片渕須直監督が手がけた「ふくしままっぷ」ブランドムービー「ふくふくの地図」の完成直前特別上映会が、去る3月5日に福島・フォーラム福島で開催された。上映会では完成間近の「ふくふくの地図」の特別映像がお披露目されたほか、片渕監督、内堀雅雄福島県知事、福島県クリエイティブディレクターの箭内道彦、「ふくしままっぷ」原作者でアートディレクターの寄藤文平によるトークセッションが行われた。
1つひとつが人の手で作り出された景色
「ふくふくの地図」は、福島県の総合情報誌「ふくしままっぷ」のブランドムービー第2弾として制作された短編アニメーション。友人の結婚式に参列するため福島県を訪れたフランス人の哲学者・ソフィが、「ふくしままっぷ」を手に福島の土地を巡っていく様子が描かれる。この日のイベントは当初完成発表イベントとして予定されたものだったが、作品の完成度向上のため制作期間を延長することになり、約10分の映像のうちの一部が絵コンテの状態で上映された。
上映前に片渕監督は、「『ふくしままっぷ』を見てびっくりしたんですが、ものすごくたくさんの描き込みがあって、それを1つずつ見たいと思ったものですから、車で3日ぐらいかけて見て回ったんですけども、到底全部は見きれる量ではありませんでした」と制作について振り返る。そして「でも、その1つひとつのものが全部人の手が作り出したもので、それが風景を作ったり文化を作ったりしているんだなと思ったところから、やはり福島のそこに住む方々の人の歴史、そういうものを表すことができればよいなと思いました」と作品を紹介した。
片渕監督の世界に福島を連れてってもらった
上映後、内堀知事は「『ふくしままっぷ』がアニメーションとして彩り豊かに再現されていることに感激しました。ソフィが道に迷いながらも、赤べこと2人で歩きながら旅を楽しんでいく、そして目的地にたどり着くことができる。この15年間、全国の皆さんに応援していただきながら復興の道のりを歩んできた我々と重なるところがある」と、東日本大震災から15年の節目を迎える今の福島と重ねながら感想を伝える。福島出身の箭内は「片渕監督が福島を描いてくれただけじゃなくて、片渕監督の世界に福島を連れてってもらったような気がして、めちゃくちゃうれしいなと思って観ていました」と細部まで再現された映像への感動を述べた。寄藤は「お前も文化なんだね」とソフィーが赤べこに語りかけるシーンに触れ、「僕自身は福島県出身ではないし、活動も東京なんですが、『ふくしままっぷ』がこんなふうに素晴らしい映像として新しく作られて、『お前も文化なんだね』っていう言葉が自分に言われてるような気がするんです。自分が福島県の文化の1つに少し参加できているような気持ちになりまして、グッときてしまいました」と喜びを語った。
片渕監督は2013年、NHKの復興支援テーマソング「花は咲く」のアニメーションを手がけており、その経験が今回の「ふくふくの地図」にもつながっているという。「そのときも、そこにいる人たちの暮らしをひたすら描くということを貫こうと思いました。震災発生から15年経ちましたが、そういう目でもう一度福島を見直すいい機会になるのではないかと思い、参加させていただきました」と今作への参加の経緯を話す。箭内は「片渕監督が震災15年の福島をどう見てくださるのか、とても興味がありました。このタイミングでいただいた、大切なギフトだと感じています」と改めて感謝を伝え、寄藤は「1カット1カットが何気ないカットなんですけど、その裏側にたくさんのものが埋め込まれているのが、観ているだけで伝わってくる」と感動とともに称賛を贈った。
“ふくふく”に込めた“祝福”
タイトルの「ふくふくの地図」には“祝福”という意味を込めたという片渕監督。「ちょうど僕らが(ロケハンに)来たときは9月で、稲刈りの直前、一番田んぼがきれいなときだったんです。これが全部、人の手で耕して、人の手で植えたところなんだなと、全部が人が作った風景なんだなという感動で、心が非常に賑やかになった感じがしました。それを“ふくふく”という言葉で表してるんですが、それをそのまま絵に表せないかなと一生懸命考えました」と話す。また主人公をフランス人の哲学者という設定にしたことについては、「海外から来た人で、英語よりも周りに尋ねにくい、答えが返ってきにくい言葉がいいかなと。外側から見た目で見ること、普通に見ていたものをちょっと違う目で見て、何か言葉に表してくれないかなと思ったんです」と説明した。
そんな片渕監督の思いを聞き、最後に内堀県知事は「ここにいる会場の皆さんだけが、3分の2が完成して、残りが絵コンテという状態で見ていただきました。福島県は震災原発事故から15年、まだ本当に復興の途上です。復興は完成していない。けれど、我々がこの残りの絵コンテの部分、自分たちなりの復興の姿をまた描きながら、それを完成させていく。『ふくふくの地図』の地図』の特別版を拝見しながら、またここを起点に15年、次の1年1年に向けてがんばろうという、温かい思いをいただきました」と、片渕監督をはじめ会場に集まった人々への感謝を述べ、イベントを締めくくった。
「ふくふくの地図」の完成版は、3月24日に特設サイトで公開予定。片渕の監督作「この世界の片隅に」の原作・こうの史代がキャラクター原案を手がけ、同じく同作に携わったコトリンゴが音楽を担当している。なお2025年には「ふくしままっぷ」のブランドムービー第1弾として、押山清高監督による「赤のキヲク」が公開されている。