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「マツコ&有吉 かりそめ天国」背景のマンガって誰がチョイスしているの?

テレビ朝日系列で、毎週金曜日20時に放送されているバラエティ番組「マツコ&有吉 かりそめ天国」。マツコ・デラックスと有吉弘行が、さまざまなテーマをもとに自由気ままに繰り広げるトークが人気の同番組だが、マンガ好きの間から注目されているのが、スタジオ背景に置かれているマンガ棚だ。「チェンソーマン」「呪術廻戦」といった王道の人気作品から、「みちかとまり」「女子高生除霊師アカネ!」といった発売されたばかりの新刊など、幅広いジャンルの作品が陳列されていることから、SNSではラインナップが変わるごとに話題を集めている。

そこでコミックナタリーでは、「マツコ&有吉 かりそめ天国」の本棚に置くマンガを選定しているという番組チーフディレクター・秋山直氏にインタビューを敢行。マンガを置くようになった理由、そして大のマンガ好きだという秋山氏の選書基準や、マンガ遍歴などを語ってもらった。とあるマンガ家とのつながりも……?

取材・文 / ちゃんめい 撮影 / ヨシダヤスシ

実は元書店員!? 棚に置くのは「その週に読んで面白かったマンガ」

──本棚のラインナップは秋山さんが行われているそうですね。スタジオにマンガを置くようになったきっかけを教えてください。

実は言い出したのは僕じゃなくて、前任のチーフディレクターがスタジオセットのテーマを“くつろげる空間”にしたいと言い出したのがきっかけです。今はありませんが最初はヨギボーが置かれていて、その流れでマンガの本棚が設置されました。

──最初の頃はどんな作品を置いていたのでしょうか?

スタッフの好きな作品や、番組名にちなんで「天国大魔境」や「天使なんかじゃない」のようにタイトルに“天”が入っている作品を置いていました。作品の入れ替えも特に行われていなかったのですが、2021年4月に僕がチーフディレクターに就任してからは、毎週交換で自分の好きなマンガを置くようになりましたね。

──どのような基準でマンガを選んでいるのでしょうか?

僕がその週に読んで一番面白かったマンガを選んでいます。特に背ではなく表紙を見せて陳列する、いわゆる“面陳(めんちん)”には一番の推し作品を置いています。ちょうどマツコ・デラックスさんの背景として映る部分でもあるので、面陳は毎週必ず変えるようにしていますね。

──面陳! 突然書店で使われている専門用語が……。

実は学生時代に中野の本屋で書店員のアルバイトをしていたんです。当時からマンガは大好きだったので、マンガ担当の社員さんにオススメを聞かれて、当時推していた渋谷直角先生の「RELAX BOY」と答えたんです。そうしたら社員さんが「RELAX BOY」の大きいコーナーを作ってくださったこともありました。

──―5月23日に発売されたばかりの田島列島先生の「みちかとまり」1巻がもうすでに置いてあるなど、面陳のマンガは特に新刊が多い印象です(※インタビューは5月末に行われた)。

その週に読んで面白かったマンガというのが大前提としてありますが、確かに発売されたばかりの新刊を置くようにしていますね。あとは、単行本が発売される前から連載をずっと追っていて「これは絶対に置くぞ」と決めているケースもあります。龍幸伸先生の「ダンダダン」がまさにそうで、1巻が発売された瞬間すぐに棚に置きました。

──面陳には新刊のほかに、特別の思い入れがある作品が置かれているんですね。

実は、過去に2回だけ非常に珍しいパターンがありまして。僕の同期が会社を退職した後にマンガ家になって「週末芸人」という単行本を出版したんです。実際に読んで面白かったからというのはもちろんですが、応援の意味も込めてこっそり面陳で置いていました。あと「税金で買った本」というマンガの担当編集も僕の元同期なんですよ。面白いなと思って読んでいたらまさかの同期が担当編集だったと知り、面陳に置きましたね。

──運命的な出来事ですね! ちなみに、その週に読んで面白かったマンガを選んでいるとのことですが、何をもって“面白い”と判断されているのでしょうか。

すごく難しい質問ですね……。ただ、過激な作品よりも、例えば本棚にも置いている田島列島先生の「みちかとまり」「水は海に向かって流れる」や、真造圭伍先生の「ひらやすみ」のように静けさを感じるマンガが好きなんです。だから、そういった作品に心惹かれて面白いと思う傾向があるのかもしれませんね。

