ベルアラートニュース

あのマンガの装丁の話 第5回 「いつものはなし」近藤聡乃編

装丁とは、本を開くよりも前に読者が目にする作品の顔。そのマンガをまだ読んだことがない人にも本を手にとってもらうべく、作品の魅力を凝縮したデザインになっている。装丁を見ることは、その作品を知ること。装丁を見る楽しさを知れば、マンガを読む楽しさがもっと広がるはずだ。本コラム「あのマンガの装丁の話」では毎回1つのマンガを取り上げ、装丁を手がけたデザイナーを取材。作品のエッセンスをどのようにデザインに落とし込んだのか、そのこだわりを語ってもらう。

第5回では、前回登場したデザイナー・森敬太氏が語ってくれた「著者自装」(作者自身が自作の装丁をするケース)の魅力を掘り下げるべく、近藤聡乃「いつものはなし」をピックアップ。マンガだけでなく装丁まで自分で手がけた近藤本人と、同作の編集を手がけた青林工藝舎の手塚能理子氏を招き、どのように「いつものはなし」の装丁ができあがったのかを聞いた。

取材・文 / ばるぼら

デザインはできないのに、装丁をやってみないかと言われて……

──近藤さんの最初の単行本「はこにわ虫」(青林工藝舎)の装丁はミルキィ・イソベさん+安倍晴美さんが手がけていました。同じく青林工藝舎から2冊目の単行本「いつものはなし」を出すとなったとき、どうして装丁を近藤さんご自身がやるという話になったのでしょうか。

近藤聡乃 昔のこと(2008年)なのでよく覚えてないんですけど、たしか手塚さんに提案していただいてそうなったんですよね。

手塚能理子 私が言い出したんでしたっけ。近藤さんが「やります!」って言い出した記憶があるんですけど。

近藤 私はデザインに対して苦手意識があるので、自分からは言わないと思うんですよね……。

手塚 じゃあ私かもしれないです(笑)。近藤さんに限らず、作品の世界観が強い方には、自分で装丁をやっていただくと面白い本ができたりもするので、それで頼んだんだと思います。近藤さんは文字が全部手書きなんですよね。ノンブルから奥付まですべて手書き文字にこだわっていて、そういう人が装丁をやったら面白いんじゃないかと、きっとそのとき思ったんですね。

──近藤さんは自装案を提案されて、自分でもできると思いましたか。

近藤 いえ……。大学ではグラフィックデザイン学科にいたのですが、自分にデザインは向いてないっていうのが入学してすぐにわかったので(笑)、デザインは自分にはできないもの、という意識がずっとあります。もともと絵本が好きだったので、絵本作家になれたらいいなという気持ちもあって、それでグラフィックデザイン学科を受験したんです。デザインの勉強をして、絵を描いて装丁もできれば、自分で絵本を作れるようになれるかなと思って。そしたら、そうはいかなかったっていう(笑)。今考えるとなぜグラフィックデザイン科に入ってしまったのか……。とにかくデザインからは逃げてきたので、手塚さんに言われても、できるという気はしなかったと思うんです。

──デザイナーに向いていないと思った理由はなんだったんでしょうか。人に依頼されるモノ作りよりも、自分でゼロから何か作りたいと思っていたとか?

近藤 というより、どうやってデザインしたらいいのかわからないんです。どこから始めていいやらさっぱりわからない。自分の中に基準がないんですね。好きとか嫌いとか判別できる人は自分の中に基準がある人だと思うんです。私はそれがないから、何を学んでいいのかがそもそもわからないという大学時代でした。

──そんなにデザインに苦手意識のある近藤さんが装丁をすることになってしまった(笑)。

近藤 積極的にやりたい!と思ったのではなくて、やってみたらと言われて恐るおそるという感じで……とにかくやることになってしまったんです(笑)。

“昔の英子ちゃんから今の英子ちゃんに届いた手紙”をコンセプトにデザイン

──いざ装丁をするとなって、まず何から始めましたか。

近藤 当時のメールを読み返してみたら、まずは本の構成から決めていました。初めて描いたマンガである「女子校生活のしおり」をはじめ、“記憶”や“思い出”をテーマにした初期作品が「いつものはなし」には収録されています。それらの短編をまとめるために冒頭に「いつものはなし」というマンガを描き下ろしました。

