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Webtoonって最近よく聞くけど、なんでこんなに話題なの?

縦スクロールのフルカラーマンガ、いわゆるWebtoonにさまざまな業界が注目している。ピッコマ、LINEマンガ、comicoといった韓国にルーツを持つWebtoon大手に追いつけ追い越せと、DMM.com、ゲーム事業を手がけるアカツキ、これまでヨコ読みのマンガを手がけてきた出版各社など国内の企業が続々とWebtoon事業に参入。大小さまざまなWebtoon制作スタジオが日々立ち上がり、まさに百花繚乱の様相を呈している。

「最近よく“Webtoon”って聞くけど、なんでこんなに話題になっているのかわからない」という読者のため、コミックナタリーではWebtoon業界の有識者3人の座談会をセッティング。近年、日本でWebtoonが盛り上がっている理由を5つ挙げてもらい、各テーマについて語り合ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ

座談会メンバー

芝辻幹也(シバツジミキヤ)

株式会社フーモア代表取締役社長。「クリエイティブで世界中に感動を」という理念のもと、Webtoonの普及に尽力。2021年にはWebtoonに特化した制作スタジオ「フーモア コミック スタジオ」を設立し、精力的にWebtoon作品を送り出している。

福井美行(フクイヨシユキ)

株式会社フーム代表。Webtoon専門のニュースサイト「Webtoon Insight Japan」を2015年より運営しており、2022年には制作プロジェクトチーム「ARC STUDIO JAPAN」を発足。芝辻いわく「日本で最もWebtoonに詳しい人」。

北室美由紀(キタムロミユキ)

株式会社ミキサー所属のWebtoon編集者。元comico編集者で、2013年には日本版comico立ち上げに従事した。担当作は「サレタガワのブルー」「ReLIFE」など。芝辻いわく「日本で唯一、国産Webtoonをヒットさせている人」。

近年、日本でWebtoonが盛り上がってる理由は? 有識者座談会

1. 課金モデルが整い、収益を上げるようになった

──そもそもの前提として、「今、日本でWebtoonが盛り上がってきているな」というのは皆さんお感じなんですよね?

福井美行 もちろんです。北室さんも編集に携わっていた「ReLIFE」(※1)や、ピッコマの「恋するアプリ」(※2)といったヒット作を経て、2019年に連載が始まった「俺だけレベルアップな件」(※3)が業界を席巻していますよね。ここでようやく、Webtoonが課金モデルのビジネスとしてものすごい収益を上げるようになった。

──縦スクロールマンガのグローバルでの市場規模は、2021年の約4000億円から2028年には約3兆2700億円になると予測されています(※4)。例えば日本ではLINEマンガで配信されている「女神降臨」は、グローバルで累計53億回以上閲覧されているとか。

芝辻幹也 日本の市場規模はまだまだ成長途中ですが、ここ数年でビジネスとして結果が出るようになったのは大きいですね。それによって「日本でWebtoonが読まれるんだ、課金されるんだ」ということが理解されて、誰もが安心して参入できるようになった。

福井 ピッコマがWebtoonに市民権をもたらしたようなイメージです。comicoで連載されていた「ReLIFE」の場合は従来の出版社モデル、つまり単行本化して、アニメ化してというメディアミックスの構造があったと思うんですが、ピッコマは「恋するアプリ」の配信を開始した2016年あたりで「待てば¥0(®)」というビジネスモデルを導入しました。

──「一定時間待てば無料で次の話が読める」というシステムですね。ユーザーは無料のつもりで読み始めるけども、どうしても続きが気になってしまってついつい課金してしまうという、人間心理をうまく突いた手法だと思います。

福井 出版社モデルではなく、小売の創意工夫で収益モデルを確立したと言えるでしょう。韓国では課金モデルを確立させた最初の事例がアダルトコンテンツでしたから、エロでもなんでもない健全な作品でこれだけ利益を上げているというのは、奇跡的だと思うんです。

北室美由紀 ビジネスとしての規模感が拡大したのと同時に、今、Webtoonの制作費がものすごく高騰しているんです。作り手からすると、そこのハードルを越えるのが難しくなっているのは否めないですね。資金力がないところはしんどい。