──テレビの映りを考えて、書影が華やかなマンガを選びたくなることはないのでしょうか。

それはないですね。ただ、個人的にはマンガの“ジャケ買い”はよくします。ジャケ買いしたキッカケは、大学2年生のときに書店で見つけた九井諒子先生の「竜の学校は山の上」です。表紙がすごくカラフルできれいで、思わず手に取ってしまいまして。それで、いざ読んでみたら本当にすごい衝撃だった……。ファンタジーと現実の融合というか、最近増えてきましたがこの作品はその走りだと思います。

マツコ&有吉の小ネタでいっぱいな“本棚の秘密”

──番組内で本棚について言及されることは特にありませんが、収録前後でマツコ・デラックスさん、有吉弘行さんから何か反応はありますか?

おふたりは本棚については基本的にノータッチなので特にないですね。でも、有吉さんはスタジオに入られるとき、本棚を5秒くらい見てから席に座るんです。僕はそれがいつも本当にうれしいんですよ。有吉さんはマンガがすごくお好きなので、「見てくれた!」って密かにガッツポーズをしたくなります(笑)。

──ほかにもおふたりにまつわる本棚のエピソードはありますか?

実は本棚にはマツコさん、有吉さんにちなんだ小ネタを取り入れているんです。マツコさんが番組内で美内すずえ先生の「ガラスの仮面」への愛を語られていたことがあったので、一度棚から下げたのですが復活させたり。あと、以前有吉さんがラジオで「Dr.STONE」と「望郷太郎」は近いものを感じるというお話をされていたので、あえて隣に並べて陳列してみたり……。そういえば、あまりにも過激なタイトルや内容のマンガは置かないようにしているのですが、有吉さんがTwitterに写真をあげていたので、「地元最高!」だけはつい並べちゃいましたね。タイトル名に反して内容はかなりパンチの効いた作品なんですが(笑)。そういったわかる人にはわかる小ネタをたくさんちりばめています。

エゴサの鬼・秋山ディレクター、感想ツイートを見て「しめしめ」

──本棚をよく見ると「チェンソーマン」「ゴールデンカムイ」なども置いてあり、メジャーな作品もしっかり押さえていますよね。

やっぱりそこはSNSで話題になったらいいなという欲も少しありまして(笑)。そのときにアニメ化している作品もあえて置くようにしています。

──やっぱりSNSでの反響はチェックされているのでしょうか?

もちろんしています! 僕はエゴサの鬼なので、放送中はずっと「かりそめ天国」で検索していて、番組へのよい意見はもちろん悪い意見、そしてマンガの意見まで全部目を通しています。

──マンガについてはどんな意見が寄せられるのでしょうか?

「マツコさんの後ろに置いてあるマンガが気になる」という声は毎週見かけますね。個人的にうれしいのは「このマンガを選んだ人と友達になりたい」というコメント。あと、「このチョイスをした人はわかってる」なんてちょっと上から目線の意見もしめしめと思いながら眺めています(笑)。でも、何よりもご自身のマンガが置いてあることに気付いた作者さんのツイートがうれしいですね。

──最近だと「女子高生除霊師アカネ!」の大武政夫先生がツイートされていましたね。

そうなんですよ。マンガファンとしてのうれしさはもちろん、作者さんがツイートしてくださることで番組も話題になる。2つの喜びがありますね。

マンガ好きになったきっかけは「め組の大吾」

──秋山さんは大のマンガ好きでいらっしゃいますが、幼少期から今に至るまでにどのような作品に触れてきたのでしょうか。

初めて読んだマンガは浜岡賢次先生の「浦安鉄筋家族」でした。親戚のお姉さんが読んでいた影響で小学校低学年くらいの頃に読み始めたのですが、もうどハマりしましたね。

──入り口はギャグマンガだったんですね。

特に「浦安鉄筋家族」の巻末が大好きなんですよ。浜岡先生がその巻に収録されているお話について「これはよく思いついた」とか、ご自身で反省会をしていらっしゃるんです。子供の頃はなんとなく読んでいたのですが、大人になった今では最後になんて言うのか予想しながら読んでいて……。例えば、この話は浜岡先生は気に入っていないだろうな、反対にこれはすごく満足されているんじゃないかなとか。そんなことを考えながら巻末を読むとこれがけっこう当たるんです(笑)。

──もはや浜岡先生の考えていることがわかる域に……。

その後、小学校高学年くらいのときにドラマ「ファイアーボーイズ~め組の大吾~」を観たことをきっかけに原作の「め組の大吾」を読み始めたのですが、もう夢中になりましたね。若き消防士たちが伝説の消防官へと成長していく物語なのですが、これがすごくカッコよくて。マンガ好きになったきっかけとも言える作品です。

──週刊少年ジャンプ(集英社)などの王道は通られなかったのでしょうか?

