“推し活ブーム”黎明期に突如現れたおまんじゅう!開発秘話を企画担当者に聞く
今年、発売から10周年を迎えた「おまんじゅうにぎにぎマスコット」。その名の通り“おまんじゅう”のようなフォルムが特徴のマスコットで、アニメやマンガ、ゲーム、実写映画など幅広いコンテンツのキャラクターが商品化されてきた。10周年を祝し、東京・ハラカドと「アニメイトガールズフェスティバル2024」内のエンスカイブースでは「おまんじゅうにぎにぎマスコット10th Birthday Party POP UP SHOP」と題したイベントが展開されている。
近年の推し活ブームの中でも、ファンがイベントやコラボカフェに遊びに行く際、またキャラクターの誕生日を祝う際に、写真の中にひょっこりと、しかし確かな存在感で収められていることの多い“おまんじゅう”たち。ロングセラー商品となり、今でこそアニメやマンガファンなどには馴染み深いアイテムとなった「おまんじゅうにぎにぎマスコット」だが、その始まりはどのようなアイデアから生まれたものだったのか? また、おまんじゅうを愛するファンに対し、開発側はどんな思いを抱いているのか。「おまんじゅうにぎにぎマスコット」の企画者であり“生みの親”とも呼べる、エンスカイの高橋氏に話を聞いた。
取材・文 / 熊瀬哲子
そもそも、「おまんじゅうにぎにぎマスコット」ってなんだろう?
キャラクター玩具を中心に、ジグソーパズル、ホビー、ファンシー雑貨、タレントグッズなど、オリジナル商品を多数展開するエンスカイから販売されている「おまんじゅうにぎにぎマスコット」。2014年にTVアニメ「Free!」のグッズとして発売されたことがきっかけで初めて世の中に登場した。“おまんじゅう”のようなフォルムにマイクロビーズが詰まった握り心地抜群のマスコットとして登場したこのアイテムは、「Free!」のファンの間でもすぐに注目を集めた。
今でこそ「推し活」という言葉が定着し、持ち運びのしやすいキャラクターグッズは数多く存在する。高橋氏は「当時、丸っこいぬいぐるみのようなマスコットは、類似品がなかったように思います。そこに『おまんじゅう』という日本人に馴染みのある言葉が、皆さんの頭の中に残ったのかもしれません」と語るように、目新しさがありつつも愛くるしいフォルムとデザイン、手にしたときの心地よい重量感と、どこにでも連れて行きやすい大きさ、そして「おまんじゅうにぎにぎマスコット」というキャッチーな名称が、「Free!」をはじめ、その後展開されていくさまざまな作品のファンの心に響いた。
「おまんじゅう」や「まんじゅう」という名称で親しまれる「おまんじゅうにぎにぎマスコット」は、現在までに累計100タイトル以上をリリース。販売総数はなんと約760万個にものぼる。今では手のひらサイズの「おまんじゅうにぎにぎマスコット」のみならず、膝に乗せて抱きしめるとちょうどいい大きさの「ビッグおまんじゅうクッション」、部屋に迎え入れれば存在感が抜群の「めっちゃビッグクッション」、触り心地に癒やされる「おまんじゅうふかふかポーチ」など、異なるサイズや雑貨などでも展開されている、エンスカイの看板商品だ。
企画当初、社内では「これはどうするものなの?」という反応
そもそも、これは「Free!」のグッズを企画する中で生まれたものなのか、それとも「おまんじゅうにぎにぎマスコット」という企画が存在し、そこに「Free!」のアイテムを当てはめることになったのか。どちらが先だったのだろうか。
「順序でいうと、『Free!』の商品を作ろうと考えていたのが先でした。ただ、最初はマスコットのようなものが作りたかったわけではなく、とあるコンテンツでキャラクターの顔が大きくデザインされたバッグが流行っていて、それをアニメキャラクターでも展開できないかと思ったのがきっかけでした。キャラクターをなるべく単純化したデフォルメイラストを作って、その絵をトートバッグなどのアイテムに落とし込みたいと思っていて。その中で、せっかく作るんだったらほかにも何かラインナップが入れられないかなと考えて、マスコットを加えてみたんです。
キャラクターもので柔らかい生地の中にビーズが入っている商品というのは、当時はあまりなかったと思います。いろいろ検討していく中で、『マスコットを作るならこの素材を使ったら気持ちいいんじゃないかな』と思い、ビーズ素材のマスコットの企画を進めていきました。そのときはまだその商品を『おまんじゅう』とは呼んでいなくて、自分が作った最初の企画書にも『ビーズぬいぐるみ』というような書き方をしていたのですが、できあがったサンプルを見たときに『おまんじゅうみたいだな』と思ったんです。素材の気持ちよさから『にぎにぎマスコット』という名前でもいいかなと思っていたのですが、『おまんじゅう』というキャッチーさも気に入って。『おまんじゅう』も『にぎにぎ』もどっちも入れたいと、『おまんじゅうにぎにぎマスコット』という長い商品名になりました」