福井 なぜ制作費が高騰しているかというと、先行する韓国の事情もあります。韓国は、投資が活発で過当競争な市場なので自ずと制作費が高騰するんです。きらびやかな演出を争ってる。1話作るだけでもかなりの金額をかけているので、そうなると個人でできるレベルではなくなりますよね。そこへ一気に追いつこうとすると、どうしても予算は膨れ上がる。でも、別にそこを追いかける必要はないんじゃないかとも思っているんですけど。何も、みんなが「俺レベ」を目指す必要はない。日本には日本に合ったやり方があるでしょうから。

──ただ少なくとも、「ここ数年で日本におけるWebtoonビジネスにパラダイムシフトが起こった」という認識は皆さん共通してお持ちなんですね。

福井 そうですね。読者が課金してでも読みたいと思えるWebtoon作品が増え、実際に売上も伸びています。ただ、人気ランキングの上位に日本で作られたWebtoonというものはほぼなくて、ほとんど韓国および中国の作品なんです。

芝辻 なるほど、確かに。

福井 今、芝辻さんや北室さんたちが国産Webtoonを一生懸命作っておられることは当然リスペクトしていますが、それが韓国勢に立ち向かえるのかどうかは、現時点ではなんとも言いにくい。まあ、読者が付けばいいだけの話なんですけど。もちろん、それは韓国勢に比べて日本の能力が劣っているということではなくて、あくまで結果の話ですよ。日本はスタートラインに着くのが極端に遅かったというだけのことです。

※1…夜宵草の「ReLIFE」は2013年から2018年までcomicoで連載された。2016年にはTVアニメ化、2017年には実写映画化を果たし、単行本の最終15巻までで累計200万部を突破している。

※2…「恋するアプリ」は2016年にピッコマで独占公開された、韓国発の作品。作者のKYE YOUNG CHONは、アニメ映画化された「오디션(オーディション)」、チャン・グンソク主演でドラマ化された「예쁜 남자(キレイな男)」などを送り出し、韓国マンガ界の第一線で長きにわたり活躍している。

※3…今年1月に完結した「俺だけレベルアップな件」は、累計閲覧数6.5億回を超えるピッコマの看板作品。

※4…「Global Webtoons Market Size, Status and Forecast 2022-2028」より。

2. 韓国の異世界ファンタジーが日本にもハマった

福井 「俺レベ」がすごかったのは、韓国スタイルの異世界ファンタジーがなんと日本にハマってしまった、というところだと思うんです。

北室 日本では作家個人でマンガを制作する文化が根強く、Webtoon制作においてもスタジオ体制を取っていないところが多かったので、制作の規模が大きくなりがちなフルカラーの異世界ファンタジーになかなか手を出せていなかったんです。そこに、ピッコマさんが韓国から「俺レベ」を持ってきた。日本でも異世界ファンタジー自体は昔から親しまれていて、みんな大好きな世界ですから、そのニーズにガチッとハマったというところはあるのかなと。

芝辻 ファンタジーは垣根を越えやすい、という部分はありますよね。

北室 そうですね。例えば日本で配信されている韓国の現代ものWebtoonを読んでいると、ちょっとした引っ掛かりを覚えることもあります。日本向けにローカライズされているから、登場キャラクターの名前が「鈴木」だったり「田中」だったりするのに、お祝いの場でみんなチマチョゴリを着ているみたいな。セリフやナレーションといった文字情報のローカライズはやりやすいんですが、ビジュアルのローカライズは難しいんですよね。慣れないうちはこういう認識のズレが意外とストレスになりやすいんです。ファンタジーの場合は主に異世界が舞台なので、そもそもローカライズの問題が起こりにくい。

芝辻 ある程度の共通認識が世界レベルで存在しますしね。日本でもヨコ読みのマンガやアニメでは異世界ファンタジーのヒット作がたくさんありましたし、韓国のWebtoonにもたまたま同じようなものがあったという。その両者をつなげたのが「俺レベ」だったということでしょうね。

──おっしゃったように、韓国の異世界ファンタジーが日本で受け入れられた背景には、もともと日本で異世界転生ものが流行していたことが影響した部分も少なからずあると思います。そのように日韓で同時多発的に似たようなジャンルが流行る例には、ほかにも韓国で大人気の悪女ものと日本で流行っている悪役令嬢もの、というのもありますよね。こういった符合がなぜ起こるのか、すごく不思議なんですけども……。