──「いつものはなし」は主人公・英子ちゃんのもとに思い出せない友達から手紙が届く……という話でした。

近藤 本全体を“昔の英子ちゃんから今の英子ちゃんに届いた手紙”というコンセプトでデザインしています。マンガの中に手紙や便箋が出てくるので、本全体が封筒に見えるようにしたいなと。

手塚 それで本をめくったところの見返しには、便箋用の用紙を使ってるんです。最初に近藤さんが「こういうふうなデザインを考えてます」っていう案を描いてくれてて、その時点でけっこう細かい指定がありました。

近藤 ビジュアル面からデザインする自信がなかったので、まず「いつものはなし」を軸に全体のコンセプトみたいなものを考えて、それに沿っていろいろな細部を決めていく、という進め方をしました。本は全体を4つに区切っています。「今日の話」「最近の話」「一年後の話」はもとは連作でしたが、本ではバラバラに入れて章立てに使って、全体に統一感を出すことにしました。手塚さんには「こういう装丁はどう?」って青林工藝舎の本をいくつか見せてもらいました。「いつものはなし」の目次は、手塚さんに見せていただいたアリエス(2001年に出たアックスの増刊号)の目次が折込になっているのを参考にしたと思います。

手塚 そうでしたね。アリエス自体も昔の雑誌を参考にして作ったものなんですけども、こういう見せ方も面白いんじゃないかと話をした気が。うっすら覚えているのは、折込の用紙を、できたらもう少し透ける紙でやりたかったこと。でもこの折込っていう特殊加工がこれ以上薄い用紙だと無理ってことになって。実は目次を透かすと、表と裏の絵がつながるようになってるんですよ。近藤さんがここをこういうふうに絵を合わせてほしい、みたいなプロットを描いてきてくださって。

──(透かして試す)本当だ!

手塚 この折り目も、女の子2人がくっついてるところでちょうど折られるようにしてくださいとか。それと同じように表紙が折り返した袖の部分と表2にも、封筒に貼るシールをイメージした絵が合わさる仕掛けがあって、ここは絶対にズレないように印刷してくださいとお願いしてました。そのひそかなこだわりのため、近藤さんと印刷の立ち会いに行ったんですよね。

近藤 「いつものはなし」の中に、手紙と一緒に過去の写真が入れられて送られてくるっていうシーンがあって、それで目次の次の最初の絵には絹目調の用紙を使っているんです。昔の写真みたいな紙で、という伝えて手塚さんに選んでいただきました。

手塚 OKエンボス絹目っていう用紙で、普段はそんなに使わないちょっと珍しい種類の用紙なんですけど、昔の写真みたいな凹凸の手触りがあるんです。近藤さんからは手触りや色味とかで用紙のイメージを伝えてもらって、それを印刷所の営業の方と選びに選んで決めていきました。

近藤 全体的にこの本の質感が好きですね。選んでいただいた用紙とか、持ったときの感触とか。

版元的にはリスクが大きい、カバージャケットのない本にこだわった理由

──「いつものはなし」はジャケットのないガンダレ製本(長い表紙を小口で内側に折った造り)になっていて、少しフランスっぽいです。この仕様は近藤さん発案ですか。

近藤 はい。私は本のジャケットがあまり好きじゃなくて。読んでるとちょっとずれてくるじゃないですか。あれが苦手で、それでジャケットなしにしたかったというのがありました。

手塚 これは表紙が汚れたときにジャケットだけ取り替えて再出荷することができないから、返品リスクを考えて版元的にちょっと迷った記憶もあります。それで汚れにくくするためにPP加工してるんですが、近藤さんが持っているイメージと印刷結果にどれくらい誤差が出てしまうか、刷り上がるまで心配でした。全体的に特殊仕様が多いので、そのぶん表紙にはすごく安い用紙を使ってるんです。今はもう廃番になってしまったんですけどね。使いやすくて重宝していたんですけど。

──オビは通常なら「○○先生推薦!」とか宣伝文句が入るところですが、「いつものはなし」は詩情のあるテキストが主張しすぎず記されている、一風変わったオビですね。

近藤 この帯の言葉は手塚さんが考えてくださったんですよ。最初の「はこにわ虫」もそうです。

手塚 造本にけっこうお金がかかったので、宣伝効果があるような「○○先生」に一筆頼む予算がないという理由もありました(笑)。本当に申し訳ないんですけども、もっと何か上手に書ければいいんですけど、作品を読んで、こんなイメージかな……と思いながら書きました。

近藤 すごく素敵です!