当時、アニメファンの間ではぬいぐるみと遊びに出かけたり、写真を撮影したりという、今で言う「ぬい活」がブームの兆しを見せていた。初代「おまんじゅうにぎにぎマスコット」が発売された「Free!」のファンの間でも、とあるメーカーから発売されたぬいぐるみが話題になったことをきっかけに、ぬいぐるみが大きなムーブメントを起こす。そんな中、彗星の如く現れたおまんじゅうという存在。デザインの愛らしさはもちろん、その持ち運びのしやすさや、写真への収めやすさなどを理由に、ぬいぐるみ同様、ファンが部屋に飾り、持ち歩くアイテムとしておまんじゅうは定番化していった。このヒットをきっかけに、さまざまな作品での商品化が始まっていくのだが、当初は「Free!」グッズの企画の1つとしてでしか考えておらず、今のように「おまんじゅうにぎにぎマスコット」としてシリーズ展開することは想像していなかったという。
「初めに社内で企画を提案したときは『何これ?』という感じで(笑)。ぬいぐるみというわけでもないし、『これはどうするものなの?』という反応でした。私自身も、なんだかわからないけれど、ちょっとかわいくて、触っていて気持ちのいいものができたので……と(笑)。SNSで発売告知をした際も『なんだこれは?』という反応が多かったように思うので、実際に手に取ってくださる方がどれだけいるのかは未知でした。
第1弾の生産数は私が想定していたよりも多くてうれしい驚きでした。そして、実際発売されてからもすぐ店頭で売り切れてしまったという話を聞いて、『あれ、なんだかよくわからないけど反響があったね』ということで、「Free!」の第2弾や、ほかの作品を含めてもうちょっとシリーズとして展開を考えていこうという動きになりました」
キャラクターのファンには、いわゆる“無限回収”という形で、同じアイテムを無数に集める人がいる。アニメやゲームのキャラクターが誕生日を迎えた際、SNSに投稿される“祭壇”の写真に同じグッズがずらりと並ぶ様子を目にしたことがある人も多いだろう。そういったファンにとってはフィギュアや大判のタペストリーなどの比較的高額な商品に比べ、価格帯やサイズ感としても「おまんじゅう」は集めやすいアイテムだったのかもしれない。
「当時は複数同じものを購入するとなったら、缶バッジやラバスト(ラバーストラップ)を集める人が多かったと思います。1人でたくさん同じものを購入することが文化として根付き始めたときに発売したことも、そこは意図していなかったことではあるのですが、時代にフィットしたのかなと思います」
デザインは初代から変わらず1人が担当
これまでに多種多様なデザインのキャラクターを“おまんじゅう化”してきたエンスカイ。2次元作品のキャラクターは髪型など特徴的な部分も多いが、「おまんじゅうにぎにぎマスコット」のデザインに落とし込むうえではどんなことを意識しているのだろう。聞くと、「おまんじゅうにぎにぎマスコット」のデザインは、初代の「Free!」から、変わらず1人のデザイナーが担当しているという。
「最初に発売した『Free!』に関しては、私の考えとしてなるべく要素を削ってシンプルにしたいという思いがあったので、自身でも直接デザインに手を入れながら進めていたんですが、最近では基本的にデザイナーさんにお任せしています。私は少ない要素で再現できるなら、極力線を少なくしたいと思っていて。もちろん削ぎ落とせない部分はあるので、どこが残ればそのキャラクターに見えるのか、デザイナーさんとも相談しながら進めていってます」
デザイナーは1人だが、「おまんじゅうにぎにぎマスコット」シリーズが10年続く中で、現在は数チームで企画を担当するようになっているという。この10年の間に、チームの中ではどのようなデザインで進めていくのがおまんじゅうとしてベストか、共通認識ができているようだ。
ファンの声は届いています
