高橋ツトム原作による実写映画「天間荘の三姉妹」の舞台挨拶付き試写会が、去る10月22日に宮城・MOVIX仙台で開催された。
10月28日に全国公開の「天間荘の三姉妹」は、高橋の代表作「スカイハイ」のスピンオフ作品「天間荘の三姉妹 スカイハイ」が原作。臨死状態にある人間の魂がたどり着く、天空と地上の間の温泉旅館・天間荘を舞台に、宿を切り盛りする天間のぞみとかなえの姉妹、そして腹違いの妹・たまえの物語が描かれる。舞台挨拶には高橋、北村龍平監督、仙台市長・郡和子氏、女川町長・須田善明氏が登壇。北村監督は「震災が起きて半年くらい経って、僕が20年来兄弟と呼んでいる高橋ツトムさんと食事をしたとき、ツトムさんは『大変なことが起こっている。だけれど、人間というのは、その場にいないと忘れてしまう。年月が経ったら忘れてしまう。自分はものを、メッセージを描いて世に放ち、思いを伝えてきた人間だから、僕はこの出来事に対して、メッセージを込めた物語を描くんだ』という話をしてくれました。僕はその言葉にとても感銘を受けました。その2年後に始まった連載が、この『天間荘の三姉妹』です。彼にしかできないやり方で、ファンタジーという普通ではない発想でこの物語を描いてくれていて、僕は、彼が生み出した愛してやまないこの物語を“映画”という違った表現で世に放ちたいと思いました。生半可な気持ちで扱っていい物語ではないという覚悟を背負って、8年かけて、執念で実現した映画です」と、「天間荘の三姉妹」に対する並々ならぬ熱い思いを述べた。
続けて北村監督は宮城の人々に向け、「僕は普段緊張しないのですが、初めてこの映画を宮城の方々に観ていただく今日ばかりはさすがに緊張しています。来週から全国公開となるのですが、その前に、なんとしてでも本作を宮城の方に観ていただきたかった。礼を尽くさないと、全国公開などできないと思っていました。復興支援センターの方々などの多大なる協力を得て、この場に立てていることを本当に幸せに思います」と挨拶。高橋は「この問題を扱う作品を描くことは、正直本当に怖かったです。ですが、止めることのできない衝動に駆られて描きました。なぜそこまでやったのかというと、どんなドキュメンタリーを作ってみても、亡くなった方たちの声を聞くことはできないからなんです。どうにかして、そこに(亡くなった方々の)言葉がある、思いがあるということを描いてみたくて、信じてみたくて、挑戦させていただきました。僕が一番最初に手を挙げてこの物語を走りださせたのですが、それは、とても力のいることでした。扱っていいものなのかもわからない。ですが、僕がビビってしまってはダメだと思って全開でいきました。すると、それに応えてくれる人が現れるんです。8年の歳月をかけて、この映画をここまで持ってくることができました。本当に嘘のない作品です。思いを届けたいという純粋な気持ちだけで向き合ってできた作品です。今日はご挨拶に来られて、とてもうれしいです」と原作者として、覚悟をもってこの作品に向き合い続けてきたことを明かした。
執筆に至るまでの制作秘話について高橋は、「大勢の方々が亡くなったというこの出来事をどう描くか、ということを考えたとき、自分にはこれまで描き続けてきた『スカイハイ』というシリーズが浮かびました。これは、亡くなった方が魂の行き先を悩み、そして決めるという物語です。そのとき、一度に大勢の方の魂がやってきた場合はいったいどうなるのか、ということを描くべきだと考えたところからスタートしました」とコメント。北村監督は震災から10年以上が経った今、「天間荘の三姉妹」を制作した理由について「先程ツトムさんがおっしゃってくださったように、この題材にフィクションという形でふれることはとても怖いことだと思うんです。でも、この男(高橋)の情熱によって、震災からわずか2年後にこの作品が世に放たれたんです。今日映画を観ていただいた方にはわかると思いますが、決して僕たちは簡単な希望でこの題材を作ったわけではありません。ツトムさんの強い気持ちを僕が映画という形で引き継ぎました。映画というのは、大変な人手とお金と情熱と年月が必要ですが、それ故に多くの不純物が入り込みやすいものなんです。でも、この作品に関してはそうはしたくなかった。僕のパッションやクリエイティビティを一緒に守ってくれる方たちだけでやりたかったんです。僕はこの作品を映像化する覚悟を決めた8年前からずっと動き出すタイミングを考えていました」と述べる。
