“マンガ原作者の仕事”にスポットを当て、なぜマンガ原作者という仕事を選んだのか、どんな理由でマンガの原作を手がけることになったのか、実際どのようにマンガ制作に関わっているのかといった疑問に、現在活躍中のマンガ原作者に答えてもらう当コラム。原作者として彼らが手がけたプロット・ネームと完成原稿を比較し、“マンガ原作者の仕事”の奥深さに迫る。
第10回には「マイホームヒーロー」や「100万の命の上に俺は立っている」で原作を務める山川直輝が登場。幼い頃からマンガ家を目指していたが、マガジンに投稿した受賞作で“原作”として作品を発表することになったという経緯から、原作者としてのこだわりまで語ってもらった。
構成 / 増田桃子
「マイホームヒーロー」のネームについて
ネームは、昔は絵も入れていたんですが、用意した絵と違う絵で上がってくる完成原稿を見るにつれ、だんだん入れなくなっていきました。
手抜きとも言いますが、よいふうに言うと、「朝基先生にお任せしています」(笑)。
別マガで連載しているほうでは、もっと絵も入れています。
1話ネームは、連載会議というコンペ大会に参加したもので、作画が朝基先生に決まる前に描いたものなので、キャラクターデザインも連載版とはまったく違うものです。
歌仙はその当時から第2部に登場する村出身という設定があったため、和服を日常的に着ていますが、和服設定はボツになりました。
当時はタイトルも未定で、ファイル名はジャンル名である「ダーティヒーロー」となっています(コラム読者にはわからない話をしてますが)。
ファイル名の「01v03」とは1話の3稿という意味です。
最終決定稿ではないので、部分的に原稿と違いますが、最も連載版に近い内容なのでこれを送りました。
この3稿が一番クオリティ高いのはわかるのに、担当編集が「別パターンを」「別パターンを」と直させ続けた結果、1話は7稿まであることは確認できました(8稿以降を消してなければ)。
同じ回を何度もやり直すと、初見なら新鮮だったはずのシーンも見飽きて客観視ができなくなり、「何が面白くて何が面白くないんだっけ?」を見失いがちなので、本当は微修正以外やるべきではないです。
根本的に面白くなければ根本的な修正か、全ボツをやるべきです。
本作の場合は1話1稿の地続きな微修正が3稿までとなっております。
1稿、特に第1話の1稿は、その回で、そのマンガで一番面白いと思っていた「肝」の部分が描かれております。
4稿目以降は、その肝も含めた今までよかった部分を「さらにその先へ」修正し続け、お笑いで言うところの「2周目、3周目のボケ」を、初見の読者である「1周目」に見せているような形になり、担当編集は意気揚々と(笑)第7稿を初見の朝基先生に提出し、「ほかの稿も見せて」と言われ、「3稿が一番いいじゃん」となり、数カ月かけた4~7稿がほぼ消滅。3稿をベースにほかの稿の要素も入れつつ1話の完成原稿になっています。
こちらは「ほらね」と思っております。
続いて、ほとんど絵がなくなり、コマ割りとセリフとト書きだけになった180話です。
180話ネームのファイル名の末部分についている話数が「Ⅲ30」となっていますが、第3部の30話という意味です(コラム読者にはわからない話をしてますが)。
2部の最終話が150話なので、3部の話数+150話が全体の話数になっています。
150話でちょうど17巻。
3部を始める前、タイトルを「マイホームヒーロー最終章」的なものに改題して「1巻から出し直す」という話があったため、そのようにしたんですが、結局連番で18巻を出すことになったため、このような形になっています。
マンガ原作者として仕事を始めるに至った経緯
マンガ原作者になろうと思ったことはないです。
もともと「ドラえもん」が好きで、6歳頃にアニメ「飛べ!イサミ」を観てマンガ家になりたいと思い、小2の頃からずっとマンガを描き続けていました。
高校卒業後、マンガの専門学校に通いつつ18歳からマンガ投稿を始め、26歳頃に描いた投稿マンガがマガジンで中ぐらいの賞を取りました。
その受賞作を1話として2、3話を書き足したネームを用意して連載会議に参加した作品が、別マガで現在も連載中の「100万の命の上に俺は立っている」になります。
その連載会議に参加する際に「作画は別で」と担当編集者に言われ、奈央晃徳さんが作画をやることになったため、原作に専念する形になりました。
「100万~」連載開始直後に立ち上げ担当が人事異動で外れ、異動した担当が新しい部署で新連載を立ち上げたいということで、こちらに声がかかり、「マイホームヒーロー」の企画を連載会議に提出する形になります。
なので自分は連載を2本やっていますが、立ち上げ担当は同じ人です。
原作担当として最もこだわっている作業
「展開」ですかね。
生来の飽き性により、同じ展開がずっと続くマンガが描けない体質になっています(「日常系マンガ」などを描くことになった場合、恐らくストレスで寿命が10年ぐらい減るでしょう)。
そのため、すべての作品、すべての作品内シーズンにおいて、「展開が変わり続ける」という作風でマンガを描いています。
「常に内容が変化し続ける」という作風は、一部の読者のためでもある以上に、自分自身にとって最もストレスが少ない作風だからそうしています。
それに対し、読者はマンガを新規購入する際、大きく2つの指針でマンガを買うと思われます。
それが、「キャラ」と「ジャンル」です。
拙著において変化し続ける「作風」とは、「ジャンル」と半分同じものなので、引きで見ると、「読者がマンガを買う指針」の4分の1を捨てる形でマンガを描いていることになります。
それでも、いかにジャンルが変化しようと、同名マンガで在り続ける、読者が同名マンガだと認識し続ける指針として、キャラを、人一倍魅力的に描く必要が……あるんでしょうね。きっと(描けてるかは不明)。
マンガ原作者という仕事の魅力
マンガ執筆という作業において、「最も心労がかかるのはネーム」「最も時間がかかるのは作画」というのが一般的に言われていることで、労働時間だけで言うと、全体の7割以上が「作画」の時間になります。
なので、原作と作画の両方をやってるマンガ家さんと比べて、約3割の労働時間で連載を1本やれる形になります。
なので現在連載を2本やれていますし、その2本の連載の総労働時間も、原作と作画、両方やって1本連載しているマンガ家さんより、大抵の場合、短いと思います。
それで余った時間をテレビや映画……インプットに回せる形です!(笑)
さらにその時間で、自戒も込めて書きますと、3本目の連載も準備中です。
年内に……始まったらいいなあ。
マンガ原作者を目指す人へのメッセージ
いいマンガや映画を、たくさん読んで、観てください。
それらがインプットになり、自分の作品のクオリティが上がっていくことになります。
が、逆に言うと、どれだけ作品を見ても自分の作品に活かせない人は、プロになるのは難しいと思います。
「他人の作品を自分の作品に活かせ」ということは、必ずしも「パクれ」「参考にしろ」という意味ではないです。
「他人の作品から受けたインスピレーションで、自分がやりたいことに気付く」のも大事です。
山川直輝(ヤマカワナオキ)
2016年、別冊少年マガジン(講談社)で「100万の命の上に俺は立っている」(作画:奈央晃徳)を連載開始。2017年よりヤングマガジン(講談社)で「マイホームヒーロー」(作画:朝基まさし)の連載をスタートさせた。「100万の命の上に俺は立っている」は2020年10月、「マイホームヒーロー」は2023年4月にTVアニメ化を果たしている。