スタジオポノック最新作「屋根裏のラジャー」の製作報告会見が本日8月21日、東京・帝国ホテルで行われ、キャストの寺田心、安藤サクラ、イッセー尾形、百瀬義行監督、西村義明プロデューサーが出席した。
12月15日に公開される「屋根裏のラジャー」は、スタジオポノックが手がける約6年ぶりの新作長編アニメーション。イギリス文学協会賞などを受賞したA.F.ハロルドの小説「The Imaginary」を原作とするファンタジーで、想像から生まれたイマジナリーフレンドたちによる人間には決して見えない大冒険が繰り広げられる。この日の会見ではキャスト発表も行われ、寺田が少女アマンダの想像から生まれた“イマジナリ”のラジャーを演じるほか、安藤がアマンダの母リジー、尾形がラジャーを付け狙う謎の男ミスター・バンティングを演じる。
2013年の高畑勲監督作「かぐや姫の物語」をプロデュースしたのち、スタジオジブリを離れて2015年にスタジオポノックを設立した西村プロデューサー。2017年に「メアリと魔女の花」を発表し、その後「屋根裏のラジャー」の原作となる「The Imaginary」と巡り合ったと語る。“イマジナリーフレンド”という存在が主人公の物語をアニメ映画化するうえで、西村は「僕たちはラジャーの人生に思いを馳せて、何を思っているのか、どんなことを経験しているのか、人間に忘れられるとどうなってしまうのかと考えました」と述べる。また「人間に忘れられると世界から消えてしまう」というラジャーの宿命について、「人間に忘れられていく少年の物語は悲劇なんだろうか? もしそうなら人間の人生そのものも悲劇じゃないか? そう考えたとき、この原作を僕たち自身の物語、人間の物語として描くことで価値のある作品ができるんじゃないかなと思った」と企画の発端を明かした。
さらに大きな挑戦が3つあったと語り、「1つは物語自体が挑戦。多面性を持った物語なので、映画として2時間の尺にまとめあげるのは難しかった」と述べる。またアニメとして新しい表現方法に挑んだことを明かし、「この技術があればアニメーションが一歩進むかもしれない。手描きアニメ2.0ですよ」とコメント。しかしその挑戦が1年間の公開延期につながったと言い、「公開を1年間延期して関係者の皆さんにはご迷惑おかけしました。ですが物語の挑戦、表現の挑戦、小さなスタジオの身の丈に合わない挑戦というものが、重なりながら大変な映画制作をしたなと思います」と自信をのぞかせた。
一方の百瀬監督は、先週迎えたという0号試写で手応えを感じたと語る。「試写を観たスタッフが手応えを感じているのを受け取ることができて、それがすごく心強かった」と明かし、「絵のスタイルも今までとは違うテイストにしています。長編でその工程を挟むのは大変なことでしたが、より洗礼された形で絵作りができたと思ってます」と振り返った。
キャスト発表を経て会見に登場した寺田は、2021年秋に行われたオーディションについて「ほかの誰かではなく、僕自身が絶対演じたいと思っていて、決まったときは泣いちゃうくらいうれしかったです。念願の役でした」と述懐。また今日初めて観たという予告編について「すごい声が違うので、これ僕なんだって感じでした(笑)。アフレコが始まるまでは保ってたんですけど、終わる頃にはちょっと声変わりしてるなって感じでした」と述べる。すると西村プロデューサーは、寺田が声変わりをする前に収録を終わらせるため、一部は先にセリフを収録するプレスコ方式を取り入れたことを明かした。
寺田と同じく、絶対にリジー役をやりたいと思っていたという安藤は、「大人になって他人からしたら私は変なのかもしれないと悩んでいた時期で。すごくこの作品に助けられました」と同作に対する強い思いを語る。また尾形は「台本を読んだときは、よくわからなかったんですよ(笑)。でも打ち合わせでバンティングの画を見せてもらった途端に親近感が湧いて、私そのものだなと思いました」と出演の決め手を語った。
その後の質疑応答では、西村プロデューサーが記者からの「“ポストジブリ”という見方もあるが、スタジオポノックとしてどう継承していきたいか」という質問に答える場面も。西村プロデューサーは答えに悩みながらも、「スタジオポノックは道を進んで切り開いていく覚悟や、喜びみたいなものを持っていると思ってる。そういう思いで一本一本作品を作っていくのが大事なんじゃないかなと思います」と述べた。
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