もちろん週刊少年ジャンプも読んでいましたし、あと月刊コロコロコミック(小学館)も読んでいました。「うちゅう人 田中太郎」「ゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくん」とか懐かしいなあ……。ただ、子供の頃って今ほど気軽にマンガを買えるわけではなかったので、立ち読みが多かったんですよ。だから「大学生になったら死ぬほどマンガを買うぞ!」とずっと心に決めていて(笑)。

──確かに、子供のお小遣いだと限界がありますよね。

それで、自由にお金が使えるようになった大学生のタイミングで、マンガをめちゃくちゃ買い始めました。当時は中野に住んでいたので、まんだらけに週3で通っていました。古本屋なので大学生のお財布にも優しいんですよね。

人生のベストマンガ3選は?

──現在の蔵書数は何冊くらいでしょうか?

僕の背よりも高い本棚が5つあるのですが、いったい何冊あるんだろう。友人からはもはやマンガ喫茶扱いされていて、マンガ目当てで家に来る人もけっこういますね(自宅の本棚の写真を見せながら)。

──ご自宅の本棚にたくさんのマンガが並んでいますが、この中から人生のベストマンガを3つ選ぶとしたら?

すごく悩むのですが、一番最初に出てきたのは豊田徹也先生の「アンダーカレント」。静かなのに物語がしっかりと入ってくる……それが本当にカッコいいんです。無駄なものが一切なくて、セリフ、表情の妙で最初から最後まで見せ切る。まるで映画を観ているかのようでオシャレだなと、大学生のときに夢中になって読んだ記憶があります。

──キャラクターではなく、物語の見せ方に注目されているところが面白いなと思いました。

それは、僕が映画が好きだからかもしれないですね。キャラクターよりも絵の流れというか、まるでカメラが動いているような映像的なコマ割りが好きなんです。

──2つ目はいかがでしょうか?

大橋裕之先生の「シティライツ」です。大橋先生がとにかく大好きで、自費出版の作品も集めているし、あと自分が担当した特番のロゴを描いてもらったこともあるんです。

──どういった経緯でご一緒にお仕事するところまで辿り着いたのでしょうか。

大学生のときに行った大橋先生のサイン会で「いつか絶対に大橋先生とお仕事がしたいです!」って伝えたんですよ。それから、自分がテレビ朝日で働くようになって「こんなオジさんだけど混ぜてもらっていいですか?」という番組の企画が通ったとき、念願だった大橋先生にロゴを依頼したら、なんと僕のことを覚えていてくださったんです。

──まるでマンガみたいな展開ですね。大橋先生の作品のどんなところに魅了され続けているのでしょうか。

大橋先生は、「そこを切り取るのか?」っていう描き方をされるんですよね。例えば、ヤンキーがパン工場のすぐ近くでケンカをしていて、でも焼きたてのパンの香りがしてきたらケンカする気が失せてそのまま解散したり。ほかにも、冴えない男子中学生と小学生男子が仲良く遊んでいたかと思えば、小学生が中学生のベットの下からエロ本を見つけてしまうんです。そうしたら小学生に向かって「この童貞野郎」と叫ぶ……。そういった「よくそこで切ったな!」と思う意外性がマンガの中で連発していて最高なんですよ。しかも、それを情感たっぷりに描くから余韻がすごくて、とにかくクセになる読後感なんです。

──これ以上の作品は出てこないと思うほどの大橋先生愛を感じますが、3つ目はいかがでしょうか?

シンプルですけど、やっぱり尾田栄一郎先生の「ONE PIECE」かなと。人生で一番読んでいるマンガですし、小学生時代から現在に至るまで変わらず同じ熱量で語れる作品ってすごいなと思います。

──マンガ棚に並べる作品は毎週交換されるということで、毎週たくさんの作品を読んでいるかと思います。ここ最近で一番注目しているマンガを教えてください。

マンガではなくマンガ家さんなのですが、岡田索雲先生は絶対にもっと注目されるべき方だなと思っています。主な代表作に「ようきなやつら」「メイコの遊び場」「鬼死ね」という作品があって、妖怪、子供の遊び場、鬼といったキャッチーでわかりやすい要素を用いながらも、実は社会問題や差別、戦後の薄暗い感じとか、かなり重いお話を描いているんですよね。

