雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第6回は2025年11月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
いい意味でサンデーっぽい?ラブコメ「ふたりバス」
ぞう 週刊少年サンデー(小学館)で始まった「ふたりバス」は、バスを題材にしたラブコメなんですが、知っていると思っていた人の知らなかった一面が見えたり、疎遠になっていた幼なじみと再会するみたいなシチュエーションがよかったです。
りす バスの中っていう限定された空間がいいんですよね。ここに行くと会える、ここにいるときだけ話すっていう関係性。場所が違うからこそ話せるみたいなのってありますよね。ちょっと違うけど、学校と塾でキャラが違う子とかもいいじゃないですか。
ぞう 逆にバス以外の場所で会うと、雰囲気が違ってうまく話せないみたいなのも、わかるなあと思って。男の子以外のクラスメイトとの関係も気になりますし、バス以外の場所でも話が広がっていきそうですが、それも楽しみです。
うさぎ 作者の豊林サカネさんは、以前発表した「ポニテに揺れる」という読み切りがかなり話題になったんですよね。その作家さんの新連載ということもあって、注目度も高かったんじゃないかなと思います。
くろねこ 抽象的な言い方になっちゃいますけど、いい意味でサンデーっぽいラブコメだなって思いました。サンデーのラブコメって、恋愛だけど生々しくないというか、なんかちょっとファンタジーっぽい雰囲気があるんですよね。
りす 内面的な表現が多い気がしますね。お色気ムンムンのハーレム系とかと比べると、ちゃんと正ヒロインがいて、内なる対話を積み重ねていくことで関係性を深めていくみたいな。
くろねこ 雑誌によって、ラブコメの傾向みたいなのはありますね。
りす 「ふたりバス」の前にサンデーで始まった「百瀬アキラの初恋破綻中。」という作品があるんですけど、これも田舎が舞台のラブコメで。読み味は全然違うんですが、幼なじみとか田舎での再会とか、「ふたりバス」と共通点があるんです。サンデーって、似た設定のマンガを同時に立ち上げることあるよなって思いました(笑)。
くろねこ 人気作品に似た作品を狙って出してるのかもしれないですね。
「999号室」「生活マン」「その青春」……SNSでバズる新連載
くろねこ 月刊!スピリッツ(小学館)で始まった「999号室」も、Xで話題になってましたね。私は先にXでバズっているのを読んだんですけど、初連載だそうですが描き込みもすごいですし、独特の世界観で引き込まれました。Xの引用か何かで、世界観を説明するようなト書きがないのに理解できるのがすごいと褒める人がいて、確かに本当にその通りだなと思いました。
ぞう 世界観の説明がなくても、最後まですっと読めてしまった感じはあります。
りす 最近よくあるディストピアものなのかな?と思ったらちょっと違う感じですよね。
とり
異形の住人たちが住むマンションに、郵便配達員さんが手紙を届けるというお話で、作品自体の世界観はSFですけど、手紙を届けるという設定が身近というか、とっつきやすくしてるのかなと思いました。化け物たちが届いた手紙を読んで泣いたり喜んだりしてて、その人間感みたいなものが伝わってきて面白かったです。
くろねこ 異形の住人たちも、見た目は化け物なのに一体一体にちゃんと感情があって、1話の間でキャラクターの個性が伝わってくるところも魅力だなと思いました。
りす 「生活マン」も話題作ですよね。インディーズ時代には「次にくるマンガ大賞 2025」のWebマンガ部門にノミネートされてましたし。ジャンプルーキー出身で作画担当をつけて正式連載化というのは、「ふつうの軽音部」とかと一緒のパターンですかね。
いぬ 「生活マン」の場合は、ストーリーの本質自体は変わってないですけどエピソードはけっこう補強されてますね。もともとは1話3ページぐらいのショートだったのが、肉付けされて15ページぐらいに増えてますし。
りす インディーズ時代に詳しくないので、見当違いのこと言ってたらすいません。以前はシュールギャグみたいな印象だったんですよ。それが、0話を読んですごくドラマチックになっていて「こういうマンガだったのか」と理解できたというか。生活の中にあるちょっとした問題をヒーローに絡めて描く、あるあるネタみたいなマンガだと思っていたんですけど。そこに含まれているドラマを自分は読み取れていなかったな……。
ぞう 生活マンのビジュアルが、簡素なんですけど印象に残るなと思いました。
いぬ 回想だと小さい頃からこのビジュアルで出てきましたね。ずっとこのお面を被ってるのかな。お面なのか顔なのかわからないですけど。
りす 後天的に生活マンになったわけではなく、生まれた頃から生活マンだったのか(笑)。
ねずみ 私は「その青春」が面白かったです。1話分のエピソードと思えないぐらい読み応えがあって。あるクラスの生徒30人を描いていくということなので、ある程度の話数は決まってると思うんですけど、この重量感で続いていくんだったら楽しみだなと思いました。
いぬ 「その青春」も始まったときにXでけっこう話題になっていた気がする。
りす 1話は面白かったけど、このバッドエンド感が毎回続くんだとしたら気軽に好きって言いにくいエグさもありましたね(笑)。バッドエンドばかりじゃなくて、ハッピーエンドもあるともうちょっと気持ちよく読めそうなんだけど。
くろねこ 2話目も読みましたけど、けっこうしんどい話でしたね。
ぞう どこかでハッピーエンドもあるんじゃないですかね。1話の扉ページに生徒たちが並んでるんですけど、スポーツ選手のファンマフラーみたいなのを持ってる女の子がいて。この子がハッピーエンドにならないかなって期待してます(笑)。
いぬ 野球ファンっぽいですね。
ぞう この扉絵だけでも1人ひとりの状況が想像できて面白いなと思いました。
少年マンガ誌にはスポーツマンガが必要?