手塚 恥ずかしい(笑)。うれしいです。この頃って、青林工藝舎ではあまり帯ってつけてなかったんです。それは「ガロ」からの流れで、あまり予算をかけられないから帯はなし、っていつもやってたんですけど。書店員さんに「皆さん帯を読んで本を選んでますよ。帯はつけたほうがいいんじゃないですか」ってアドバイスをいただきまして、それからは帯をつけるようにしたんです。

全面に色を使わず、青を印象的に見せた2色ページ

──表紙に使われている朱色と青緑は、近藤さんのほかの作品にも頻出する組み合わせですが、これは好みの色ですか。

近藤 そうですね。アニメーションをこの色の組み合わせで作ったこともあります。動脈と静脈、血液のイメージでしょうか。

──ほかの作品はモノクロですが、描き下ろし作品「いつものはなし」だけは2色刷り。ここに青を足しているのはどのような意図ですか。

近藤 この話だけカラーにするというのも、手塚さんからいただいたお話でしたよね?

手塚 そうですね。描き下ろしなので特別感を出したかったのと、近藤さんの絵は白黒のコントラストが美しいんですけど、そこに1色足したらどんな感じになるのかな、とちょっと興味本位で見てみたかったんです。昔のマンガ雑誌って巻頭2色っていうのが多かったんですよね。今はちょっと減ってますけども。それで予算がちゃんとあるうちに(笑)一度やっておきたいなと思っていました。近藤さんに色の指定をしていただいたんですけども、それがすごくきれいな色で、結果もよかったです。

──全面に色を使うのではなくて要所だけ、効果的に使っているのが印象深くなりますよね。

近藤 最初に雨が降るシーンがあるので、それでまず青を選んだのかもしれないです。

手塚 手探りでやった割にうまくいった、いい感じだと思います。

装丁の常識をよく知らないからこそできた、やりたい放題のデザイン

──「いつものはなし」の奥付を見ると第1刷は2008年9月に発行されています。近藤さんがニューヨークに渡ったのはその年の11月ですよね。ということは日本を発つ直前に出ているわけで、これまでの活動を一度まとめるぞ、日本で作る最後の本になるぞ、みたいな意識はあったんでしょうか。

近藤 当初は1年で帰って来るつもりだったので、たぶんそこまでは考えていなかったはずです。手塚さんが「行く前にまとめましょう」と提案してくださったのかもしれないですね。ニューヨークに行くことが決まってバタバタしていて、集中して1カ月くらいで作ったのですが、印刷所にお邪魔したりして楽しかったです。

手塚 インクを職人さんが混ぜてるところを、近藤さんがたくさん写真に撮ってたのを覚えてます。職人さんが緊張していましたね。

近藤 そうでしたね。印刷所まで行ったのも、やっぱり、わからないなりにせっかくデザインしたし、できることはしたいなと思ったんだと思います。

──お話を聞いていくと、「いつものはなし」の装丁は、いろんな印刷実験を一度やってみたかったという遊び心で装飾したデザインではなく、内容がこうだから外側はこうなるといいよね、という発想の順番で作られていった、必然性重視のデザインなのがよくわかります。

手塚 限定版とかそういう高価格帯のもの以外で、これだけ凝った本は私もあんまり作ったことがなくて。表紙をめくって、遊び紙がきて、目次の折込がきて、そこで口絵が来て、と3回違う要素を挟むわけですよね。手間がかかる製本なんです。ただ、近藤さんご自身でデザインされるわけだからなるべく希望は通してあげたいし、がんばってやってよかったなあと。最近この本を担当してくれた印刷所の方と話していたんですけど、やっぱりこんなに手の込んだ本はあまりやらないので印象に残っているとおっしゃってましたね。

近藤 ありがとうございます。よく知らないからやりたい放題できたというのもあるんでしょうね。知識があったら「これを言うと大変だろうな」とか「これはお金がかかるからな」と躊躇してしまったかもしれません。

