なんですかね?
ぞう どうなんでしょう。もしかしたらモデルになっている人がいるのかもしれないですけど。
りす 実話かどうかはさておき、よく離婚の理由で「夫婦の会話がない」みたいな話があるじゃないですか。顔が好きなだけで結婚しても幸せにはなれないって、こういうところだよなって思いながら読んでました。旦那さんは妻のことが嫌いになったんじゃないから、一緒にいるために理解しようとするのがすごくいい。話を聞いてもらうため、一旦離婚の話をするのは試し行動っぽくて嫌だけど(笑)。
ぞう なんとか関係をいい方向に持っていきたい意思はあるけど、肝心なところが抜け落ちてるみたいな感じなんじゃないですか。でもこのコントっぽい設定はさすがに面白い。
うさぎ ドラマ化とかしても面白そうな気はするよね。
とり カレー沢さんってゆるい絵柄のイメージが強くて。ゴラクで連載している「ごじあいのススメ」はかわいいほうの絵柄なので、ただ作品を読んでいただけだと気づかなかったです。
りす カレー沢さんの絵って不思議ですよね。マンガとして面白そう感がある。たまにそういう、いわゆるうまい絵じゃないけど画面から面白そう感が溢れてるマンガってありますよね。
くろねこ 単純に画力だけの話じゃないですよね。うまくても面白くないマンガもあるし。
りす マンガにおける画力の重要性って難しいですよね。
くろねこ カレー沢さんはいろいろな媒体で連載を同時進行してますし、絵の雰囲気を使い分けているのかもしれない。
とり しかもゴラクだと毎号文章も書いてるんですよ。世の中で話題になっていることに対して感じていることを綴るコラムで、ちょっとニヒルに書いているのが面白くて。なんにでもパワフルな方ですごいです。
りす 自分の能力をよく理解して、それを目一杯使っていろんなことができる。ゆるふわな印象だけど、超人だったんですね。超人・カレー沢薫(笑)。
座談会に参加した編集部員
- うさぎ:紙の単行本好きなんですが、年齢のせいかタブレットの大きさが読みやすくなってきてしまって悲しい。
- くろねこ:「ジュミドロ」が完結してしまった……。素晴らしいマンガでした。
- ぞう:「ホイホ・ホイホイホ」21話、文化祭ライブの本番、最高でしたね。読むべし。
- とり:初めてコミティアに行きました。方方からいろんな熱量を感じられて素晴らしいイベントでした。
- りす:まだまだ「あずまんが大王」で誰が好きかの話で盛り上がれる。