「君たちはどう生きるか」アカデミー賞受賞、“一緒にいて楽しい”宮崎駿と鈴木敏夫の関係
アニメ映画「君たちはどう生きるか」が、第96回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞。日本からの受賞は同じく宮崎駿が監督した「千と千尋の神隠し」以来で、21年ぶりの快挙となった。
昨年7月14日に全国公開された「君たちはどう生きるか」は、第2次世界大戦下の日本を舞台に、母を火事で亡くした少年が不気味な青サギに導かれ、生と死が入り交じる異世界に迷い込む物語。公開当時、日本ではあらすじや予告映像などの情報を事前に明かさないという異例の方針でも話題を集めた。これまでに第81回ゴールデングローブ賞のアニメ映画賞、第51回アニー賞のキャラクターアニメーション賞(長編)と絵コンテ賞(長編)、第77回英国アカデミー賞のアニメーション賞、第47回日本アカデミー賞の最優秀アニメーション作品賞を受賞している。
本日3月11日にはスタジオジブリにて鈴木敏夫プロデューサーによる会見を実施。会見前にはスタジオジブリのスタッフ一同がテレビで授賞式を視聴し、結果が発表されると大きな拍手が巻き起こった。会見に登壇した鈴木は「朝早くから皆さんご苦労さまです」と記者陣を労い、「オスカー像ってね、1個もらえるじゃないですか。実はお金を払って注文すれば何個も作ってくれるんですよね。さっき3個注文しました(笑)。宮崎と僕とスタジオ用です」と笑いを誘いながらも受賞の感謝を述べる。
会見直前まで宮崎監督と電話で話していたという鈴木。「宮崎は『日本男児としてうれしい顔は見せちゃいけない』と言いつつ、喜びが溢れていたんですよね(笑)。心の底から喜んでいました」と明かす。また「宮崎に『おめでとうございます』と言ったら『お互いさまです』と、そんなことを言っていました」と話し、「一緒にやってきて今年46年目なんですかね。僕はいつも、彼に対してつい『こういう作品を作ってくれてありがとうございます』と言っちゃうんですよ。そうすると機嫌が悪くなる。なぜかというと『2人で一緒にやったじゃないか』と。それをいつも言われてね。心の中では『違う、あんたがやったんだ』と思っていたんですけど、ようやくこの歳になって受け入れられるようになりました」と語る。また宮崎監督の存在について「“怖い人”と言う人もいますが、僕にとっては“一緒にいて楽しい人”です」と言葉にした。
受賞に至った理由については「旧約聖書のような物語ですので、もともとアメリカのお客様のほうが受け入れてくれるのではと思っていました。映画が公開している間は言わないようにしようと思っていたんですけど、“宮崎駿の黙示録”を作ったという意識があった。その点が受け入れられやすかったのでは」と考察。「僕らの若い頃、60年代では聖書をもとにした映画がアメリカでたくさん作られました。この作品も色濃く影響された部分があるんです」と続ける。また「『千と千尋の神隠し』もそうですが、宮崎は80歳を超えても時代性を大切にしているんです。『君たちはどう生きるか』もそれをやってのけた」と考えを述べた。
スタジオジブリの次回作に関しては「(『君たちはどう生きるか』の)興行がひと段落しないと次に進むのは難しいですね。一旦、自分が抱えているものをすべて空っぽにしないと」と答える。続けて「常に最後の作品のつもりで作っているんです。今回は7年間をかけて『自分たちが作りたいものを作ろう』という思いで、いろいろなことがあって製作された。宮崎も『たくさんの人に観てもらえるか』と今まで以上に心配していたんです。お客様が観に来なくなったときが、彼にとっての引き際ではないか」とコメント。さらに2018年に死去した映画監督の高畑勲について触れられると、「彼は宮崎にとって先輩であり仕事仲間、友達。自分が一番影響を受けた人。僕と会うときは必ず高畑の話を延々としていた。この作品を作る途中で高畑は亡くなるんですが、どこかそれを引きずりながらこの作品を作っていたと思う」と想像した。
また3月20日からは日本語字幕付き英語吹き替え版「君たちはどう生きるか」の上映が日本全国で行われることが決定。英語版の吹替キャストはクリスチャン・ベール、デイヴ・バウティスタ、ジェンマ・チャン、ウィレム・デフォー、福原かれん、マーク・ハミル、ロバート・パティンソン、フローレンス・ピューらが務める。
※宮崎駿の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記。
(c)2023 Studio Ghibli