くろねこ マガジンで始まったバスケマンガ「ゼロとヒャク」は、面白く読んでます。絵の雰囲気も個人的に好きです。
とり 主人公の名前が零(レイ)なんですけど、1話の終わりにコンビを組む男の子の名前が百(ハク)ってわかるとこで、「おー!」ってなりました。だから「ゼロとヒャク」なんだ!と思って(笑)。
りす 主人公はスリーポイントが得意なんだけど、身長が低くて普通の投げ方だとゴールに届かないから、両手打ちをするんですよね。僕はあまりバスケに詳しくないから、両手打ちが恥ずかしいみたいな感覚はなかったんですよ。だからバスケの人は両手打ちだと舐められるんだなって、軽いカルチャーショック。やってる人だけのカッコよさとか、やってないとわからないダサさってあるよなと。
ぞう 同じマガジンのバスケマンガで、「あひるの空」も主人公は身長が低くてスリーポイントが最大の武器なので、設定が似てるなと思ったんですが、「ゼロとヒャク」には主人公に相棒がいるんですよね。彼は逆に身長高くてジャンプ力ある。ただバスケって5対5なので、あと3人とどうやって絡ませるのかは気になりますね。この2人だけ強くても仕方ないですし。
りす 「ハイキュー」みたいなことじゃないですか? 日向と影山みたいに、お互のないところを補い合うバディものというか。タイトルも「ゼロとヒャク」だから、 2人がケミストリーを起こす話っぽいですし。
ぞう そうですね。「あひるの空」へのリスペクトも感じつつ、野球で言うバッテリーの関係みたいな題材を、バスケでやる面白さを感じますね。
くろねこ マガジンはスポーツマンガが多いですよね。サッカーもバスケも野球も、ずっと何かしら連載されてますし。意外と安定してスポーツマンガのヒット作が出ているなという印象。ジャンプは今は少ないみたいですけど、サンデーはどうですか?
りす サンデーも多いと思いますよ。今だと水球の「みずぽろ」とか、総合格闘の「レッドブルー」とか、バスケの「イチカバチカ」とか。「MAJOR」もあるし。
くろねこ やっぱり少年マンガ誌にはスポーツマンガが必要なのかもしれない。
りす 少年向けでもジャンプ、サンデー、マガジン、チャンピオンの4大少年誌は、やっぱり王道。読者層的にスポーツものを真っ向からやれるという自信があるんでしょうね。
くろねこ バスケとかサッカーは学校で教わりますし、メジャーなスポーツはルールがまったくわからないってこともないですもんね。
りす 逆に言えばスポーツの基礎知識はみんなあるわけだから、異世界ものを読んでる人が楽しめるスポーツものもあれば売れるんじゃないですか。異世界バスケとか(笑)。
新しい切り口のサッカーマンガ「ヴィトーリアの監督」
ぞう 「ヴィトーリアの監督」はサッカーマンガですけど、けっこうマニアに向けの作品だなと思いました。誤解を恐れずに言うと、サッカー界隈には「楽しんでサッカーしよう」っていう勢力と、「勝つのが一番」っていう勢力があって。でも基本的にプロの世界では、絶対に勝たないとダメ。お客さんが観てるし、生活もかかってるし。その中で、この主人公はプロなのに楽しさが優先だし、ほかの人にチャンスをあげる。そういう選手が怪我をして、負けたら廃部になる高校のサッカー部で監督をやることになったときに、どう変化していくのか、この設定は面白いなと思いました。
いぬ サッカーにはそういう2大勢力がちゃんとあるんですか? 僕はそんなにサッカーは詳しくないですが、サッカーに限らず、どのスポーツでも部活程度で楽しみたい勢もいるし、勝ちたい勢もいるとは思うんですが、プロの世界でも勝つことよりも楽しみたいっていう層がいるのかなと。
ぞう あるんですよ。スローインっていうボールを手でピッチに投げ入れるプレーがあるんですけど、特に飛距離を出すロングスローと呼ばれるものに否定派と賛成派がいて。楽しんでプレイしたい派は足元にボールを置いてバス繋いでゴールしようと考えるけど、勝ちにこだわる派はゴール前に思い切りボールを投げ込んで、とにかくゴールしようという考えなんです。
いぬ それはJ1レベルでも?