──ワタシの手元にある「いつものはなし」は2013年に刷られた第2刷なんですが、重版されているということはしっかり売れて、コスト面でも問題なく採算が取れたということですよね。

手塚 そうですね、ありがたいことに。特別な印刷をしてるからといって、決して採算度外視ではないんです。本を作る側の人たちからはこれで定価1300円は安いねと当時言われました。一般的なマンガの価格からすれば高かったとは思うんですが。

──第3刷、増刷の予定は今後ありますか。

手塚 はい。ただ、先ほども申し上げた通り、表紙の用紙が廃番になってしまったので、そこをどうしようかなと。再販の計画はありますので、しばらくお待ちくださいね。「いつものはなし」は奥付も手書きなので、そのときはまた近藤さんに新しく書き足していただかないといけませんね。

近藤 ご依頼お待ちしてます(笑)。

私自身よりも私の頭の中のイメージをうまく表現できる人がほかにいるんじゃないか

──せっかくの機会なので、近藤さんのほかの本の装丁についてもひと言コメントをお聞きしたいんですが、最初の単行本「はこにわ虫」の工程は覚えていますか。

近藤 ミルキィ・イソベさんの事務所で、手塚さんと3人でデザインの打ち合わせをしました。ミルキィさんのイメージに合わせて表紙の絵を描いたんでしたっけ。

手塚 先に近藤さんが過去に描かれたカラーの絵を何点か見せていたんです。ブランコに乗ってる女の人とか。ミルキィさんがそれを見て、意図を汲んでくださったんじゃないかと思います。書き文字の感じを活かしたいってそのときおっしゃってましたね。あと足。近藤さんの描く肉感のあるポチャッとしたお人形さんのような足がすごくいいから、それで足を出したいなと話していて。ほかに髪の毛とか、空の色とか、ミルキィさんにマンガ以外の作品をいろいろ見ていただきながら、イメージを決めていったと思います。表紙の用紙は本当に真っ白な紙で、ミルキィさんがこだわっていました。

──最初の本ができたときってすごく感動するんだろうなと想像するんですけど、実際どうでしたか。

近藤 すごくうれしかったです。マンガが初めて雑誌(アックス)に載ったときもうれしかったですね。印刷物に載って、自分の手を離れて特別なものになったような感じがしました。

──「A子さんの恋人」(KADOKAWA)の装丁には、近藤さんの意図はどれくらい反映されてるんですか。

近藤 1巻でシリーズの「定型」ができてからは、キャラクターのポーズのアイデアなどは私が出していて、私と編集の森岡夏世さんで「こんな感じでいきましょう」と決めて、素材の絵をデザイナーの芦田慎太郎さんに渡していました。色の組み合わせを何パターンか芦田さんに出していただいて、そこから森岡さんと私で練っていくんですよ。まずメインの色を決めて、色の組み合わせを何度も調整していただいています。

──現在も連載中の「ニューヨークで考え中」(亜紀書房)については、どんな打ち合わせをしていますか。

近藤 こちらは編集の田中祥子さんとデザイナーの佐々木暁さんとでほとんど決めてくださってるんです。私から言うことは特にない(笑)。袖や裏表紙のカットは私が案を出してそこから選んでいただくのですが、その他は本当に全部お任せしています。表紙の絵も田中さんと佐々木さんが「このエピソードのこのコマを抜き出すといいんじゃないか」ってアイデアを出してくださって、それに合わせて私が何点かラフを描いて選んでいただいてるんです。お任せすることで私が自分では想像もできなかったようないい本が出来上がるので毎巻完成が楽しみです。

──背表紙がないコデックス装にしたのも……。

近藤 それも田中さんと佐々木さんが最初の時点で提案してくださいました。もともとWebで連載している作品で、見開きのページが並んだ状態で掲載されているんですが、この綴じ方は本の開きがいいのでそれが再現できるということだったと思います。

──なるほど、Web掲載の見せ方に忠実になると。マンガではない文章メインのエッセイ集「不思議というには地味な話」は、目次や各エピソードのタイトルなど普通はフォントで組みそうな部分にも手書き文字を使った装丁になっています。これはデザイナー側から手書きの提案があったんですか。