芝辻 もちろんいろいろな要因が考えられますが、その1つには、人気のジャンルを研究してマーケティング的に作るという手法がある程度確立しているというのが挙げられると思います。これはWebtoonに限らずですが、人気ジャンルは読まれやすいから作り手が増えて、そのジャンルの作品が増えるからより読まれるようになって、というふうにどんどん拍車がかかっている可能性はあるでしょうね。

──なるほど。

芝辻 それはpixivでもまったく一緒で、人気作の二次創作はものすごく流行るんです。でもその一方で、どんなにうまい人でもオリジナルの絵はなかなか見てもらえないという傾向があったりして。言ってみれば、悪役令嬢ものもそうじゃないですか。まず婚約破棄されて、断罪イベントがあって……みたいにフォーマット化されている。だから、マーケティング以前に「結局、人間はみんなこれが好きだよね」っていう共通の嗜好が根底にあるような気もします。

北室 少女マンガでいえば、「王家の紋章」や「天は赤い河のほとり」のような古代タイムスリップものがとにかくみんな大好きですよね。それに自分の人生をやり直す系の作品も大人気で、「ReLIFE」もやり直しものです。多くの読者に喜んでいただいていたので、「やっぱりみんな、やり直したいんだな」っていう(笑)。

3. さまざまな業界からの参入が相次いでいる

北室 今、Webtoonの新規スタジオが立ち上げラッシュで、いろんな業界が参入していますよね。

──最近だとエネルギー事業を手がけるロクトーナ社も参入を発表しましたし、サイバーエージェントもStudioZOON(スタジオズーン)を設立しました。特にゲーム系会社はWebtoonと親和性が高いようですね。

芝辻 そうですね。ゲームの画を作っている立場からすると、日本のスマホゲーム会社が軒並み参入している状況には「おー」と思います。

北室 もともとcomicoもゲーム会社からの参入でしたから。あとは大手出版社もだいぶWebtoonに興味を示し始めていますし、アニメ業界もどんどん入ろうとしてきているのを感じます。

──WIT STUDIOも参加するようですね。主にマンガ業界ではない人たちがWebtoonを盛り上げている?

福井 そうです。作り手側にもある程度「Webtoonはマンガ読者じゃない人が読むもの」という共通認識があるように思います。もちろん、現在ではマンガの読者も流入してきていますが。LINEマンガ、ピッコマ、comicoという三大勢力がそもそも出版社ではなく、マンガとは異なる分野で成長してきた会社からの派生ですから。

──なるほど。

福井 しかし、ピッコマがNo. 1になるとは思わなかったですね(※5)。LINEマンガも今いろんな手を打つことで追い始めていて、いい形で日本で活躍できている。この2者によるいい感じのライバル関係が展開されている中、第三勢力となってしまったcomicoが女性向けに特化してその分野でトップ2と勝負する手法で追い上げていて、この三つ巴の争いがここ数年はすごくエキサイティングだなと感じています。

──そこへさらに、今はいろいろな業界からの参入も相次いでいると。

福井 LINEマンガ、ピッコマ、comicoの韓国勢プラットフォームが日本のWebtoon界を切り開いてくれました。その3者の趨勢でやってきたものが、これからは日本オリジナルでもやっていくということです。

※5…2021年の国内のマンガアプリサービスにおける、App Store(ブックカテゴリ)とGoogle Play(コミックカテゴリ)の合計で、ピッコマが年間セールス1位を獲得した(出典:Sensor Tower)。

4. comicoのまいたタネが芽吹き始めた

北室 最近、「中学生のときに『ReLIFE』見てました」とか「『ももくり』見てました」というWebtoon編集者の方がぼちぼち出てきているんですよ。

芝辻 すごい! 歴史を感じますねえ。

──“Webtoonネイティブ”が、もう作り手の中に生まれ始めている?

北室 そうなんです。日本ではまだそこまで大きな波になっていないのに、そういう方々が制作に携わっているんだなと思うと感慨深いです。

芝辻 今Webtoon業界ではcomico出身の方々がすごく活躍していますしね。

福井 今の業界は、comicoのOBが作っていると言っても過言ではない(笑)。

芝辻 人材輩出がすごいし、かつてその人たちが作ったものを読んだユーザーも入ってきているという。当時、先見の明がある方々がcomicoに集まっていたんでしょうね。それによって土壌ができたというのはあると思いますよ。

福井 comicoは当時、Webtoonを作るミドルウェア的なものを専門学校などに提供して、プラットフォームとして普及させていったという功績があるんです。制作ガイドブックを作って学校に配布したり、「このフォントを使いましょう」みたいなこととか……って、俺がしゃべることじゃない(笑)。北室さん、話してよ。

