海外の海賊版サイト業者にとって「日本はローリスク」、国際連携と権利行使がカギに
深刻化する海賊版サイトなどに対する国際執行プロジェクト(CBEP)に関する報告会が、本日7月29日に参議院議員会館で行われた。コミックナタリーではその様子をレポートする。
この報告会は、日本コンテンツの海外展開の促進と海賊版対策を目的としたコンテンツ海外流通促進機構(CODA)が開催したもの。会場には知的財産戦略調査会の甘利明議員、山田太郎議員、そして7月26日より参議院議員としての任期が始まった赤松健議員が来賓として参加。赤松は「今年の2月まで別冊少年マガジン(講談社)で連載しておりまして、バリバリ現役の権利者です。最近大きなニュースが2つありまして、1つはKADOKAWA、集英社、小学館が漫画村の運営者に対して19億円の損害賠償訴訟を始めた。もう1つは私が原告となっていた漫画村の広告代理店に対する損害賠償請求訴訟、知財高裁でも完全勝訴をした。CODAさんは権利者側としても頼もしい存在。議員としては、これから海賊版に対して圧力をかけていきたい」と述べた。
報告会ではまずCODAの代表理事・後藤健郎氏が、オンライン上の著作権侵害の現状と課題を報告。後藤氏は「日本のマンガ・アニメなどのコンテンツが今、世界の海賊版サイト業者から狙われています。これまでの海外の海賊版サイトの稼ぎ頭はアメリカの映画、スポーツ、放送番組でした。しかし日本のコンテンツでもアクセスを大きく稼げることがわかったうえに、アメリカの権利者と違って日本のコンテンツホルダーは権利侵害に対して権利を行使してこない。海外の海賊版サイト業者にとってローリスク・ハイリターンなのが現状なんです」と警鐘を鳴らす。さらに「2019年当時のオンライン上で流通する日本コンテンツの海賊版被害額は、約3333億円から4300億円と推計されます。今は巣ごもり需要やオンライン環境の進化も重なり、被害額はより大きく伸びている」と状況の悪化を指摘した。
続けて後藤氏は、2021年4月より本格的にスタートした国際執行プロジェクト(Cross-Border Enforcement Project)について説明する。これは悪質な海賊版サイトに対する国際執行の強化を目的に、サイバーセキュリティの専門家であるエシカルハッカーや国際法律事務所と連携して、サイト運営者を追求・特定するプロジェクト。日本のコンテンツを大量に侵害する海外の悪質な海賊版サイトが後を絶たないのにもかかわらず、サイト運営者を迅速に特定する手段や体制が整備されておらず、また高機能モバイル端末の普及と5G時代の到来など通信システムが進化している現状を踏まえ、早急に実効性のある調査体制と国際執行システムを体系的に確立する必要があることから立ち上がった。
さらに後藤氏は1月1日に業務がスタートしたCODA北京事務所、4月に開設されたボーダーレスな海賊版対策を実現するための国際的な連携組織・国際海賊版対策機構(IAPO)などを国際連携の事例として紹介。海賊版サイト・漫画BANKを運営していた中国・重慶市在住の男性の摘発が成功した要因の1つとしても、CODA北京事務所の存在を挙げた。
続く中島博之弁護士、前田哲男弁護士は、海賊版サイト問題が国際化していることを強調。海賊版サイト運営のほとんどが海外のサーバーを経由して行われているため、著作権侵害者・サイト運営者の特定と摘発に国際執行手続きが重要であることや、海外の弁護士・調査会社に依頼するために発生する費用の負担、国際的に活躍できる弁護士の育成などの課題を伝えた。ここ数年で増えているベトナム系の海賊版サイト対策について質問が出ると、中島弁護士は「昨年、日本の国家公安委員長からベトナムのトーラム公安大臣に海賊版サイトの摘発要請もしていただきました。首脳会議でも海賊版対策に取り組むことの認識が共有され、対策が進められています」と答えた。
小山紘一弁護士は「ファスト映画」を例に、後藤氏も述べていた「権利行使に消極的な日本の権利者」という課題を指摘した。「ファスト映画」とは、権利者に無断で映画を10分程度に編集し、ナレーションを付けてストーリーを解説する動画のこと。「ファスト映画」を投稿していたYouTubeチャンネルの運営者たちは、著作権侵害申告を行った映画会社をリストアップし、それらの会社を避けて投稿作品を選定していたという。「費用倒れのリスクがあることから、権利行使に踏み切ることが難しいとの意見もありますが、共同での訴訟提起によってリスクが最小化できる。それに過去の損害の回復はもしかしたら難しい面もあるかもしれませんが、将来の被害の防止という目的から積極的に権利行使が必要だと思う」と意見を述べた。