ぞう はい。学生からプロまで。だから個人的には面白いテーマだと思うんですけど、サッカーを知らない人にはピンと来ないのかもしれないなと思って。
りす サッカーを楽しみたい人が絶対勝たなきゃいけない環境に行ったときに、自分の考え方を変えられるかどうかを描く話ってことですよね。最初そこまで考えて読んでなかったので、今解説されてやっとわかりました(笑)。選手が監督に回る話、ぐらいの気持ちで読んでいました。
ぞう サッカーに詳しくないとそうなりますよね。
うさぎ でも「相手に気持ちよくプレイさせるな」みたいなのって、けっこういろんなスポーツマンガで出てくる要素な気もするんですよ。バスケだったら「フリーで打たせるな」とか。だからサッカー知らなくても、その心理がわかれば楽しめるんじゃないかなと思います。
ぞう 主人公がプレイの中でそこを理解していくんじゃなくて、誰かに教える立場になって理解していくみたいな構造がいいなと。今話を聞いてて、サッカーを知らない人でも面白く読めてそうだなと感じたので、ちょっとうれしいです。
陸上競技×アウトロー「ウサギランナウェイ」
くろねこ スポーツつながりでいうと、ヤンマガで始まった「ウサギランナウェイ」は陸上ものですね。最近「ひゃくえむ。」が映画化しましたけど、陸上はちょっと珍しいですかね。
ぞう 陸上競技とヤクザから逃げるみたいなアウトローなテーマをぶつけてちゃんとマンガになっているのが面白いです。
くろねこ 最近のヤンマガらしいですよね。真剣に陸上競技をやってく話なのか、ヤクザから逃げる話なのかはまだよくわかんないですが(笑)。
りす 最近のいじめ問題とかで、嫌なら逃げ出したほうがいい、みたいな論調あるじゃないですか。「やばい環境から逃げる」っていうのを、物理的に走る速さで逃げるのにつなげているのが特徴的というか。環境から逃げ出したい女の子が、実際に逃げ足が速いっていうのは、すごいテーマを感じますね。
ぞう 実際の競技だと逃げるというよりは競争することになるじゃないですか。そのときにどうするんですかね。
りす でも前に出ちゃえばあとは後ろから追ってくるやつから逃げるだけですから。ハードルでも100メートル走でも。
くろねこ ずっと先頭を走るような走り方を追求するっていう意味じゃないですかね。逃げ切るっていう勝ち方。
ぞう なるほど。駆け引きではなくもうぶっちぎる。
くろねこ この連載の第2回でもスポーツマンガの話題でけっこう盛り上がりましたけど、今回もスポーツマンガで盛り上がりましたね。意外とスポーツ好きが多い編集部なのかもしれない(笑)。
座談会に参加した編集部員
- いぬ:積んだままになっているマンガがたくさんあるので年末年始で全部読みたい。
- うさぎ:話題に出た読み切り「ポニテに揺れる」、すごく好きです。来年はもっと読み切りの話もしたいですね。
- くろねこ:この連載を始めて、自分の知らない面白いマンガがまだまだいっぱいあるのだなと改めて思いました。
- ぞう:1月に開催される「潮が舞い子が舞い」のポップアップショップが楽しみです。ありがとうございます。
- とり:この連載で出会った「MYS」の更新が楽しみ。
- ねずみ:「10DANCE」の実写映画、配信開始を待ち侘びてました。
- りす:好きな守銭奴の女の子は「スプリガン」の染井吉野。