雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第10回は2026年3月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
相貌失認がテーマの「香穂ちゃんは顔がわからない」
いぬ 今月は医療ものというか、病気や障害を題材にした作品がいくつかありましたね。
うさぎ 「カンテラ~訪問精神科医 由留木照のカルテ~」と「アオのひと ~こどもとおとなの発達支援員 神崎歩~」は治療する側が主人公で、「香穂ちゃんは顔がわからない」は相貌失認の子が主人公のお話でした。
ぞう 僕は相貌失認についてあまり知らなかったんですが、「香穂ちゃんは顔がわからない」で描かれているように、全員の顔が同じに見えるとか、クラスメイトの顔の区別ができないとなると、大変な症状だなと思いました。
とり 高校生だとみんな制服なので、服装で見分けがつかないのも大変そうですよね。特に男子は髪型も似てますし。
りす たまに他人の顔を覚えられないタイプの人っているじゃないですか。僕もあまり覚えられないほうだけど、このマンガみたいに見えてるんだとしたら、単に覚えられないのとは全然違いますよね。
ぞう 極端な話、誰かに殴られても相手がわからないってことですから。これを10代の多感な時期に、いじめとかにも発展しそうな学校を舞台にしてどう描いていくのか気になります。香穂ちゃんが友達に相貌失認であることを打ち明けるのもリスクがありそうですし。
りす 僕は「(相貌失認のことを)周りに説明しておきなよ」って思いながら読んじゃったんですけど、ぞうさんが言うように周りに知らせたら知らせたで、そういう人をいじめてしまうようなこともあるかもしれないですね。
うさぎ 相貌失認がテーマのマンガはいくつかありますけど、この作品は「顔がわからない」という視点の表現が面白いなと思いました。顔がみんな同じで、ギャグっぽい感じに描かれてて。
ぞう 香穂ちゃんの目線から見たときだけ全員同じ顔で、それ以外の場面では普通に描かれているので、こういう感覚なんだなってわかりやすい。
いぬ 物語としてはラブコメ的な展開になっていくんですかね。イケメンだと言われることに疲れているような男子が出てくるので、顔じゃなくて内面で見てもらえて……みたいな。
ぞう 最近は外見至上主義みたいなところあるじゃないですか。だから、見た目では区別がつかない主人公が内面から好きになるっていうのは、一定の説得力がありますよね。ただ描き方には繊細さが必要だと思うんですけど。
精神疾患や発達障害、生きづらさを描く作品は増加傾向?
ぞう 「カンテラ」は、SNSで反応を見てると「メンタル面をケアする訪問医療のことはあまり知られてないから、こういうマンガがあってよかった」というようなことを言ってる方がいて。そういうところに光を当てる作品なのかなと思っています。原作の草下シンヤさんは、ドラッグとかヤクザとか裏社会的なマンガの原作を担当することが多い印象があったので、こういう話もいけるんだなと意外性もありましたね。
りす 僕は草下さんって社会の底辺の人とかそこで苦しんでいる人たちへのまなざしがある人だと思っていて。ただ部外者としてディープなものを取り上げるのじゃなく、その人たちと関わっていこうとするじゃないですか。取材力を感じます。
ぞう 「アオのひと」は発達障害のサポートをする男の人のもとに、障害を持った人が訪れていく話ですが、1話目からすごいリアルだなと思って。発達障害を持った人が社会人として働くつらさも描かれていて、ウッって思いながらも説得力あるなと思いました。
いぬ 発達障害のような特徴についても、ここ10年、15年くらいで世間一般の認識も深まってきた気がしますよね。理解が深まったからなのか、マンガでも例えばADHDとハッキリ書いていなくても、劇中の振る舞いとかを見て、そういう特徴のあるキャラクターなんじゃないかと言われることも増えた気がします。
「兎が二匹」の作者がジャンプ+で注目の新作
うさぎ 僕は山うたさんの「水ノ怪-水域怪異奇譚今様-」が面白かったです。ジャンプ+での連載なのですが、1話から読み応えがあって世界観がしっかりしてるし、これを週刊(連載)でやってるのはすごいなと思いました。すでに全2巻ぐらいの話が最後までまとまっていて、ネームも全部できてるのかなって思っちゃうぐらいよくできてるなと。
