日本のみならず世界的にも年々存在感を増しているVTuberたちには、マンガ好きが多い。業界を牽引する人気VTuberたちのマンガ遍歴をたどる本企画では、彼らがどのようなマンガに触れてきたのか、深掘りしていく。
第2回には、774inc.所属のVTuberユニットで、6月にデビュー4周年を迎える有閑喫茶あにまーれのリーダー・因幡はねるが登場。VTuber仲間たちとおすすめタイトルを紹介しあう「漫画プレゼン同好会」などに参加しており、つくしあきひと、赤坂アカ、山口つばさ、黒瀬浩介、西義之をゲストに招いたマンガ家座談会を主催するなど、マンガ愛溢れる因幡が、これまで触れてきた作品を振り返っていく。ふわふわとした愛くるしいビジュアルに反して、なかなかに渋い作品が数々登場するほか、配信で何度話題に上げても語り尽くせないあのマンガへの愛情をたっぷりと語ってもらっている。
取材・文 / 佐藤希
VTuberになって「リスナーに勧めよう」もマンガを読む動機に
──因幡さんは6月9日に活動4周年を迎えられます。誠におめでとうございます!
ありがとうございます! いつの間にか4周年でびっくりしますね……。本当にあっという間でした。
──因幡さんと言えば、マンガ好きのVTuber仲間たちとおすすめの作品を紹介し合う企画「漫画プレゼン同好会」などにも参加されていらっしゃいますし、普段の配信でもマンガにまつわる話題が豊富な印象です。因幡さんとマンガの出会いからひも解いていきたいのですが、記憶の中で一番最古のマンガ体験は?
「ドラゴンボール」ですね。家族にマンガ好きが多いんですが、もともと私は小説ばっかり読む子だったんですよ。いつ頃か忘れてしまうくらい前のことですが、弟が友達から借りた「ドラゴンボール」が家に置いてあったのを、途中から読んだんです。そこで「マンガって面白いな!」って。もうそれが何巻のどのエピソードかも覚えていないんですけど……(笑)。
──ちなみに今、マンガは何冊ほどお持ちなんでしょう?
ほぼ電子書籍で読んでいるんですが、確認したらざっと1000冊ありました。紙の単行本は実家にほとんど置いていて、そっちの冊数はもうわからないですね……。
──ハマったマンガは雑誌で追いかけますか? それとも単行本派で一気に読みますか?
「キングダム」とか「嘘喰い」とか、ヤングジャンプに好きな作品が多いので雑誌で買ってましたけど、最近は単行本派になってきましたね。定期的に追いかけるのが難しくなってきてしまって。
──ヤングジャンプがお好きなこともそうですが、普段の配信を拝見しているとジャンルとしては青年マンガがお好きなのかな、と感じていたのですが、実際はどうなんでしょう。
メジャーなものはともかく、マニアックな作品まで読んでいるジャンルだと少年マンガと青年マンガが多くなると思います。少女マンガや恋愛ものは嫌いじゃないですけど、あんまり積極的には読んできていませんでしたね。「アオハライド」の咲坂伊緒先生や、安野モヨコ先生、矢沢あい先生は全作品読んでいるんですが。
──なるほど。先ほどお話した通り、VTuberとして4年間活動されてきましたが、活動を通じてマンガとの向き合い方が変わったなと思ったことはありますか?
「漫画プレゼン同好会」でオススメしてもらって初めて知ったマンガも多かったですし、読んで面白かったらリスナーさんに紹介しよう!と思うようになりましたね。リスナーさんに紹介するために読んでいるときもありますし、リスナーさんがマンガのセリフをもじってコメントしてくださることもあるので、元ネタをちゃんとわかるようにしようと思って読んでいます。でも、そもそも好きなものだから、たくさん勉強したりいろんな作品を読みたいという気持ちになりますね!
人生ベストワンは「やっぱり『スラムダンク』」
──これまでの人生で最もハマったマンガを伺いたいと思うのですが、因幡さんが好きなマンガといえばやはり「スラムダンク」では? 因幡さんのリスナーはおなじみだと思いますが。
そうですね、改めて考えてみましたがやっぱり「スラムダンク」ですね……(笑)。「好きなマンガは?」と聞かれるとたくさんありすぎて困っちゃうんですが、1作品だけということであれば、間違いなく「スラムダンク」!
