さいとう・たかをお別れの会に友人代表ちばてつやら参列、秋本治は“夢の300巻”へエール
「劇画家 さいとう・たかを お別れの会」が、本日9月29日に東京・帝国ホテル本館2階孔雀の間で執り行われている。
昨年9月24日に膵臓がんのため死去し、先日1周忌を迎えたさいとう・たかを。「お別れの会」は今年の初頭に予定されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大に鑑み延期となっていた。会場内にはさいとうが生前好きだったという野の花をイメージした祭壇が設置。中心にさいとうの遺影が飾られ、両脇には「ゴルゴ13」「鬼平犯科帳」など代表作のイラストが迫力ある大きさで並んだ。
会に先立ち、ちばてつや、里中満智子、秋本治が取材に応じた。さいとうについて、ちばは「マンガは子供が読むものだったが、さいとうさんは50年前からマンガ、劇画は大人たちが楽しめる時代が来るんだと先見の明があり、我々の先頭に立っていてくれた人だったので、お亡くなりなったのは本当に残念」と惜しむ。里中は「私は(さいとう)先生が誰かの悪口を言ったり怒ったりしたことを見たことがない。本当に常にいろんな立場の人に配慮する方」とさいとうの人柄を明かした。またさいとう作品の中で最も好きなマンガを問われた秋本は「無用ノ介」とコメント。「『無用ノ介』は武士の魂を感じる。一番円熟した作品だなと、今でも月にいっぺんは読んでいます」と作品への愛を口にした。
関係者のみで行われた「お別れの会」には約300人が参列。さいとう・プロダクションの社長で、さいとうの夫人である齊藤輝子氏は「(さいとう)先生は亡くなるまで『この歳まで現役で仕事をさせていただき、わしは本当に幸せ者だ』とことあるごとにお話しておりました。先生は常々スタッフはじめ、仕事に関わるすべての方々、何よりも読者に皆さまに感謝をしておりました」と振り返る。続けて「右手にペンを、左手に男のロマンを握りしめ机に向かう姿はまさに職人でした。時折、少年のようにキラキラ輝く目は冒険心に満ち溢れておりました。先生の後を追いながら先生に挑戦していくさいとう・プロダクションのスタッフ一同を、これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」と涙ながらに述べた。
さいとうのことを普段は「たかをちゃん」と呼んでいるちば。「普段は強面で気難しそうな印象の人だから、そのサングラス越しにギョロッと睨みつけられると、大抵の人は足がすくむんじゃないかと思いますよ。でもね、あなたは見かけによらず誰よりも周りを思いやるとても優しくて思慮深いジェントルマンでした。仕事も遊びもすべてに大胆で繊細なゴルゴ13とたかをちゃん、今の私には2人がまるで一心同体。記憶の中ではしっかりと重なって見えるんです」と語りかける。そして「たかをちゃん、私もまもなくそっちに行くで、待っとってね。令和4年9月29日、友人代表ちばてつや」と締めくくった。
里中はさいとうが確立した分業制の功績について述べながら、「私は先生に伺ったことがあります。『自分で隅から隅まで描きたくなるときがあるのではないですか?』と。先生は『世の中には自分より絵が上手な人はいっぱいいる。マンガ家はストーリー、シナリオ、構成、キャラクター、作画すべてを求められる。それぞれが得意な分野を集めて1つの作品を作る、自分は自分より上手な人の才能を活かしたい』とおっしゃっていました。自分を抑えてこそ、みんなの力を活かすことができる、そういう意味だと受け止めました。その信念を貫く覚悟があったからこそ成立したプロダクションシステムであり、さいとうプロ作品なのです」と述懐。さらに「80歳近くになられた頃だったでしょうか。手の調子が悪く、神経が固まってとても痛いとおっしゃっていたことがありました。でもその手で月産200ページほど手を入れておいでだったのです。発表された作品はそんなことを微塵も感じさせないものでした。『分業だから自分では描いていないのではないか』という話がまことしやかに飛び回っていたことがありますが、そんなことはありません。自分のやるべきことから逃げない強さを教えられました」と称えた。
“ファン代表”として弔事を読み上げると前置きした秋本は「僕も劇画家を目指し、それの箸休めとして『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』を描きました。それを応募したらなんと入賞してしまって、その年から連載をすることになったんです」と思い返す。「ギャグマンガ家としてデビューしてしまったので、さいとう先生とは接点がないと諦めていたんですが、どういうわけかコミックスの巻数(が長いこと)で先生とご一緒することになり、先生と並べてもらえるだけでうれしいなと思っていたんです」と続けるも、「そのうち『こち亀』の巻数が『ゴルゴ』を抜いてきたんですね。先生は『別に気にしないよ』とは言ってたんですけど、すごく負けず嫌いなことを知っていたので、これ以上は抜かないでくれと思っていました」と告白。「そのうち『こち亀』が200巻で完結してホッとして。そして去年の春に『ゴルゴ』が200巻を迎えて、201巻も発売されて、これで名実ともに世界一だ、よかったと思っていたら、そのあと『こち亀』も201巻が出ちゃったんです。僕は出ると思わなかったんですよ。なので『ああ、また先生と並んじゃった』と思ったんですけど。でもこれからも『ゴルゴ』はずっと進んでいってほしいと思います」と語り、「さいとう先生は『劇画は1人で描くのではない、専門の分野を集めてみんなで作り上げていくものだ』とかねがねおっしゃってまして。恐らく先生は今も『ああ、みんなよくやっとるな』と笑っているんじゃないかと思います。先生が育てた有能なさいとうプロのスタッフ、そして優秀な編集者の皆さま、ぜひ『ゴルゴ13』の夢の300巻に向けて続けていただきたいと思います。がんばってください」とエールを送った。
なお展示ブースには中央にゴルゴ13の銅像が登場。代表作の数々のパネルやさいとうの写真、モデルガンとともに、約600冊の単行本、約150冊の雑誌が飾られた。
また本日17時から19時までの間は一般の参列も可能。さいとうへの思いを綴って投函できるメッセージコーナーも設けられている。