ぞう 僕は山うたさんのデビュー作の「兎が二匹」がめっちゃくちゃ好きなんですが、「兎が二匹」も全2巻でキレイにまとまってるので、もしかしたらうさぎさんが言うように最後まで決まってるかもしれないですね。
りす 本当に世界観の作り込みがすごいですよね。1話でこの街の独自のお祭りが出てくるじゃないですか。マンガにお祭りのシーンがあるとうれしくなっちゃうんですよね(笑)。僕の好きな「江戸前エルフ」でもお祭りのシーンが出てくるんですけど、エルフがいることで現実の世界とはちょっと違ったお祭りが作られてるのがいいんですよ。「水ノ怪」も妖怪がいる街独自のお祭りって、歴史が感じられて好きです。祭りの描写がいいマンガをいっぱい知りたい(笑)。
ぞう まだ妖怪が日本でどんな立ち位置を占めてるのかとか、舞台になってる街の事情とか描かれないことも多いので、これからどんどん面白くなるんじゃないかなと期待してます。
とり 私は「神さまエンドロール」が好きでした。神様の終活を描くお話なんですけど、猫の姿をしてる土地神様のところに「死亡通知書」が届くところから始まって、その猫の神様が仲いい人間の女の子と余命までの1年間をどう過ごすかを描いていくんです。猫っていうのがめっちゃかわいい。そして、長く生きてきた神様の人生の終わりみたいなものをどう描いていくのかも楽しみです。
りす 僕は終活というテーマよりも、猫の神様がいる東京っていう、現実の東京とはちょっと文化が違う世界観が好きでしたね。さっきのお祭りの話にも通じるけど、現実に根差してるんだけど、ちょっと違う設定が入ることで違和感が生まれる話が好きだなって自覚しました。
とり なるほど。りすさんの好みがわかりました(笑)。私も現実に神様の存在が溶け込んでる世界観いいなと思いました。みんなで普通に写真とか撮ってるのもいいですし。
いぬ 「優勝」とか「おぢ」みたいな今っぽい言葉とかも自然に取り入れてますよね。
りす 主人公の土地神様は猫ですけど、別の区の神様は人間っぽいですし、いろんな神様がいそう。
とり 今後ほかの神様とか出てきそうですよね。犬とか鳥とか。あと死に向かって描かれてますけど、あまり悲壮感がないのもいいなと。前向きな感じで。
りす エルフじゃないですけど、長生きしてることで人間とは価値観が違って、もう逆に早く終わらせたいんでしょうね。
とり そんな神様が普通の若い女の子と一緒に過ごしてどう変わってくのかが見どころになるかもしれない。
その時代に生きてないとわからない感覚ってあるよね
いぬ 僕は「進め!白鼻進」が面白かったです。
ぞう 主人公のマンガ家が、マンガは大好きなんだけど自分の売れない状況に嫌気がさして、葛藤の末に人の作品をパクる話(笑)。それが「のらくろ」なんですよね。
いぬ まあ「のらくろ」を完全にパクるというよりは、真似してマンガを描こうみたいなことですよね。フォーマットだったり、「のらくろ」は犬だけど、こっちでは猫っぽいキャラを出したりみたいな。
りす でも実際にいたでしょうね。「のらくろ」に追随して一攫千金を狙う作家って。僕は「のらくろ」ってちゃんと読んだことないけど、絵を描いている人にとっては「のらくろ」ってきっとすごいと思うんですよ。カッコいいんだろうな。
うさぎ 「のらくろ」のほうが手塚治虫よりずっと前ですからね。その当時も、まさにこのマンガで描かれてるような衝撃があったんだろうなと。今読んでもなかなかその感覚は味わえないから。
ぞう 同時代性みたいな、その時代に生きてないとわからない感覚って絶対ありますよね。伝え聞いただけではわからない。
うさぎ 例えば今だったら「DRAGON BALL」とかそうじゃないですか。もちろん今読んでも面白いマンガだけど、当時子供の頃に読んで我々が感じた衝撃は、今読んでも味わえないだろうし。最近だと「ダンジョン飯」なんかもたぶんそうなんですよね。あのタイミングだったから斬新だったけど、今はフォロワーみたいな作品が増えて読者も慣れちゃったから、そういう読者が今「ダンジョン飯」を読んでも、何が新しいんだろう?ってなると思う。
りす やっぱりマンガにも旬があるっていう話ですかね。旬というか、出たときに読むのが一番いい。
ネタバレ、許せる? 許せない?
