雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第11回では2026年4月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
空知英秋、松本大洋……実力派作家の新連載が続々
うさぎ 今月は実力派の作家さんの新連載が目立った気がしました。まず話題作で言うと、空知英秋さんの「2年B組 勇者デストロイヤーず」ですかね。さすがに期待を裏切らないなと。
くろねこ 空知さん独特のギャグが健在ですし、「銀魂」っぽさもありますね。
いぬ 今のところメインキャラクターが魔王の転校生だけなので、もっといろんなキャラが出てきたら、空知さんのかけ合いの魅力とかがより感じられる気がします。それこそ「銀魂」でいう真選組的な立ち位置のキャラが出てきそう。
うさぎ 確かに、キャラが増えてわちゃわちゃしてきてからのほうがさらに面白くなりそうですね。
りす ギャグとか会話の妙に目が行きがちだけど、ストーリーマンガとしての魅力にも注目していきたい。「銀魂」も人情ストーリーが基本にあり、万事屋が大きな問題を解決する長編エピソードも人気だったじゃないですか。新作も、話が進んできたら、そういう人情ものっぽさも出てくるかもしれないですね。
ぞう ベテランの作家さんで言うと、松本大洋さんの「南蛮人」は、さすが読ませるなと思いました。バンドデシネ作家のシリル・ペドロサさんとの共作なんですけど、室町時代の種子島が舞台で、海外から人が入ってきて鉄砲が伝来する時代の話。おじいさんの息子が海で流されて亡くなって、その海から南蛮人が流れ着いてきたところから始まり、おじいさんと南蛮人の交流が描かれてます。
うさぎ 第1話だけだとわからなかったけど、第2話になるとキャラが立ってきて、人間味が出てきて面白かったです。
りす 第2話に南蛮人と日本人が並んで歩いているシーンが出てくるんですけど、南蛮人がものすごくデカいんですよね(笑)。日本人が膝くらいまでしかないんですよ。このカットがあるだけで、完全に現実の話ではないというか。種子島とか鉄砲とか歴史に即した設定はあるにしても、ファンタジーっぽさもあるお話になるのかなと思いました。
うさぎ ちょっとおとぎ話みたいですよね。
ぞう 個人的には松本大洋さんの新連載を最初から追う経験をしたことがなかったんで、そういう意味でも楽しみです。
“負けない主人公”が負けるまでの話「無敵のスバル」
うさぎ 「無敵のスバル」は、成田成哲さんの作品とは気づかずに読み始めて、途中で「『マッチョグルメ』の人じゃん!」ってなりました(笑)。とにかく強い無敵の高校生・昴が主人公の話なんですけど、第1話の最後に「(昴が)敗北するまでの物語」と書いてあって、面白そうだなと思いました。
りす この主人公はなんでこんなに強いんですかね?
ぞう 要するに天才なんですよね。
くろねこ 今公開されてるエピソードでは昴の強さが描かれてるので、この先、昴が敵わない相手とか、まったく違った強さを持つ相手が出てきたらもっと面白くなりそうです。
いぬ この負けない主人公をどう描いていくのかっていうのが見どころの1つなのかなって気はしますね。最後には敗北するとしても、普通にやったらそれまでの道のりがワンパターンになっちゃう気もしますし。成田さんはそういう見せ方がうまいなと過去作から思っていたので、どう工夫して負けないっていうことを見せていくのか興味深いです。
ぞう 負けが何かにもよりますしね。強さで負ける以外にも、試合のルールで負けるとか、精神的に負けるとか、いろんな解釈があるじゃないですか。格闘マンガって突き詰めると精神的な話も多いですし。
りす ここまで強いと、普通にもっと強いやつが出てきて負けることは想像できないですよね。ただ大きくて力が強いやつが現れて、「世界は広えー」ってなるというよりは、ぞうさんが言ったみたいに強さとはなんなのかみたいな話になりそうですね。
マンガ読みの間で定期的に話題になる「最近スペリオールが面白い」
ぞう スペリオールで始まった「KIKI KILL キキキル」も、「撲殺ピンク」の山本晃司さんの最新作です。主人公の黒澤キキは最愛の母を殺されるんですが、自殺として処理されてしまう。その犯人にキキが復讐するという物語。「撲殺ピンク」も、警察が取り締まれない悪人に罰を与える話ですが、今回はそこにサスペンス要素が加わった感じです。
とり 「撲殺ピンク」は性犯罪者を懲らしめる話ですが、今回も勝手ながらそういう要素を少し感じました。あとこの作品は連名で描かれていて、おふたりがどういう分担で描かれているのかわからないのですが、気持ち悪い男を描くのがすごい上手だなと(笑)。不気味で、気持ち悪いのが見た目で伝わるのがすごいです。