──具体的にどういうところが因幡さんにとって魅力的だったんでしょう。
うーん、そうですね……とにかく内容が面白い!ということに尽きるんですが、強いて言うと主人公以外のキャラクターも魅力的で、みんなどこか欠点を抱えているので、そこに共感して引き込まれていきました。私、青春らしい青春を送っていなかったんですよね。でも恋愛をテーマにした物語にはあまり惹かれなかった。「スラムダンク」のようにスポーツに打ち込む青春に、こういうのっていいなあと思ったんです。
──お気に入りのキャラクターや、ご自身の中での名シーンもお聞きしたいです。
花形が大好きです! あとは神と水戸。流川とか藤間は相容れないですね。あまりにもまぶしすぎて……(笑)。
──(笑)。
お気に入りのシーンだと豊玉高校戦が一番好き。周りで「スラムダンク」を読んだことがある人は、みんな好きじゃないっていうんですけど。豊玉のメンバーってどうしても悪役みたいに扱われてしまう場面があるんですが、中にはちゃんとヒーローっぽい行動を望む子がいたりそういうところが好きだなと思っています。「スラムダンク」の話は「漫画プレゼン同好会」メンバーでもある天開司さんとたびたび配信で語り合ってるんですけど、リスナーさんは「またスラムダンクの話してる」って思ってるかも(笑)。ここまでの「スラムダンク」の話自体、皆さん私から100回ぐらい聞かされているかもしれないですけど、好きなんですよね……。
──ありがとうございます。因幡さんは麻雀配信もよくされていますが、近代麻雀(竹書房)で菅野航さんが連載されている麻雀マンガ「因幡はねるのハネマン麻雀」の主人公として登場されていますよね。今まで親しんできた“マンガ”の世界に、自分が登場しているのはどんな気持ちですか?
まさに夢のようです! 私、この世で一番尊敬している職業がマンガ家さんなんですよ。うれしかったですし、しかも内容がめちゃくちゃ面白い! 最初はどんな物語になるのかなって不安だったんですけど、菅野先生がくださるネームが毎度面白くて。むしろこれ大丈夫かなと思うぐらい、ぶっとんだ内容なんです。
──自分が主人公になるマンガを読む経験ってなかなかないですよね。麻雀マンガもお好きですか?
福本伸行先生が大好きで、「銀と金」のセリフ「他人を信じられない人間は、とどのつまり、自分も信じられない、信じることが出来ない……!」にとても共感していたんですが、麻雀のマンガは、自分自身が麻雀を始める少し前まで「アカギ」を読んでいた程度だったんですよ。麻雀をきちんと始めて2年ぐらいなんですが、ルールを覚えてきてちゃんと読めるようになりました。最近だと麻雀に詳しいVTuberの千羽黒乃さんに教えてもらった「鉄鳴きの麒麟児」を読み終えました。あとは「リスキーエッジ」とか「打姫オバカミーコ」も好きですね。
苦労がにじむマンガプレゼン配信の舞台裏
──この世で一番尊敬している職業がマンガ家、ということなんですが、以前つくしあきひと先生、赤坂アカ先生、山口つばさ先生、黒瀬浩介先生、西義之先生をゲストに招いた座談会も主催されていました。錚々たるメンバーで非常に豪華でしたね。
本当に! ありがたい限りです。私も個人的にすごく楽しみました。
──配信では、もともとお知り合いの西先生もいらっしゃいましたが、つくし先生はこの座談会のために初めてお声がけしたとおっしゃっていましたね。
西先生もそうですけど、基本的に何かの企画でご一緒するときに、ダメ元でお声がけしたのが始まりです。黒瀬先生に関して言うと、デビューした最初期から私のファンでいてくださって。マンガ版の「ゴブリンスレイヤー」も好きで単行本を買っていましたけど、私の配信のコメント欄にいらっしゃるのが、あの黒瀬先生だと思わなかったんですよ。「えっ、もしかして『ゴブリンスレイヤー』の黒瀬先生なのかな……?」と思ったことが、お声がけしたのがきっかけでした(笑)。
──反響が大きかった企画だと思いますが、「続編を!」という声はありませんか?
あれからお絵描き伝言ゲームの配信なんかは皆さんでちょくちょくやってるんですけど、そろそろ座談会のような企画をもう1回やってもいいかなって思っています! それこそ西先生は「漫画プレゼン同好会」の有識者として参加してくださっているんですが、またプレゼン企画をやりたいっておっしゃっているので、メンバーに声をかけて何かやりたいなーといろいろ考え中です。
──非常に楽しみです! ちなみに、もしマンガにまつわる配信でなんでも制限なくできるとしたら、どんなことをしてみたいですか?