ぞう 旬といえば、最近のマンガは公開直後からSNSで話題になるじゃないですか。でもSNSで完全なネタバレを食らうのが嫌なんですよね。
りす ネタバレ嫌い派ですか? 僕は全然平気で、ネタバレされても自分が見たときの感動はスポイルされないと思ってます。今回こいつが死ぬんだよって言われても、読み始めたらもう忘れて読んでますね。
いぬ 僕も平気ですね。「〇〇でオススメの作品」みたいなのをネットで見かけると、結末まで書いてあることもあるけど全然気にならない。
りす ネタバレ配慮で話ができない問題ありますよね。気合い入れて初日のチケット取って観に行ってるのに、1週間後まで観ない人のためにこちらが配慮しなきゃいけない。人それぞれ事情があるので、誰でも初日に行けるわけじゃないのはわかってるので黙ってますが、熱心な人ほど我慢することになるのにはあまり納得いっていない(笑)。
いぬ ライブのセットリストとかも、ツアーの最終日が終わるまでSNSに投稿しちゃいけないみたいな雰囲気がアーティストによってはあったりしますよね。アーティストが言っているというよりはファン同士の気遣いみたいな話な気もしますが。
くろねこ ネタバレが嫌なら初日に観に行くっていう考え方じゃないんですね。
りす 最近は公式がネタバレの解禁日を決めてることもありますし。
くろねこ 知ったら面白さが損なわれるレベルのネタバレを公式が嫌がるのはわからないではないですけどね。誰かが死ぬとか、死んだと思ったら生きてたとか。
りす そういう結末に関わることじゃなくても、一言も言っちゃいけないみたいな圧力を感じるっていうのが今の状況ですよね。
くろねこ マンガだと原作派とアニメ派、連載派と単行本派とか……。
いぬ 個人的な目線で言うと、僕は自分で自衛してほしい派ですけどね。
りす それはある。なぜならもう公開されていることだから。
ぞう でも0時に更新されて、0時5分とかにSNSで感想を語り始めるのは早すぎるかなって。
うさぎ でもナタリーも0時に記事を出すからなあ(笑)。
いぬ コミックナタリーの記事もたまに言われますからね。例えば次号で完結するって事前に謳われていなかった作品が完結したときに0時に記事を出すと「読んで知りたかった」みたいな。
ろびこの新連載「魔王様、結婚です!」は異世界転生もの
くろねこ 先月に引き続きろびこさんの話になりますが、「魔王様、結婚です!」は、まさにろびこさんっぽいお話だなと思いました。過去作の雰囲気に近いというか。
りす 確かに。「僕と君の大切な話」とかに読み心地が近いかもしれないですね。転生してきた駒子と魔王の性格とか関係性がかわいい。でも魔王が一目惚れしたからって駒子を呼び出しておいて、結婚する気がないのは自分勝手すぎるので「相手の都合を考えないところは改めたほうがいいですねー」って、僕の心の中の婚活カウンセラーが言ってました(笑)。
ぞう 本当に面白いことしか言いようがないですね。読み始めて3ページくらいでキャラがめっちゃ好きになる、さすがのキャッチーさだなと。
りす 前にこの「今月の新連載」で、異世界とか転生ものでちょっとひねった作品が増えてきたって話をしたじゃないですか。それで言うと、この魔王が婚活するっていう設定は今時っぽいですよね。勇者じゃなくて魔王側の事情を描くマンガも増えてきたって話もしてたし。
