リーンの翼、もう1人の主人公サコミズの話題で富野由悠季「なんで止めなかったんだ!」
富野由悠季の小説を自らが総監督としてWebアニメ化した「リーンの翼」のアニメ化20周年を記念したトークショー付き第1・2話の上映会が、東京・新宿ピカデリーにて去る12月14日に開催された。上映会には富野総監督、エイサップ・鈴木役の福山潤、キャラクターデザイン担当の工藤昌史、プロデューサーの河口佳高が登壇。MCは設定制作の谷口廣次朗が務めた。
富野総監督の「バイストン・ウェル」シリーズの1作で、2005年にWebアニメとして配信された「リーンの翼」。20周年を迎えた率直な気持ちを聞かれると、福山は「最初に聞いたときは『そんなに経ってないよ!』と言いました(笑)。それぐらい当時の記憶が鮮明に残っているんです」と語り、工藤は「今日は富野さんのお話を聞く会だと思っているんですけど、楽しみなのと同時に、20年越しのダメ出しをいただくんじゃないかと胃が痛いです」と苦笑いを浮かべる。富野総監督は「プロデューサーの言いなりになっている富野です」とユーモアたっぷりに挨拶し、「本当に皆さんの顔を見たかったんですよ。今日こういう形で皆さんに会えてうれしいです」と言い、客席を感慨深げに見渡した。
続いて谷口から「第1話を観て、20年前と違うところに気づいた方はいらっしゃいますか?」との質問が。実は第1話冒頭に、新規オープニング映像が追加されていたのだ。20周年記念で初Blu-ray化するにあたり、富野総監督は本編映像を確認した際に「何かが足りない」と感じたそうで、「本編はいきなりアメリカ軍の空母が出てくるカットから始まるので、インパクトが足りなかったんです。でも、土屋アンナさんの楽曲(テーマソング「MY FATE」)が聴こえて、メインタイトルが出て、一瞬静かになった画面に空母が出てくることで、意外感が演出できたんですね。今日それが上映されて、やっぱり間違っていなかったなと思いました」と満足げに語る。また当時オープニング映像をつけなかったことについては、河口プロデューサーが「配信する作品でしたし、富野監督のメモはいつも膨大だったので、少しでも本編の尺があったほうがいいだろうと考えていました。でも20年後にダメ出しをもらうことになりました(笑)」と説明した。
次は「20年目の反省」というテーマへ。福山は「当時はリュクス役の嶋村(侑)さんが新人だったので、先輩の僕としては、引っ張っているつもりだったんです。でも20年経った今、観てみると『一番正しいことをやっていたのは彼女なんだ』と思ったんです。言葉で説明するのは難しいんですが、技術うんぬんじゃなくて。20年の間にそう感じるようになったけど、当時はそれを感じて収録できていなかったのがもったいない」と振り返った。富野総監督は福山を選んだことに関して、「若い人の声が欲しかった。でも若いだけではいけなくて、時代性が大切。その人が生きている時代というのが絶対に出てくるので、まったくの素人ではないけど、“まだできあがっていない人”という選び方をしました」と明かした。
もう1人の主人公とも言えるシンジロウ・サコミズの話題では、河口プロデューサーが「話数が進むと、富野監督がどんどんサコミズが主人公みたいな感じで作っていくんですよ。終わった後に『なんでお前は止めなかったんだ!』って監督に言われましたけど、止めたのに聞いてくれなかったんです(笑)」というエピソードを披露。それを受けて工藤も、「話数が進んでいくと、サコミズがすごく前に出てくるので作画も(サコミズに)力が入っていくんですよね」と返す。また谷口は、当時まだ20代でエイサップに近い年齢だったため、特攻兵のサコミズを理解するには戦争の知識が足りなかったと反省。福山は、「戦争を知らない世代のエイサップが、戦争の真っ只中にいたサコミズに対して、実感の伴う説得力のある言葉を持っているはずがないんですよね。でも、だからこそエイサップは、今の若者も共感できる主人公になっているように見えました」と述べた。
そのほかイベントでは、本編よりゲーム「Another Century’s Episode 2」の収録が先だったためキャラクター情報が乏しい状態で、福山とサコミズ役の小山力也が本編に先がけてアフレコすることになった話や、谷口発案でエイサップの気持ちの高まりを表すためナナジンを赤くしたが、夕景での登場だったために視聴者にはあまり気づかれなかった話などが飛び出した。さらに富野総監督は、ライフワークである「バイストン・ウェル」シリーズに対し、「海外のファンタジー作品に勝てるようなコンセプトを提供できるかが課題になっていますが、これからも挑戦したいなと思っています」と今後の展望に触れ、クリエイターとして大ヒット作を作りたいという思いを持ち続けていることを力強く訴えた。
最後に河口プロデューサーは、「『リーンの翼』は当時からHDでの配信など、Blu-rayを想定した画質で作っていましたが、発売が20年後になってしまい申し訳ございません。でも今回オープニングがついたことを考えると、20年後でよかったなと思わないでもないです(笑)」とコメント。工藤は、「今日、スクリーンで観られて本当によかったと思います。皆さんと同じ目線で参加させてもらいました」と笑顔を見せた。
福山は、「『∀ガンダム』から5年経ってまた富野さんと作品づくりをさせていただくにあたって、台本に書かれたセリフに負けないようにしよう、言わされないようにしようと考えながら収録するのが楽しかったんです。今観ると下手なんですけど、20年経つとそれがちょっと愛おしく思える瞬間もありまして。自分の成長によって感じ方も変わると思いますので、Blu-ray BOXでまた彼らの世界に浸っていただけるとうれしいです」とメッセージを贈る。富野総監督は「かつてアニメの新世紀宣言というのを新宿の駅前でやりましたが、45年経ってまたこういう形でファンの方にお会いできて、本当に力をいただきました」と感謝を伝え、万雷の拍手の中、イベントは幕を閉じた。
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