近藤 いえ、これはたしか編集の村井光男さんが手書きでとおっしゃって、村井さんのイメージをデザイナーの寄藤文平さんと鈴木千佳子さんに伝えられたのだったと思います。

──編集さんが「手書きで」とお願いした感覚はすごくわかります。近藤さんの作品は隅々まで手で描かれていることが印象に残るんです。近藤さんも手書き文字にこだわりをお持ちだと思いますが、それはもう最初からですか。

近藤 最初からですね。それにマンガを描き始めた頃は文字を自分で写植する技術もなかったので、手書きで当然という感じでした。デビューしてからも手書きのままで載せてもらえていたので、書き文字のほうが馴染みがあります。写植(印刷文字)にしたのは「A子さんの恋人」が初めてでした。

──「A子さん」のときは自分事を描くエッセイとは違う、フィクションとして距離を置くために写植にしたんでしょうか。

近藤 そうですね。「ニューヨークで考え中」はもう10年連載しているのですが、10年前と現在とでは手書き文字も変化しています。「ニューヨーク~」はエッセイなのでそういう変化をみせられるのもおもしろいかなと思っています。

──写植を打たずに全部手書きにすればギリギリまで原稿を手元に置いておける、という進行上の理由はありますか。

近藤 締め切りはきっちり守るほうなのでそれはそんなに関係ないですね。でも現在のようにニューヨークに住んで日本でエッセイマンガを連載していると、そういう利点もありますね。隔週連載なので、なるべく最近の話題を拾っていきたいときに、ギリギリまで粘って、描いたら写植の手間なくあっという間に出せるので、そこはいいですね。ただ、単行本にするときに表記統一などのために文字を書き直すことが多いんですけど。

──それもまた楽しい作業なんですか。

近藤 それは面倒くさい作業です(笑)。

──自分で装丁をするのと、デザイナーに装丁してもらうのでは、どこが一番違うんでしょう。

近藤 自分のアイデアより、こんな感じですかってデザイナーさんが出してくれた案のほうが「そうそう、そういう感じ!」と思うことが多くて。例えば私はマンガ以外にも、展示をしたり、アニメーションを作ったりするんですが、作るところまでは手が動くのですが、ではそれをどう展示するかを考える段階になると、途端に手が止まってしまうこともあります。展示は誰かに任せられたらと思うこともありますね。そういう点で展示と装丁は私の中で似た印象があります。出すところ・見せるところは、私自身よりも私の頭の中のイメージをうまく表現できる人がほかにいるんじゃないかなという気がするんです。

──では「いつものはなし」もデザイナーに新装版を頼む可能性はあるんでしょうか。

近藤 それは、あるでしょうね。

──でもこれは相当いいですけどね。これよりいい装丁を考えてくださいって、難しそう……。

近藤 そうですか?(笑) 今でもデザインは人にお任せしたほうがいいものができると思っています。でも、改めてこうやって昔の自装した本を褒めていただけると、自分にできることもあるのかなと、ちょっとは思えてうれしいです。とはいえ「いつものはなし」は手塚さんに手伝っていただいたからできた本なので。また自装するにしても、手塚さんのように一緒に作ってくださる方がいるならば、ですね。

近藤聡乃(コンドウアキノ)

1980年千葉県生まれ。2003年多摩美術大グラフィックデザイン学科を卒業。アニメーション、マンガ、ドローイング、油彩など多岐に渡る作品を国内外で発表している。2008年よりニューヨーク在住で、その模様を描いたエッセイマンガ「ニューヨークで考え中」を亜紀書房のWebサイト・あき地で連載中。そのほかの主な著作に「はこにわ虫」「いつものはなし」「うさぎのヨシオ」「A子さんの恋人」「近藤聡乃作品集」や、文章によるエッセイ集「不思議というには地味な話」などがある。2022年秋に東京・国立新美術館で開催される「DOMANI・明日展 2022-23」に参加予定。

近藤聡乃公式サイト
Kondoh Akino(@AkinoKondoh)| Twitter
Kondoh Akino(@kondoh_akino) | Instagram

手塚能理子(テツカノリコ)

編集者。1997年に青林堂を退職し、青林工藝舎を設立。アックス(青林工藝舎)の編集長と同社の代表を務めている。

青林工藝舎