うさぎ そういう今どきっぽい設定もフォーマットとしてすごく上手に落とし込んでますよね。
くろねこ 1話が8ページなので、もうちょっと読みたいですけどね。16 ページぐらい……。
りす 毎回一挙2話掲載にしてほしい。ところでろびこさんは、急にまたマンガを描き始めましたよね。インスタをフォローしてるんですが、ずっと更新がなかったのに突然絵が流れてきたからすごいびっくりしたんですよ。
くろねこ 「僕と君の大切な話」が完結したのが2020年で、キャラクターデザイン原案を担当したアニメ「バクテン!!」の放送が2022年なので、マンガは5年ぐらい発表してなかったみたい。
うさぎ この間、ろびこさんが海外メディアのインタビューを受けていたのを読んだんですけど、「長らく期間が空いていたのでもう漫画は描かないかなと思っていたため、声をかけていただいて本当にいい機会でした」と答えていて、そうだったんだと思いました。
電車でマンガ雑誌を読む、昔ながらのおじさんはもういない
くろねこ ほかによかった作品ある人いますか?
とり 読み切りですが堀田きいちさんの「水戸さんと艾原(よもぎはら)くん、ときどきシマちゃん。」がもう、とにかくよかった。コミュニケーションが苦手なクール美女の女子高生が、唯一の友達のシマエナガのぬいぐるみと会話しているところを、人気者の同級生の男の子に見られてしまう……という話なんですが、私を育ててくれた「君と僕。」のような、心がぎゅっとする青春の空気感が詰まっていて。堀田さんの作品っていい意味で人間くささがちりばめられていると感じているので、この時代にまた新しい作品を読むことができて本当に幸せでした。
ぞう 僕はまんがタイムオリジナルの新連載「エルフの歌い手」が面白かったです。歌が超うまいエルフが人間の世界に来て、Vtuberになって活躍する話なんですけど、エルフをプロデュースする人がこだわりが強すぎて会社から追い出された音楽クリエイターで、その2人の関係性も面白くて、続きが気になってます。
りす 今のまんがタイムオリジナルは、マンガ好きがハマりそうな作品多いですよね。
ぞう そうですね。ちょうど特集記事が公開されましたけど、リニューアルしていろいろ変わったなと思います。一昔前まではおじさん向けのイメージだったと思うんですけど。
うさぎ 今のおじさんのイメージも刷新されているんじゃないですかね。
りす 「あずまんが大王」とかを読んでいたオタクが、そのまま40代になったみたいな?
うさぎ そうそう。電車でマンガ雑誌読んでいたみたいな、昔ながらのおじさんはもういなくなってしまった。子供の頃は、年を取ったら自動的に演歌好きになるのかなと思っていたけど、実際年を取ってみると、そんなことはないじゃないですか(笑)。
ぞう 若い頃に好きだったものを好きなまま年をとってる。
りす 老人ホームでみんなで「ハレ晴レユカイ」を踊る未来が見えてきましたね(笑)。
座談会に参加した編集部員
- いぬ:「コナン」の映画を早く観に行きたい。
- うさぎ:令和の5歳児も、おしりを出してクレヨンしんちゃんのマネをする。
- くろねこ:最近の推しは「妹は知っている」のミキミキ。
- ぞう:「杉雪カコと見たい明日」めちゃんこ面白いのでおすすめです。
- とり:「ハイキュー!!」の原画展、絶対に行きます。
- りす:好きなダウナー系お姉さんは「動物のお医者さん」の菱沼さん。