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「父を焼く」が第9回さいとう・たかを賞を受賞

宮部喜光原作による山本おさむ「父を焼く」が、第9回さいとう・たかを賞を受賞した。

子育ても一段落した、初老夫婦の夫が描かれる「父を焼く」。彼は、23年前に孤独死した父を野辺送りした際の壮絶な記憶を抱えている。そして今、静かに自らの人生、父の人生に思いを馳せ、向き合い始めていく。ビッグコミックオリジナル(小学館)で発表され、単行本は全1巻が2022年に発売された。

表彰対象のシナリオライター、作画家、担当編集者には「ゴルゴ13像トロフィー」を、シナリオライターと作画家には賞金50万円を進呈。受賞者と選考委員からはそれぞれコメントが到着した。授賞式は2026年1月13日に東京・三笠会館で開催される。同日18時には、さいとう・たかを劇画文化財団の公式サイトで最終選考会の会議録が公開される予定だ。

また1月14日から2月8日まで東京のマンガナイトBOOKS・E Galleryでは「第9回さいとう・たかを賞授賞展『父を焼く』」を開催。「父を焼く」の複製原稿をはじめ、選考委員の選評、受賞者のコメント、作品紹介などが展示される。

「さいとう・たかを賞」は2017年に、「ゴルゴ13」連載開始50周年を記念して一般財団法人さいとう・たかを劇画文化財団が創設したマンガ賞。シナリオと作画の分業により制作された優れたコミック作品を顕彰する。第9回は「父を焼く」のほか、原作・伊藤尋也、作画・八月薫「陰摩羅ぽんぽこ」、原作・青崎有吾、作画・松原利光「ガス灯野良犬探偵団」、原作・クワハリ、作画・出内テツオ「ふつうの軽音部」がノミネートされていた。

受賞者コメント

宮部喜光(「父を焼く」原作)

劇画界に偉大な足跡を残されたさいとう・たかを先生の名を冠した賞を頂けることは、望外の喜びです。
本作は亡き父への思いを綴った私小説的な物語で、両親を思い出すとき今でも胸が熱くなります。
この作品が多くの方に読まれることで、思うように生きられなかった父がどこかで報われたような気がしています。
作品を書く機会をいただき、見事に漫画化してくださった山本おさむ先生に心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。

山本おさむ(「父を焼く」漫画)

さいとう先生とは、パーティーでお会いして挨拶し、記念撮影をしていただいた事がありましたが、あの時足を止めてもう少しゆっくりお話ししとけばよかったと、今になって後悔しています。先生は漫画の領域を児童向けから成年向けへと大きく押し広げた劇画の雄であり、私などはその恩恵にあずかって漫画家稼業を続けられたようなものです。
この度の受賞により、中学生の頃「無用ノ介」をドキドキしながら読んだ時の喜びと、さいとう先生に同業者として「ポン」と肩を叩いていただいたような喜びとが交錯し、作品が報われたような充足感を味わっています。選んでくださった審査員の皆様にも感謝申し上げます。

加藤辰巳(「父を焼く」編集者)

山本おさむ氏の人の機微を厳しく描写する姿勢を尊敬し、「そばもん」の途中から現在連載中の「れむ」まで担当させていただきました。自らも契約社員で厳しく生きる主人公が生活保護を受けかつて酒乱であった父を弔う……宮部氏の重厚な原作を、山本氏が圧倒的な筆致と見事な構成力で漫画化した本作。今回の受賞を心よりうれしく思います。
そういえば、新入社員の時おっかなびっくり山本氏を訪ねて行ったのは、エロい漫画やバイオレンス的漫画が多かった当時の趨勢の中で、なぜ氏は障害者を描かれるのだろうと思ったからでした。スターも良いけれど、陽の当たらない所で足掻きながらも生きているそんな人たちを見事に描く山本氏の漫画。今回の受賞で氏の漫画に触れる人がもっともっと増えれば編集としてこれ以上の喜びはありません。

選考委員コメント

秋本治

タイトルの付け方が凄く、作品の出だしから力強く引きこまれます。
重いテーマですが、実力あるベテラン山本氏と、よき原作が合体した名作となっています。ビッグコミック読者にも刺さる大人のテーマです。
リアルな背景、人物描写など原作、作画が一体となったリアルな描き方ですが、ドキュメント映画の様に冷静に読めました。
ラストもよかったです。

小山ゆうコメント

高齢者の私にとっては、一番心に響いた作品でした。
画力にも熱量が伝わって来たし、こういった作品に賞を与えて欲しいと思います。

佐藤優

シリアス(深刻)な問題を最後まで真面目に描ききっている。特に孤独死の現場の凄惨な状況の描写が見事だが、読んでいて途中で息苦しくなることもなく、最後まで作品に引き込まれて、一気に読み切ることができる。
人は親を選ぶことはできない。客観的に見れば幸福とはいえない主人公が、前向きに世の中を生き、妻と共に小さなしあわせを作り出し、一人娘に大学教育を受けさせ、独り立ちさせるまでの過程が、言葉と絵では描かれていないが、想像することができる。
こういう描かれていない物語を想像させる力量がこの作品の原作者と漫画家にはある。素晴らしい才能だ。
原作者と漫画家の魂が一致していないとこのような作品は成立しない。

長崎尚志コメント

マンガで純文学に挑戦した作品。
高い質の完成品だと思う。
通常なら自分は、エンタメ作品として『ガス灯野良犬探偵団』か『ふつうの軽音部』を受賞作に推すと思うが、この作品を落としていいのか、と自問自答してしまった。
やはり賞の候補として挙げるべきだと思う。

「第9回さいとう・たかを賞授賞展『父を焼く』」

期間:2026年1月14日(水)~2月8日(日)
時間:13:15~18:30 
会場:東京都 マンガナイトBOOKS・E Gallery
休館日:月曜日
料金:無料