たらちねジョン「海が走るエンドロール」の完結を記念したフィルムコンペティション「海が走るエンドロールフィルムアワード」の授賞式が、本日5月14日に東京・ユーロライブで行われ、審査員の今泉力哉、山中瑶子、たらちねが登壇した。
「海が走るエンドロールフィルムアワード」とは?
「海が走るエンドロール」の主人公・茅野うみ子や濱内海らのように、“映画を撮りたい側”の人間を応援すべく開催されたこのフィルムコンペ。うみ子の心が揺れ動いた際の表現や、作品タイトルに紐づく「海が走る瞬間」をテーマに、15分以内の自主制作によるショート動画作品が寄せられた。グランプリ受賞者には賞金30万円を贈呈。副賞として応募作が明日5月15日に発売される「海が走るエンドロール」最終9巻のプロモーション映像に使用されるほか、秋田書店作品のPV制作への監督参加の機会が与えられる。
たらちねジョン「応募してくれたことが“海が走る”瞬間」
開会の挨拶では、たらちねが自身のプロフィール画像の仮面を被って登場。「私がこれまでマンガの中で表現してきた“海”には、創作という広大な海の広さ、底しれない深さなどがあります」と語り、「水面はきらきらしていて吸い込まれそうでも、一歩踏み出せる人はそう多くない。そこに船を出す不安や孤独を抱えながら背中を押す衝動を描いてみたいというのが作品のはじまりでした」と述べる。
そして自身は自発的に、衝動的にマンガで何かを表現したいタイプではなく、編集者と会話して物語を編み上げるタイプであることを明かし、「編集者と話し描かなきゃいけない状況を作ることが、船を出すということだと思っています。フィルムアワードに関して言えば、応募してくれたことが“海が走る”瞬間だったのかなと」と伝え、その勇気を称賛し、応募してくれたことへの感謝を述べた。
受賞結果を発表、今泉力哉が「騙された」
その後行われた表彰式では、Xのリポスト数で支持された「読者賞」に角木理紗「投企せよ、海へ」、審査員賞(山中)に山﨑一正「drifter」、審査員賞(今泉)に沼田理紗「みち」、審査員賞(たらちね)に舘田紅太郎「うみべの」、準グランプリに可香谷慧・濱本富士子「初めてカメラを持った日」、グランプリに野田遊歩「都夏」が輝いた。準グランプリを受賞した「初めてカメラを持った日」の可香谷は普段はドキュメンタリー番組のディレクターを務めていると言い、「たらちね先生の作品を読んで、誰でも(映画を)作れるんだと思ったとき、長野県にいる小学生に初めてカメラを持ってもらって撮影してもらうというアイデアがすぐに出てきて。それをもとに脚本を書き出しました。(準グランプリの受賞は)本当にうれしいです」と語った。
劇中の子供が撮影したカメラの映像は当時のものなのか、それとも今回の撮影用に用意したものなのかが気になっている様子を見せる今泉。可香谷がオールドカメラを用意して現代で撮ったものだと明かすと、今泉は騙されたと悔しそうな表情を見せた。
“よくわからない”と笑えるグランプリ作品
グランプリ受賞の「都夏」を手がけた野田は、「生きてて楽しいことはないんですが、昨日の夜は久々に修学旅行の前日くらいにワクワクしていました」と話し、「全部の監督の作品を観た後に自分の作品を観ると粗がすごいなと思ったのですが、こういう形で評価いただけたことで今後も映画を撮ってもいいのかな、と思えました」と喜びをあらわにする。
たらちねは「ずっと『なに言ってんだこいつ』って感じが心地よかったです(笑)。商業側に浸かっている自分としては、ガロみたいなマンガいいよな、と思うような感覚で。ものづくりや自己表現のパワー、やり切っちゃうという魅力を感じました」と講評。今日で鑑賞するのが4回目だと言う山中も「やっぱりよくわからない(笑)。ですが、カット単位での満足度が高く、ストーリーラインは何をとってもおもしろいものが撮れるのではないか?と思いました」と野田に伝えた。
ソウルの刻まれた作品が観られるとうれしい
全体講評として、たらちねは審査時にマンガ家としての視点を入れるべきかと思いながら臨んだと明かす。「商業マンガ家としてやっていると、個人的な思いと(商業的な描き方)のバランスが難しくて。今回のコンペでは、そのバランスを振り切っているものに惹かれていました」と振り返る。そして全体を通して海にまつわる作品が多かったことに触れ、「マンガの中では“波を起こし合う”様子を描いてきたので、それを可視化できた感じでめちゃくちゃうれしかったです」と述べた。
山中は逆に“海”というテーマに引っ張られている作品が多かった分、海には関係ないが応募テーマを感じられる映画に惹かれたと説明。「伝えたいことが明確に伝わるようにできたという技術的なよさや、キレイに撮れているかということは、数を重ねればできる部分でもあるので、(作品には)ソウルの部分を刻んでほしい。コントロールや自覚が出来ていない部分はどうしても画面に映ってきてしまうものだと思うし、人間の性の輝きが出てしまう瞬間がどの映画にもある。そういうのが観られるとうれしいですね」と語った。今泉は「準グランプリはある種商業的で、グランプリは商業にはない雰囲気があって、正反対の作品が上がりましたね」と講評し、受賞しなかった応募者の悔しさにも共感しながら各作品についての感想を述べた。
「海が走るエンドロールフィルムアワード」受賞作
グランプリ
野田遊歩「都夏」
準グランプリ
可香谷慧・濱本富士子「初めてカメラを持った日」
審査員賞(今泉力哉)
沼田理紗「みち」
審査員賞(たらちねジョン)
館田紅太郎「うみべの」
審査員賞(山中瑶子)
山﨑一正「drifter」
読者賞
角木理紗「投企せよ、海へ」