菅野文原作による舞台「薔薇王の葬列」が、本日6月10日に東京・日本青年館ホールで開幕。本記事では、初演前に行われた取材会、公開ゲネプロの模様をレポートする。
TVアニメ「薔薇王の葬列」を原作とした舞台「薔薇王の葬列」。ヨーク家とランカスター家が王位争奪を繰り返した薔薇戦争を軸に、男女2つの性を持つヨーク家の三男・リチャードの数奇な運命が描かれる。舞台ではリチャード役を若月佑美と有馬爽人がWキャストで演じ、アニメでシリーズ構成・脚本を務めた内田裕基と松崎史也が共同で脚本を担当。またナレーションとして、アニメでリチャード役を演じた斎賀みつき、声のみの出演で、アニメの第1クールでバッキンガム役を演じた杉山里穂が参加している。
取材会には若月、有馬をはじめ、ヘンリー役の和田琢磨、ヨーク公爵リチャード役の谷口賢志、脚本・演出を手がけた松崎が登壇。Wキャストを男女でやることの難しさについて聞かれると若月は「頭で考えすぎなところもあったんですけど、ほかのキャストの皆さんが、最初から私たちを男女という枠では見ていなくて。さらに『リチャードとして見ている』という言葉をいただけたことで、ただただリチャードとして生きていれば、周りががそう見てくれるんだなって視界が開けました」と話す。有馬も同様に共演者からの言葉に触れ「自分も自由にリチャードを生きられる、皆さんに全力で芝居を届けることができると、不安から楽しみに変わったきっかけでした」と打ち明ける。
松崎は「2人が『ここは共有しよう、ここは別々の表現にしよう』と話し合ったり、あるいは互いの演技を見るだけで『こういう表現にしよう』と決めたりすることを自然にやっていたのが印象的でした」と稽古風景を振り返りながら、「観る側はそれぞれの演技から違う想像を膨らますことができると思うので、そこを楽しんでもらえたら」と続ける。和田は2人のリチャードの印象について「有馬さんは内側に苦しさをためこむ、若月さんは苦しさを外側に発散するようなリチャードを演じられていて。2人と代わるがわる作品を演じることで、自分のヘンリー像も広がっていきました」とコメント。続いて谷口は「今の時代に置き換えると男性らしさ、女性らしさというところにアンチテーゼを唱えていかないといけないと思うんですけど、2人の芝居がその答えの1つになっているんじゃないかなと。そういった意味で今回の戯曲はとても挑戦的だと思います」と語った。
殺陣のシーンも見どころの1つであるこの舞台。若月は「2人とも殺陣が初めてだったので、剣を抜くところから指導していただいて。作品自体も薔薇戦争が舞台ですので、そこに説得力を持たせられるよう、早めに稽古に入らせていただきました」と話し、有馬は「そのおかげで自信を持って初日を迎えられました」と答えたうえで、「戦場に出たいというリチャードの熱い思いが、僕たちにも無意識にあって。だからこそ不安はあったけど前向きに練習できたんだと思います」と伝える。初挑戦となる殺陣に不安はないかと問われた若月、有馬がともに「(不安は)ないです!」と力強く返す場面も見られた。
リチャードが男女2つの性を持つことにちなみ、若月、有馬にはそれぞれ性別が違ったらどんなことをしてみたいかという質問も。有馬は「いろんな服を着てみたいですね。舞台での衣装にもぜひ注目してほしいです」と返答。若月は「リチャードの役作りとして猛々しく振る舞っていたせいか、日常生活でもそれが出始めてしまって。大きく足を広げて座れるのは楽でいいなあと。そういう部分を楽しみたいです(笑)」と言い、笑いを誘った。
取材会の最後に有馬は「すべてが濃い作品ですが、肌で感じられるのは舞台ならではだと思っています。僕らも全力で一生残り続けるような作品にしますので、ぜひ足を運んでいただけたら」とアピール。若月は「Wキャストということで、舞台全体をいち観客として観させていただいたんですが、本当に素晴らしいと思いました。来ていただけたら、何かしら素敵なものを持ち帰ってもらえると思います」と思いを述べた。
公開ゲネプロは若月演じるリチャードを主演として、1幕と2幕に分けて上演。人力で回転する大きな舞台装置が壇上に置かれ、場面ごとに角度を変えるなど効果的に使われた。冒頭ではフランスとイングランドが戦った百年戦争から薔薇戦争に至るまでの歴史が、斎賀のナレーションでわかりやすく語られる。
ヨーク軍とランカスター軍が衝突するシーンでは、アンサンブルを交え、若月、谷口、ケイツビー役の加藤将、エドワード役の君沢ユウキ、ジョージ役の高本学らが戦場さながらの壮絶な殺陣シーンを展開し、観る者を魅了。若月は男女2つの性を受けて生まれた己の素性を呪い、戦いに身を置くことで抗おうとするリチャードの心情を、和田は争いを嫌いながらも、王である限り逃れられないヘンリーの苦悩を、ときに荒々しくときに繊細に表現していく。またそんな2人が少しずつ心を通わせていくさまも丁寧に描写された。終盤ヨーク軍がランカスター軍に敗北し、ヨーク公爵がマーガレットに捉えられ処刑される場面は、谷口演じるヨーク公爵と田中良子演じるマーガレットが、鬼気迫る演技で再現。若月は光としていた父を失ったリチャードの悲しみを、見事に演じ切った。2幕ではジョージを王にしようとランカスター家と手を組むウォリック伯爵の思惑を軸に、リチャードとヘンリー、エドワード王太子、アンの関係性が絶妙に交差しながら描かれていく。
舞台「薔薇王の葬列」は、本日6月10日から19日にかけて東京・日本青年館ホールで上演される。なお11月25日にBlu-rayのリリースが決定。特典ディスクには、6月2日に配信された番組「舞台『薔薇王の葬列』開幕直前“ローズの日”特番」の特別編集版や、ビジュアルの撮影現場、顔合わせ、稽古場の様子のほか、バックステージでのキャストに密着したメイキング映像を収録する予定だ。
舞台「薔薇王の葬列」
期間:2022年6月10日(金)~19日(日)
会場:東京都 日本青年館ホール
スタッフ
原作:TVアニメ「薔薇王の葬列」
脚本:内田裕基・松崎史也
演出:松崎史也
アクション:船木政秀
美術:乘峯雅寛
舞台監督:田中聡
照明:大波多秀起
音響:天野高志
映像:O-beron inc.
衣裳:雲出三緒
ヘアメイク:新妻佑子
小道具:平野雅史
演出助手:小林賢祐
宣伝美術:羽尾万里子(Mujina:art)
宣伝写真:渡邉和弘
WEB制作:遠藤嘉人(EAST END CREATIVE)
ロゴデザイン:橋本清香(caro design)
宣伝:ディップス・プラネット
制作:赤堀一美
プロデューサー:鳥居玲、木村学、下浦貴敬、山本侑里
出演:若月佑美 / 有馬爽人(Wキャスト)、和田琢磨、君沢ユウキ、高本学、加藤将、瀬戸祐介、廣野凌大、星波、藤岡沙也香、佃井皆美、田中良子、谷口賢志
アンサンブル:伊藤智則、遠藤拓海、小野流星、柿原康希、酒井昂迪、新原ミナミ、末廣拓也、高久健太、福田真由、山越大輔
※高久健太の高ははしごだかが正式表記。
(c)菅野文(秋田書店)/舞台「薔薇王の葬列」製作委員会