マンガ家ならではのオススメマンガが知りたいですね。読者とは違う目線で面白そうな作品を教えていただけそうです。あとそもそも、マンガの面白いポイントを配信で伝えるのってすごく難しいんですよ。書影やコマ画像をお借りできるならいいんですが、それらがない状況で良さを伝えるのってめちゃくちゃ難しいんですよね。なのでその点が解決できたらもっとマンガの企画をやりたいんですが。
──「漫画プレゼン同好会」メンバーの中から“漫画王”を決める配信では、因幡さんが主催としてさまざまな問題を用意していましたよね。「あの頃のジャンプクイズ」では因幡さんが「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「ジョジョの奇妙な冒険」などの名作を、書影なしで表現するために、自前でフォントに凝ってタイトルロゴを用意されていました。今のお話を伺うと、当時の努力がにじむ一コマだなと思います……。
そうなんです! 書影やコマが出せないので、そういう細かなところで寄せるしかないなと思ったんですよ。なるべく“それっぽい”感じを出すにはどうすればいいのかなーと苦労しました……。
「どう? 好きになったでしょ?」因幡はねるが布教したい作品
──これまでたくさんのタイトルが出てきましたが、気になるマンガはどうやって見つけているんですか?
Twitterなどで「これは面白いぞ!」って情報をキャッチしたマンガは、全部とりあえず1巻を読んで追いかけるかどうか決めます。あとはマンガアプリでオススメって出たり、「このマンガがすごい!」のような賞をとったものだったり。マンガほどは読まなくなりましたが、小説もそうですね。
──なるほど。ちなみに、いつどういうタイミングでマンガを読むことが多いんでしょう。
夜寝る前に読むことが多いです。寝落ちしちゃうので、たいてい最後のページは翌朝覚えてないこともあるんですけど……(笑)。収録の合間とか、電車に乗っているときにも読みますよ。あと私、マンガを読むのが速いみたいなんです。「本当に読んでる!?」って言われるぐらい、ページめくりが速いらしくて。きちんと測ったことはないですけど、2時間あればじーっくり読んで4、5冊は余裕なんじゃないかな、と。
──速く読めるとそれだけたくさんの作品に触れられるので、うらやましいです! 話は変わりますが、配信者のご友人にオススメしたい作品をぜひ伺いたいです。
「この人だからこれを読んでほしい!」っていうのは特にないんですよね。とにかく私が面白いと思ってるから読んで!って感じで、オススメすることが多いんですが。
──では、最近“布教”に成功した作品は?
田村由美先生の「7SEEDS」です。配信者のお友達に限らず、そのへんを歩いている知らない人にもオススメしたいぐらい大好き! 私、天災をモチーフにしたマンガも好きなんですけど、「7SEEDS」ほど、老若男女誰に勧めても面白いって言ってくれる作品はないと思います。田村先生のマンガは最近ドラマ化した「ミステリと言う勿れ」も好きなんですけど、私は断然「7SEEDS」派ですね。
──「ミステリと言う勿れ」から田村由美先生を知った読者もいると思うので、「7SEEDS」も読んでみてほしいですね。
はい! あと少女マンガなら「天は赤い河のほとり」で知られる篠原千絵先生の「海の闇、月の影」もオススメです。流風ちゃんと流水ちゃんっていう双子の姉妹を描く物語なんですが、流水ちゃんが話の中で、好きな人のためにはほかの人を蹴落としても構わないっていう性格になっていくんですよ。だから勧めた人はみんな、最初は流水ちゃんのこと嫌いって言うんですけど、読み進めていくとだんだんみんな彼女に共感し始めて流水ちゃん派になっていくんです。誰が読んでもそうなるので、オススメしてもし読んでもらえたら、「どう? 流水ちゃん好きになったでしょ?」って聞いています(笑)。
──(笑)。最後に、リスナーさんに今オススメしたい作品を教えてください。
うーん……、浦沢直樹先生の「MONSTER」で! 初めて読んだときに、こんなにすごい作品があるんだ!と衝撃的だったんですよ。マンガじゃないとできない表現が詰まっている、名作中の名作です。お友達にマンガをオススメしたときに割とあるのが、マンガを読んでほしいってプレゼンしたのに、そのアニメを観て「面白かったよ」っていうケース。「違うんだよー! アニメもいいけど、マンガじゃないと味わえない良さがあるんだ!」って(笑)。「MONSTER」にはそんな、マンガで読んで良かったという体験ができるので、気になったらぜひ読んでみてほしいです!
因幡はねる(イナバハネル)
日本(北区赤羽)のどこかにある、ゲームや雑談などを楽しみながら美味しい珈琲が飲める喫茶店をコンセプトとした、VTuberユニット・有閑喫茶あにまーれのリーダー。活動4周年を記念したオンラインイベント「AniMare 4th Anniversary -あにまーれ学園祭!-」が6月18日に行われる。イベント詳細、チケット販売は以下関連リンク内のイベント公式サイトで確認を。