りす 共作の渡邉タタバさんは新人さんですかね。山本さんのXには「僕が今、本当に信頼をしてる唯一の作家さんとタッグを組んでスタート」と書いてあって、すごい信頼を寄せてるんだなと。
ぞう 作品とは関係ないんですけど、スペリオールでは最近立て続けに新連載が始まって、連載作品の入れ替えがあったんですよね。「KIKI KILL キキキル」もそうですし、渡邊ダイスケさんの「宇宙人はいらない」とか、辻やもりさんの「れぎをん」とか、サスペンス系やアウトロー系の作品が増えてるんですが、どれも面白いです。
りす 「最近スペリオールが面白い」みたいな話は、マンガ読みの間で定期的に出ますよね。自分は「フールナイト」が好きで読んでますが、単行本派なので雑誌全体でサスペンス色が強くなってきているのは知りませんでした。そういう流れというか、雑誌の傾向みたいなのが出てくるのは面白いですね。
「ニセモノの錬金術師」と同じ世界観で描かれる「神引きのモナーク」
りす サンデーで始まった「神引きのモナーク」は、「ニセモノの錬金術師」の杉浦次郎さんが原作の新連載ですが、「ニセモノの錬金術師」と世界がつながってそうなことにまずビックリしました。「神引きのモナーク」はソシャゲのガチャみたいな能力をもらって異世界転生した男の話なんですが、神様的な存在が2つの能力を与えてくれて、異世界に転生するっていう設定がそのままだったので。
うさぎ ネーム形式の原作が先行してWebで公開されていて、そちらに「『ニセモノの錬金術師』と世界観を同じくする漫画です」ってはっきり書いてありますね。
くろねこ 出版社を跨いで作品の設定や世界観をクロスオーバーさせるのは、ちょっと珍しい気がします。
りす ガチャを回してアイテムやキャラクターを引くというのが主人公の能力なんですけど、ガチャで引いたキャラを大事にできるか?みたいなのがテーマなのかな。「ニセモノの錬金術師」でも、奴隷の女の子を大事にするあまり、奴隷の女の子に利益が出すぎるみたいな関係性があったり、「僕の妻は感情がない」でもロボットを人と同じように扱ったり、本来雑に扱われそうなものを大事にする心の働きみたいなのをうまく描かれる作家さんなので。大量にハズレも引くだろうガチャっていう仕組みをどう料理するのか気になります。
うさぎ 杉浦さんの作品の魅力って、緻密な設定とそれを踏まえたうえでの現実的で冷徹な死生観だと思っていて。ガチャを引くという設定だけだとよくある異世界ものって感じもするけど、ちゃんと面白いんだろうなっていう期待感があります。
読み切りから連載化、ケモノと人間の本格SF「ヒトナー」
いぬ 読み切りから連載化された「ヒトナー」は、ノミネート条件とかにもよるけど今後のマンガ賞にもランクインしてくるんじゃないかと思ってます。発表が早いところだと「次にくるマンガ大賞」とか。
くろねこ 獣人たちが住む星に、空想上の生物とされていた人間がやってきて、研究対象になり……というかなりしっかりしたSFですよね。
うさぎ SFとしてよくできてるし、シリアスとギャグと、いい話を挟んでくるバランス感もいい。僕は読み切りのときは知らなかったんですけど、その頃から話題になっていたと聞いて納得しました。
くろねこ 読み切りの時点で完成度が高いので、ここから連載としてどんな物語やテーマを描いていくのか気になります。
いぬ ケモナー的なキャッチーなタイトルで興味を惹きつつ、しっかりしたSFだし伏線も挟んでいる。読んでいくと不穏な世界を感じるところもあるんですよね。
うさぎ 「ズートピア」とか「BEASTARS」も人気ありますし、獣たちが社会を形成している世界って惹かれますよね。人間のほうの内面があまり描かれないのも面白いなと思いました。
いぬ 自分たちケモノのほうが優れていると思っていたのに、実は人間のほうが知能も高くて文明的にも進んでいるみたいなことも作中で言われていましたよね。人とケモノの知識の差とか文化や価値観の違いによるディスコミュニケーションみたいなものを描かれていくのかなと思いました。
うさぎ これは深読みかもしれないですけど、タイトルがヒトラーと似てるじゃないですか? だから人間が独裁者みたいになったら嫌だな、と。宇宙飛行士だからすごいエリートなんだろうし、獣の星を支配してしまう展開になってほしくないけど、そういうのもありえなくはないですよね。
魔王の娘と勇者の死に戻りギャグ「魔王の娘は生き汚い」
うさぎ 「魔王の娘は生き汚い」も読み切りの連載化で、面白かったです。「魔族はヤバい。しかし人間もヤバい」っていう書き出しから、このマンガ面白そうだなと引き込まれました。死に戻りの能力に目覚めた魔王の娘が、ひたすら勇者に殺されて生き返ってを繰り返すんですけど、どんな展開になってもリセットが効くからなんでも描ける(笑)。