北室 あはは、ありがたいなと思って聞いておりました(笑)。2013年の日本版comico立ち上げ当初はすべてが手探りで、何よりも作家さんを集めることに本当に苦労したんです。縦スクロールのカラーWebマンガというものにまるで理解が得られず、「マンガに対する冒涜だ」とまで言われたりもしましたから。目の前でチラシを捨てられたり。

芝辻 ショックですね、それ……。人格否定されるようなものじゃないですか。

北室 作家さんによっては、「マンガを否定してきた」という捉え方だった方もいらっしゃいました。それで「これは、まず日本にWebtoon文化を根付かせなければダメだ」という思いのもと、学校さんへのガイドブック配布などにつなげていった感じです。それはcomicoの立ち上げからはちょっと経ってからでしたけど。

──価値観の固まった大人を説得するよりも、これから育つ若者たちを教育するほうが建設的だと。

北室 学校に関しては、そういう考えでした。まったく話を聞いてくださらない学校さんもたくさんありました。

福井 そういう苦労を重ねながら北室さんたちがやったことは、ほぼ革命だったと言っていいと思います。それによっていろんな人の経験値を上げて、今その人たちが優秀なクリエイターとして活躍しているんですよ。

5. クリエイターの数が多い日本で、Webtoonがさまざまな才能の受け皿になってきている

芝辻 ちょっと切り口を変えて人材面の話をすると、スマホゲームの世界では、ソーシャルゲームがデジタルで絵を描くイラストレーターさんたちの受け皿になった側面があるんです。スマホゲームが台頭したおかげで、マンガではなくイラストで食える人がめちゃくちゃ増えた。ただ、スマホゲームの市場はもちろん今も伸びてはいるんですが、中国や韓国から入ってくるものの勢いがすごくて、日本国内のスマホゲーム会社は苦境に立たされてきているんですね。という状況の中で、そのイラストレーターさんたちがどこへ行くのかというと……そこにちょうどWebtoonが伸びてきているという。

福井 Webtoonと従来のマンガで大きく違うのは、分業制が一般化しているところなんです。線画の人、彩色の人、背景の人が分かれていたりとか。韓国のWebtoon界では今、背景を描くアーティストが大人気だったりするんですよ。そうした分業がさらに多様化している印象もあるので、何か1つ特化した才能を持った人であれば活躍できる場にはなっていると思いますし、本来であれば別の業界へ行くような人たちが入ってくるようにもなるかなと。それはすごくいいことだと思います。

芝辻 日本はクリエイターの数自体がアメリカなどと比べて多いですし、それもよかったと思いますね。pixivなどで絵を描いているクリエイターがたくさんいた。しかもそういう人たちはデジタルで描いているから、それまでの経験をWebtoonでも生かしやすいと思うんですよ。使う筋肉が似ているというか。

福井 もっと言うと、NAVERなんかはAIでWebtoonの自動彩色をするシステムをずっと開発していたりするんです。つまり、アーティストだけじゃなくテクノロジー分野の人材も今後どんどん必要になってくる。日本はテクノロジー分野にも優秀な人がたくさんいますから、みんな参入してくるんじゃないかと僕は思いますね。

──なるほど。Webtoonは作家のみならず、いろんな才能の受け皿になり得る器であると。

福井 コンシューマーゲームの世界では、1994年にPlayStationが登場したときにそういうことが起こりました。それまでの任天堂一強だったビジネスを否定して、ソニーが新しい価値観を創造したことによって、クリエイターや技術者がいっぱいゲーム業界に入ってきたんです。その状況と、今のWebtoonはすごく似ていると思います。

芝辻 スマホのゲームが出始めたときも状況が似てますね。最初、コンシューマー系のメーカーは見向きもしなかった。だからこそゲームを作ったことがない人たちにとってはチャンスでした。映像の世界でも同じように、テレビ業界の人たちは最初YouTubeを否定していたけど、テレビで活躍していなかった人たちによって切り開かれてきたわけです。だから、今Webtoonに対して「チャンスだ」と感じている人はけっこう多いですね。

──そう考えると、あらゆるところで似たような歴史がずっと繰り返されてきているんですね。

福井 デジタル革命っていうのは、そういうものなんです。

(後編に続く)