──「ようきなやつら」に収録されている「東京鎌鼬」というお話は一時期Twitterで大きな話題を呼びましたよね。

衝撃的なお話なのに、妖怪や鬼といった題材を使ってしっかりとエンタメに昇華されている……この絶妙なバランス感覚を保たれているのは本当にすごいことだと思うので、岡田索雲先生はこれからもっと有名になっていくんじゃないかなと。

情報源は、マンガ大好き芸人と中野のまんだらけ

──ちなみに毎日忙しい中でマンガを読む時間はどのように確保されているのでしょうか?

睡眠時間を削って読んでいます(笑)。やっぱりマンガが大好きなので、どんなに明日の朝が早くても読みたい!という気持ちが勝っちゃいますね。

──マンガはどのように探されているのでしょうか?

それこそ、朝起きたらまずコミックナタリーの単行本リストをチェックして、その日に本屋へいくべきかどうか判断しています。あとは、マンガ好きのお笑い芸人さんにおすすめのマンガを聞くこともあります。特にタイムマシーン3号の関さん。関さんは有吉さんにマンガをおすすめする係でもあるのですが(笑)、ロケでお会いする際は必ずお互いにおすすめのマンガ情報を交換します。最近だと、中武士竜先生の「十字架のろくにん」をおすすめされましたね。

──マンガ好きなお笑い芸人さんってけっこういらっしゃいますよね。

そうなんです。オカリナさんとかね……と言っても、「僕のヒーローアカデミア」の話しかしないんですけど(笑)。あと、オカリナさんの同期である吉川きっちょむさんという方がすごくマンガに詳しいと聞いて、きっちょむさんのTwitterはよく参考にしています。

──お気に入りの書店はありますか?

月に1回は中野の「まんだらけ」本店に足を運ぶようにしています。必ず特集コーナーをチェックするのですが、このお店は一般的な本屋さんだったら絶対に選ばないような尖った選書をするんですよ。先日行った際は“2023年イチオシマンガ”みたいな特集棚が設置されていたのですが、そこで「ツワモノガタリ」と出会いました。もう、面白すぎてびっくりしましたね。

番組ロゴは小山ゆうじろう作、藤本タツキとの“夢”も

──本棚に置くマンガの選書という面でも活かされているとは思いますが、そのほかにマンガ好きであることが仕事で役に立ったことはありますか?

「マツコ&有吉 かりそめ天国」では、マツコさんや有吉さんのトーク内容をイラストにした挿絵が名物の1つとなっているのですが、この挿絵をイラストレーターさんに依頼する際にマンガをたくさん読んできた経験が活かされているなと思います。例えば、1つのトークを2コマに分けて描いてもらう際、動きの想像がしやすいんですよね。完成図が自分の中でしっかりとイメージできているから、細かく指示が出せるんです。先ほど映像的なコマ割りが好きという話をしましたが、マンガをそういうふうに細かく読んできたからこうして指示が出せるのかな?と思うときはありますね。

──本棚はもちろんですが、挿絵の表現にも注目していくと、マンガ好きにとっては新たな発見がありそうですね。最後に、これからマンガ家さんと一緒にやってみたいお仕事がありましたら教えてください。

番組のロゴは絶対にマンガ家さんにお願いしたいと思っています。「マツコ&有吉 かりそめ天国」のロゴも実は「とんかつDJアゲ太郎」の小山ゆうじろう先生に描いていただいたんですよ。あとは、藤本タツキ先生と一緒に何かやってみたいです。「ファイアパンチ」「チェンソーマン」など全作品拝読していますが、もうめちゃくちゃなことするじゃないですか(笑)。映画的なコマ割りはもちろんですが、あの煙に巻かれたような読後感が最高ですよね。以前「クイズ!ウラ設定はなんでしょう?」という、ロケの裏設定を推理するバラエティ番組を企画したのですが、藤本タツキ先生にこの裏設定を考えてもらう……なんてことがあったらどんな番組になっていたのかなと思います。いつか一緒に番組を作れたらうれしいですね。

秋山直(アキヤマナオ)

2015年テレビ朝日入社。過去の担当番組は「もう中学生のおグッズ!」「ぼる塾のいいじゃないキッチン」など。現在は「マツコ&有吉 かりそめ天国」でチーフディレクターを務めるほか、「ランジャタイのがんばれ地上波!」では演出を担当している。