ぞう 勇者にちゃんと殺されてて、首が切られたり、胴体が2つになったり、火炙りにされそうになったりするんですけど、その描写がギャグとして面白いのがいいなって思いながら読んでます。
とり 死に戻り系ってシリアスな話とかが多くて重いイメージがあったんですけど、この作品はギャグを前面に押し出しててサクサク読めました。
うさぎ 読み切りのときはデスループの設定はなかったんですよね。殺されそうになるんだけど、うまく切り抜けていくみたいな感じで。でも連載化にあたってデスループの設定が足されて。
ぞう 連載するにあたって、死にそうで死なないみたいな展開を続けるのが難しかったのかもしれないですね。このまま魔王の娘が死に戻りを続けて、精神的にどうかなってしまうみたいな展開にならないといいんですが。
りす どこかのタイミングでちょっとほだされるというか、魔王の娘と勇者が一緒に生きてく道を見つけていくみたいな話なんですかね。
ぞう そのうち魔王の娘と勇者が仲良くなって、平和的に解決していくのかなとは思うんですけど、魔族と人間がどの程度のレベルでお互いに憎み合ってるのかがわからないので……。でもそういう話が入ってくると深みも出るのかなって感じがしますが。
地図を作りながら旅を楽しむ新感覚ファンタジー
うさぎ 転生系で言うと、「異世界全図」も面白かったですよ。前世の記憶を持つ少年が、探索しながら地図作りをするファンタジー。
りす マッピングっていうテーマが面白いですよね。地図を作るために旅するのが目的だから、バトルとかの要素も入ってくるけど基本的には旅を楽しむ話。ファンタジーってバトルが続くと飽きちゃうので、旅の描写とか地図作りの楽しさを描いてくれそうな雰囲気が好きでした。
うさぎ 主人公には前世がいっぱいあるんですよね。猫として生きたとか、現代人だったとか、そういう魂がいっぱいあるっていう設定も、ひとひねりあっていいなと思いました。
とり 第2話の冒頭で、主人公が罪人の女の子の下僕になりたい気持ちに襲われるんですが、それは猫の前世があったからっていうエピソードが面白かったです。前世の設定は今後の展開にも関わってくるのかな。
うさぎ 作画のNIMIさんは存じ上げなかったけど、雰囲気もあるし上手だなと思いました。描き込みがあるとことないところの差というか、画面の白さの使い方がうまいのかな。ダンジョンに入って珍しいもののところにたどり着いたときとか、魔女が出てきたときの迫力とか、そういうところはしっかり描き込まれていて、使い分けがうまい。
くろねこ セリフも多すぎず少なすぎず、画面もすっきりしていてマンガとしても読みやすかったです。
雨隠ギド、田中ストライク、峰浪りょうの新連載も
くろねこ ほかに気になった作品や、話しておきたい作品ある人いますか?
うさぎ 僕は雨隠ギドさんの「灯火からスパークル」が面白かったです。雨隠さんの作品は「甘々と稲妻」以来読めてなかったんですけど、相変わらず丁寧でいいお話を描くなと思いました。
くろねこ どの作品もいい意味で読み心地が変わらなくて、安心して読めますよね。
うさぎ そうですね。いい話をちゃんと描いてくれるんだろうなという信頼感がある。そういう意味だと、「SERVAMP-サーヴァンプ-」の田中ストライクさんが、ジャンプスクエアで始めた「オダロク」もよかったです。読者が期待してる作品を描いてくれるタイプ。ファンはうれしいだろうなと思いました。
ぞう 「少年のアビス」の峰浪りょうさんの新連載「山劇」も始まりましたね。今のところ「少年のアビス」ほど陰鬱な感じではないんですけど、2話以降を読むとやっぱり暗い話になりそうだなって感じました。
うさぎ 「少年のアビス」もそうでしたけど、「山劇」も人間の暗部を覗いてみたくなるというか、そういう描き方がすごく上手な第1話だなと思いました。
くろねこ 冒頭で「実力派の作家さんの新連載が目立った」って話がありましたけど、まさにその通りの作品ばかりでしたね。
座談会に参加した編集部員
- いぬ:「シグルイ」を無料公開で久しぶりに読んで、電子版買いました。
- うさぎ:紀伊カンナさんの「魔法が使えなくても」のグッズが今さら欲しいんですが、なんとかなりませんか。
- くろねこ:この連載でも話題になった「魔力枯れのダークエルフ」の単行本が出ました。1巻通して読むとさらに面白い。
- ぞう:マンガの変な集団で最近一番笑ったのが「水銀ドカ飲み気絶部」でした。「藤見乃フェニックス老人会」に出てきます。連載お疲れ様でした。
- とり:「メイドインアビス 目覚める神秘」の公開が待ち遠しいです。
- りす:腹ペコキャラが好きなので、「フールナイト」の蓬莱ヨミコも好きです。美味しいものが食べたい、が仕事のモチベーションの女。