「平和の国の島崎へ」が第8回さいとう・たかを受賞
濱田轟天が原作、瀬下猛が漫画を手がける「平和の国の島崎へ」が、第8回さいとう・たかを賞を受賞した。
「平和の国の島崎へ」は日常と戦場の狭間で生きる男のアクション譚。主人公・島崎慎吾は幼少期に国際テロ組織に拉致され、戦闘工作員となった。30年の時を経て故郷の日本に帰ってきた島崎は、新天地で平和な日常を送ろうとするが……。モーニング(講談社)で連載中で、単行本は7巻まで発売されている。
表彰対象のシナリオライター、作画家、担当編集者には「ゴルゴ13像トロフィー」を、シナリオライターと作画家には賞金50万円を進呈。受賞者と選考委員からはそれぞれコメントが到着した。授賞式は2025年1月14日に東京・三笠会館で開催。同日18時に、さいとう・たかを劇画文化財団の公式サイトで最終選考会の会議録が公開される予定だ。
「さいとう・たかを賞」は2017年に、「ゴルゴ13」連載開始50周年を記念して一般財団法人さいとう・たかを劇画文化財団が創設したマンガ賞。シナリオと作画の分業により制作された優れたコミック作品を顕彰する。第8回のノミネート作品には「平和の国の島崎へ」のほか、原作・後谷戸隆、作画・我孫子楽人「きみの絶滅する前に」、原作・津田彷徨、作画・瀧下信英「高度に発達した医学は魔法と区別がつかない」、原作・左藤真通、作画・富士屋カツヒト「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」、原作・ほしのディスコ、作画・オジロマコト「星野くん、したがって!」がラインナップされた。
受賞者コメント
濱田轟天(原作)コメント
この度はこのような栄誉を賜り光栄です。
「平和の国の島崎へ」の原作者として僕たち「制作者チームの仕事」を読者さんに届けて頂いた結果の今回の受賞だと思っています。
そう、この作品は原作者・作画家・編集者だけで完結するものではなく、僕らが制作した島崎という男の物語を繋いで届けて下さる数多くの方々の努力や仕事の果てに読者さんの手に渡って完結するものであり、この賞はそのプロセス全体への栄誉だと僕は思っています。
作品は作者が作った物語を読者さんが読んで下さることで初めて完成します。
この作品に関わって下さったすべての方々の仕事と熱意に敬意と感謝を。
そして僕らのような「チーム制で漫画を制作する」というシステム構築の前例を作って我々後輩が歩きやすいように「道」を切り拓いて下さったさいとう・たかを先生はじめ多くの諸先輩方への尊敬と感謝の念を記して今回の受賞のコメントとさせて頂きます。
ありがとうございました。
濱田轟天
瀬下猛(作画)コメント
原作、作画の分業のいちばんのメリットは、自分の引き出しにないものにチャレンジさせていただけることだと思います。 原作ネームをいただく度に、濱田先生が伝えたいことを最大限表現できるだろうかと緊張しながら原稿に取り組んでいます。毎週成長させていただいております。「平和の国の島崎へ」が沢山の方々に読んでいただけて大変嬉しいです。 この度は素晴らしい賞を賜りまして大変光栄です。ありがとうございました。
田渕浩司(編集者)コメント
「島崎」は絶妙なバランスで成立している作品です。「殺人マシーンエクスプロイテーション」ではあるのですが、子供時代の誘拐から“優秀なナイフ”として非人道的に扱われつつ人間性を失わなかった男を、説得力のある形で表現するのは困難です。濱田轟天さんの繊細かつ慎重な言葉選びと、容赦無く登場人物を追い込んでいく厳しさ。瀬下猛さんの抑制しつつ瞳に感情が宿る繊細なタッチと、作り手の身体能力が滲み出るアクションとカメラアングルのキレ(日本版 87North!)。どれを欠いても島崎と彼を取り巻く世界は成立しません。素晴らしい作品にしていただいたことに感謝を述べるとともに、さらに高い場所にチームとして歩んで行ければ、こんなに嬉しいことはありません。
原裕司(編集者)コメント
濱田さんの生み出した島崎の言葉が、瀬下さんの描く島崎の目で、より深く突き刺さる。お二人の生み出すそんなシナジーに感動し震える毎日です。これからも「島崎」という人物の生きざまを、微力ながら支えてまいりたいと思います。
「第8回さいとう・たかを賞」審査員
小山ゆうコメント
個人的に好きな作品です。戦闘シーンの描き方が上手いし、登場するキャラクター達の顔がどれも印象的で上手いと思います。
佐藤優コメント
テロで人質にとられた子どもが、テロ組織で訓練を受けてテロリストになるという中東ではよくある事例を日本との文脈に見事に落とし込むことができた。作品のエピソードとして出てくる食事の話も、よく取材をした上で、おいしそうに描かれている。
戦闘シーンの迫力が素晴らしい。平和と戦いのコントラストがよくわかる作画(特に登場人物の目の変化)に感心した。
長崎尚志コメント
すごい戦闘能力のある人間がそれを隠して市井にとけ込む物語は最近のマンガの流行りだ
が、それにしてもこの作品はよくできている。
リアリティをギリギリまで省略しているところもうまいと思う。
やまさき十三コメント
この作品はボクの幼年時に感じた硝煙の臭いのする暗い記憶を呼び起こした。終戦の時の4才、B29の空襲を受けながら防空壕で震えていたあの時の記憶だ。
それはすっかり忘れていた。
だが現実には、ウクライナでガザで同じことは起こっている。
そのリアルを全く忘れていたボクにこの作品は問いかける。