片渕須直監督「つるばみ色のなぎ子たち」膨大なリサーチと人材育成が支える制作現場

片渕須直監督

片渕須直監督が去る12月14日、「第1回 あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」に登壇。「これまでとは違う清少納言・枕草子・平安時代を描く」と題し、最新作「つるばみ色のなぎ子たち」におけるリサーチや制作状況について語った。

華やかなイメージの裏側に、多くの人が亡くなった時代

「枕草子」が書かれた1000年前の京都を舞台に、清少納言が生きた日々を描く「つるばみ色のなぎ子たち」。かねてより片渕監督が語っている通り、タイトルの「つるばみ色」は喪服の色であり、十二単をまとった華やかなイメージではない、疫病で多くの人が亡くなった平安時代中期を描き出す。会場では最新のパイロットフィルムも上映された。すでにかなりのクオリティの高さが感じられる内容だが、片渕監督は「まだお見せできるところまでは完成していないと思っています」とあくまで制作途中の映像であることを伝えた。

「マイマイ新子と千年の魔法」の制作にあたり山口県防府市で発掘調査をした片渕。防府市は幼少期の清少納言が父・清原元輔と住んでいたことのある土地でもあり、その地を訪れたことで「文学史上の抽象的な存在じゃなく、リアルに存在して肉体を持っていろんなことを考えていた清少納言が、頭の中にすみつくようになった」と企画のきっかけを明かす。その後は片渕監督がさまざまなリサーチをもとに集めた資料を会場で見せながら解説。当時清少納言の周辺で亡くなった人物や疫病の流行などをまとめた年表を示し、「のどかで風雅なイメージの裏で、本当にたくさんの方が亡くなっている。予想していたのとは違う世界が広がっていた」と話し、それが映画を作るうえで重要だったことを明かした。

また十二単の色や、清少納言以外の女房の呼び名、枕草子の中身が何年何月に書かれたものか、といったものも制作にあたり調査し、決めていったことを説明。設定画などの資料も見せながら「決めていけばいくほど、実際にあったんだなということがどんどん見えてきます。やってみてわかったんですが、すごくちゃんと物語がありました」と語った。

「つるばみ色のなぎ子たち」を作る人から育てている

質疑応答の場面では、キャラクターの手の描き方に関する質問も。監督にとって手や手の動きはどういう演出的な意味を持つのかと聞かれると、「『この世界の片隅に』をアニメーションにするときに、手を大きくするとよいのではないかと思いながらやっていました。手を大きくすることで、触れ合う感覚が非常に発揮できたと。戦争や戦争中を描いた映画だと言われますが、僕はスキンシップを描いた映画だとも思っています。人を描くときに、体温は描けない。でも手で触れ合っている姿を描き出せるなら、観てくださる方にも体温が通じるかもしれません」と答えた。

「つるばみ色のなぎ子たち」の進捗について聞かれると、「製作委員会を組成中」としたうえで、制作に時間がかかっている理由にはリサーチだけでなく、人材育成があると述べる。今作を制作するため、2019年に制作スタジオのコントレールが設立されたが、「平安時代をただ描くだけじゃない、生活を感じられるくらいに描くことは、通りいっぺんの作画では実現できない。それができるスタッフを自分たちで作り出すしかない状況」と採用と教育に力を入れていることを語った。また「人を作り上げていくことに締め切りを設け、スケジュールに追われる体制にすることを、今の段階ではしたくない」と話し、それが今作だけでなく今後の業界をも支えていくものだと伝えた。

最後に片渕監督は3月にYouTubeで公開した「つるばみ色のなぎ子たち」の紹介映像を流す。そして「これもうちのスタッフが全部言葉を考えてくれた。そういうふうに、自分が今直面しているものがこういうものなんだと理解しながら作れていることを誇りにも思いますし、それがいつかいい結果につながっていくといいなと思っています」と講演を結んだ。

「第1回 あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」は12月17日まで愛知県名古屋市内で開催中。細田監督作の特集上映や、各国のクリエイターによるトークセッションやカンファレンス、国内外の作品が参加する長編コンペティションが展開されている。