2020年に「Free!」シリーズの「めっちゃビッグおまんじゅうクッション」が登場した際、エンスカイの公式Xでは「一緒に暮らすおまんじゅう」「精神的にも物理的にもあなたを支えてくれる、頼れる大きな大きなおまんじゅう」というキャッチコピーとともに、商品画像が公開された。また「ワタシとめっちゃビッグまん小話」というタイトルで“ワタシ”とおまんじゅうが暮らしている様子をコンセプトとした写真も投稿。手のひらに収まっていた小さなおまんじゅうが、物理的にも支えてくれる大きな家族としてファンのところへやって来たのだ。学校や仕事で疲れて帰宅したあと、その名の通り“めっちゃビッグ”なおまんじゅうに寄り添い、癒やしをもらった人もいるだろう。
「おまんじゅうをクッションにしたのは、素材としてもビーズですし、『これを大きくしたらクッションになる』という単純なところから生まれたのですが、それを『一緒に暮らすおまんじゅう』というような表現にしたのは、それこそファンの皆さんが常におまんじゅうを持ち歩いたり、一緒に暮らしたりしている様子をSNSに上げてくれているのを見ていたからだったと思います。
ファンの皆さんのお写真や声は日々私たちのもとにも届いていて、皆さんとても愛が深い方々だなと、ありがたいなと感じています。お客様から『これを商品化してほしい』という声が私たちエンスカイのもとにも届きますが、私たちの力だけでは商品化できないものもあります。ですが、ファンの皆さんがいろいろなところに声を届けてくださったおかげで、リリースできた商品もあると思います」
ファンからの声、そして愛は、確かに届いているようだ。
謎の商品として登場したおまんじゅうを愛してくださってありがとう
一方、ファンだけではなく、高橋氏をはじめとするエンスカイの関係者からも、おまんじゅうへの愛を感じる。今回の「おまんじゅうにぎにぎマスコット10th Birthday Party POP UP SHOP」に関しても、単なる「10周年記念イベント」ではなく、“おまんじゅうの10歳のお誕生日パーティ”というコンセプトで展開された。高橋氏に改めて「おまんじゅうがどんな存在か」と問うと、少し悩みながらも「(自身はおまんじゅうの)親のような気持ちでいます」と口にした。
「けれど、今はチームのメンバーたちも企画を動かしてくれているし、もちろん私自身も愛着をもっているんですが、“『おまんじゅうにぎにぎマスコット』は絶対こうであってほしい”という思いもあまりないんです。デザイナーさんも10年間ずっとやってくださっているので、信頼もある。引き続きこの『おまんじゅうにぎにぎマスコット』が広がっていけるように、愛してもらえるように、チームのメンバーに対しては、いろいろ楽しんでやってもらえればと思っています」
その中で、今後はどんな展望を抱いているのだろうか。
「おまんじゅうの商品展開としては、ポーチやシールなどもいろいろ作って来ましたが、基本的にこの人(『おまんじゅうにぎにぎマスコット』)たちがメインで続いてくれればいいなという気持ちでいます。でもやっぱり10年もやっているので、何か新しいこともしなきゃなという思いもあって、今回原宿や池袋に飛び出して『おまんじゅうにぎにぎマスコット10th Birthday Party POP UP SHOP』をやってみているんです。今後も時代に寄り添いながら、「おまんじゅう」が広がる商品や試作を考えていけたらと思っています」
この10年の中で推し活ブームが発展してきたように、この先10年、20年後には好きなコンテンツを愛し、推していく形にも変容があるかもしれない。その中で、この10年間おまんじゅうを愛してきたファンに伝えたいことはあるか、最後に聞いてみた。
「ハラカドの『おまんじゅうにぎにぎマスコット10th Birthday Party POP UP SHOP』に掲出した『ごあいさつ』にも少し書いたのですが、謎の商品として登場したおまんじゅうを買ってくださって、愛してくださって、10年が経って。本当にありがとうございます。皆さんが日々持ち歩いてくださったり、好きって言ってくださる言葉だったりがSNSなどで見えるおかげで、『こういうふうな愛し方をしてくださっているんだ』というのがわかり、続けてきてよかったと感じています。
今後もいろんな展開をやっていきたいですし、今回の10周年の展示も皆さんがずっと好きでいてくださっているというのがわからなかったらやっていなかったと思うので、とても励みになっております。これからも愛していただけると幸いです」
「おまんじゅうにぎにぎマスコット10th Birthday Party POP UP SHOP」
日程:2024年11月6日(水)~10日(日)
会場:東京都 東急プラザ原宿 ハラカド
日程:2024年11月9日(土)~10日(日)
会場:東京都 「アニメイトガールズフェスティバル2024」内エンスカイブース Y-15