さらに北村監督は「そこから時間が経ち、今から3年前、僕の妹のような存在である嶋田うれ葉と一緒に仕事をすることになりました。彼女は、NHKの連続テレビ小説『エール』の脚本を担当することになっていて、ちょうど世間に広く知られていった時期でした。『うれ葉と一緒に仕事をするならどうしてもやりたい作品がある』と彼女に伝えて本作の原作を渡したところ、彼女が『今だ!』と背中を押してくれたんです。そこに、真木太郎プロデューサーと和田大輔プロデューサーが加わって4人になりました」と言及。続けて「先ほどツトムさんがおっしゃていたように、人は年月が経てば物事を忘れます。毎年3.11になったら震災の特集はありますが、僕たちはそうじゃない。ちょうど10年になったから作ったわけではない、ということで、11年目となる今年に、世に出すこととなりました」と、「天間荘の三姉妹」の完成までの長い道のりを回顧した。
「天間荘の三姉妹」のテーマの1つである「思いは繋がっている」にちなみ、同作を通して伝えたいメッセージについて問われるた北村監督は、「僕は子供の頃に産みの親を亡くしているんです。子供の頃に経験した喪失というのは、その後とてつもない孤独感を与えます。でも、いつの頃からか、ずっと母親に守られている気がしていて。そしたら、育ての母親が僕の目の前に現れてくれて、今でもちゃんと僕のことを愛してくれているんです。それこそがツトムさんが原作で描かれたこと、『人は死んでも終わりではないんだ』ということだと思うんです。それを僕が信じることができたからこそ、この原作を引き受けることができたのだと思います」と回答。それを受けて高橋は、「僕は忘れるということが一番いけないことだと思うんです。“思う”ということで何かが生まれ、空気が動きます。一瞬だけでも、思い出すためのきっかけになっていただけたらうれしいです」と話した。
途中「アイリンブループロジェクト」の語り部として花を通し、命の大切さについて講演している佐藤美香氏から、花束が贈呈される場面も。最後に北村監督が「温かい拍手をいただけて、僕もツトムさんもとても救われています。8年がかりで作った作品をようやく届けることができて、光栄に思います。宮城の皆さんの応援がなければ、作ることもできなかったし、こんなに誇りに思える作品にすることもできませんでした。僕は初めて宮城の方々にあったとき、『なんてロックなんだ。なんてアツい方たちなんだ』と思いました。この映画にはそのパッションが込められています。この映画が広がっていくことで、この作品に込められた想いが世界中の人に届くと思っています」とメッセージを贈り、温かい拍手に包まれながらイベントは幕を閉じた。
映画「天間荘の三姉妹」
2022年10月28日(金)全国公開
出演:のん、門脇麦、大島優子、高良健吾、山谷花純、萩原利久、平山浩行、柳葉敏郎、中村雅俊(友情出演)、三田佳子(特別出演)、永瀬正敏(友情出演)、寺島しのぶ、柴咲コウ
プロデューサー:真木太郎
監督:北村龍平
脚本:嶋田うれ葉
音楽:松本晃彦
原作:高橋ツトム『天間荘の三姉妹-スカイハイー』(集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL 刊)
配給:東映
制作プロダクション:ジェンコ
製作:『天間荘の三姉妹』製作委員会
※高橋ツトムの高ははしご高が正式表記。
(c)2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会