2023年12月で開設から15周年を迎えるコミックナタリーでは、15周年に合わせた企画を続々と展開中。人間で言えば15歳とは中学から高校に上がる節目であり、服装から言葉づかいまで心と身体の成長に合わせてありとあらゆるものが変化していく思春期の真っ只中だ。マンガ読みとしても、思春期を境にそれまでと読むマンガの趣味がガラッと変わったという経験を持つ人も多いのでは? このコラム「15の夜に読んでたマンガ」では、そんな15歳の頃に読んでいた思い出深いマンガについて人に語ってもらう。
第8回は、Web小説サイト・カクヨムで発表した「ほねがらみ」が話題となりプロデビューし、著作「異端の祝祭」のコミカライズも展開されているホラー作家・芦花公園が登場。山田風太郎原作、せがわまさき作画「Y十M(ワイじゅうエム) ~柳生忍法帖~」を題材に「15の夜に読んでたマンガ」を語ってもらった。また「今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガ」も記事末で紹介している。皆さんも、自分の「15の夜に読んでたマンガ」を思い出しながら読んでもらいたい。
文 / 芦花公園 リード文・構成 / コミックナタリー編集部
15歳の頃に読んでたマンガと、読んでた当時のことを教えてください
山田風太郎原作、せがわまさき作画「Y十M ~柳生忍法帖~」(講談社)
会津藩の暴君・加藤明成の悪政に苦言を呈したばかりに、罪人とされた堀主水が、同じく罪人とされた一族と共に引き回され、尼寺に連れて来られたところからこの物語は始まる。堀家は一族郎党罪人とされたのだが、女だけは尼僧として男子禁制の尼寺に匿われたのだ。加藤明成の臣である武芸の達人・会津七本槍は尼寺の門を破って乱入し、堀一族の前で女たちをも皆殺しにしようとする。一方的な惨殺が行われたが、時の将軍家光の姉にあたる千姫の介入によって、堀の女のうち七人だけは命が助かる。一族を惨たらしく殺された七人の女たちは復讐を決意するが、千姫は女の手だけで復讐を完遂したいと考える。柳生十兵衛は旧知の仲である沢庵和尚から依頼され、七人の女たちを指導して復讐の手助けをすることになる。
あらすじを長々書いてしまったが、この作品の大きな魅力は二点あって、一つは女性キャラが本当に可愛いことだ。復讐のために死ぬほど努力する堀の女七人の姿は涙を誘うし、最初は信用ならないと感じていた十兵衛に心を開き、十兵衛との仲を疑ってお互い嫉妬し合うようになる様子は何とも言えない愛らしさがある。また、敵役として出て来たおゆらの可愛さは筆舌に尽くしがたい。悪女が見せる愛情に弱いのは私だけではないと思う。
もう一つは、会津七本槍の使う技である。鎌で広範囲の竹林を切り開いたり、鞭で人体を真っ二つにしたり、人間より大きい三匹の犬を使ったり、不思議な網で相手を窒息死させたりと、全員意味の分からない能力を持っている。そして、全く容赦なく人を殺す。こんな意味不明な技に女たちが知恵と工夫で勝利していく過程はかなり面白かった。
当時は、週刊少年ジャンプ(集英社)で連載されていた「家庭教師ヒットマンREBORN!」(天野明)や「BLEACH」(久保帯人)が流行っていたが、私はリボーンよりY十Mという姿勢を崩さなかった。思えばあの頃から美しい人間、かわいそうな女の子、生々しい暴力描写が大好きだった。
この漫画をきっかけに、山田風太郎作品にのめり込んだ。このころは小説を書くなんて考えたこともなかったけれど、どう考えても影響されている。
今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガはありますか?
とあるアラ子「ブスなんて言わないで」(講談社)
この漫画はルッキズムを取り扱っているが、「ルッキズムはやめよう」「皆が美しい」というようなつまらない説教漫画ではなく、美しい者、醜い者、美しい者でありながら自分の外見に悩む者、醜い者でありながらルッキズムを許容する者──色々な立場の人間がこれでもかというほど丁寧に、現実的に描かれており、誰かの考えを否定も肯定もしない。排他的でない形で多様性を扱った唯一無二の作品だ。
私はひねくれもので、好きなことは悪態をつくことと食べることである。
正しく美しい論には必ず「でもそれは実践できないよね」と横やりを入れなければ気が済まないところがある。
さらに美形が大好きなので昨今の「全員美しい」という風潮には反対で、「いや世の中には美人とブスが明確に存在しますよね」と思っている。
15歳の時分にこの漫画を読めていれば、もう少し他者の痛みや考え方に寄り添い、いちいち意地悪な指摘をしない人間になれたのかもしれないと思う。
時すでに遅しだけれども、作品を楽しむ自由はあると思うので、これからも主人公の知子の生きざまを見守っていきたい。
芦花公園(ロカコウエン)
東京都生まれ。2020年夏、ネットに投稿していた小説がTwitter(現:X)でバズり、2021年春デビュー。怖い話と嫌な話を沢山書いています。最新作は「食べると死ぬ花」。京王線の芦花公園駅とは一切関係ありません。