バーチャルの世界で生き、日本のみならず世界的にも年々存在感を増しているVTuberたち。オリジナリティ溢れる世界観で日々ファンを魅了しているVTuberたちをモチーフにしたマンガが生まれたり、VTuber自身がマンガ家デビューしたりするなど、マンガとVTuberの関係は近年深まってきている。そもそも彼らの中にはマンガ好きが多い。そこでコミックナタリーでは、業界を牽引する人気VTuberたちのマンガ遍歴をたどるコラムを展開。彼らがどのようなマンガに触れてきたのか、深掘りしていく。
第1回には今や100人以上が所属するVTuber/バーチャルライバープロジェクト「にじさんじ」の1期生であり、アーティストとしても活躍する月ノ美兎が登場。独特のワードセンスと切れ味鋭いコメントが人気の配信を行う一方、あるときは前世療法、またあるときは超能力体験など、ニッチな経験を積み重ねてリスナーに新たな驚きを提供し続けている。 “サブカル委員長”の異名を誇る彼女は、これまでどんなマンガに触れてきたのか? 父親の所蔵するマンガをジャンルレスに読み漁ったという幼少期の体験から聞いてみた。
取材・文 / 佐藤希
マンガは主に電子書籍で
──月ノさんのマンガの蔵書数はどれぐらいなんでしょうか?
電子書籍は、アプリで確認してみたら531冊ありました。紙の単行本もかなり持っていたんですが、手放してしまいましたね。
──マンガは紙で読むか電子で読むか、意見が割れることもありますか、月ノさんは電子派ですか?
正直、気持ち的には今も紙のほうがいいなと思っているんですよ。でもかさばることもあって何年か前に一気に電子に切り替えて、次第に電子で読むことが増えてきました。私(わたくし)はだいたい自宅にいるので、そうなると出かけなくてもすぐに買える電子のほうがいいなあと。
──日々の配信に加えアーティスト活動もされていて、とにかくお忙しい方という印象なんですが、新しいマンガの話題も豊富で、月ノさんってどういうシチュエーションで読んでるんだろう……?と気になっていました。
移動のときに読むことも多いですが、自宅で隙間の時間に読んでいますね。あ、でも外出先で暇になったときに読む用に、紙・電子の両方を買っちゃうときがあります。「チェンソーマン」は紙でも電子でも持っています。
──作品によっては味わいが変わってくることもありますよね。ちょっと話は変わりますが、電子書籍のアプリを眺めてると、「いつこのマンガを買ったんだったっけ?」と思うものがありませんか?
あー、ありますね。最近だと「名探偵コナン」の25巻だけとか。
──なぜ25巻だけなんでしょう……(笑)
今思い出したんですけど、「shine」っていう単語を読み違えて女性が自殺してしまうエピソードを確認したくて買ったんだったと思います。実際に読んでみたら、記憶とは細部が違っていて、確認してよかったなと思いました。
父が持っているマンガで育った幼少期「3巻とか4巻ばっかり読んでた」
──月ノさんの配信を拝見していると、「なるたる」 などご自身の年代よりも上の人が楽しんできたような作品の話題がたくさん出てくるので 、今までどういうマンガを読まれてきたんだろう?とぜひ伺ってみたかったんです。記憶にある中で、一番最初に読んだマンガは何か覚えてますか?
おそらく4コマですね。幼少期にマンガを読んだときに、上から下に読む方法しかわかっていなかったので、最初にマンガというものに触れたのは4コマなんだと思います。4コマじゃないマンガの原体験だと、タイトルがきちんと思い出せるものは「ブラック・ジャック」。小学校に入る前の、4歳か5歳ぐらいのことだったと思います。
──どういう理由で印象に残っていたんでしょう。
当時はとにかくめちゃめちゃ怖かったんですよ! 手術シーンでブラック・ジャックが何かプルプルしたものをつまむところが、ショッキングで怖かった。内容はきちんとわかっていなかったんですけど、そこは覚えていますね。「ブラック・ジャック」は父の持ち物で、文庫版は黒い装丁が小説みたいだったので、開くまでマンガだと認識していなかったんだと思います。父の趣味で、けっこうマンガが多い家でした。
──お父様もマンガがお好きだったんですね。4歳で「ブラック・ジャック」を読んでいると、止められそうですが……。
たぶんバレてなかったんだと思います(笑)。今思うと父はめちゃくちゃサブカル趣味だったので、本当にいろんなジャンルのマンガがあちこちにある家だったんですよ。だから小さい頃は父の持ってるマンガから、適当に手に取った3巻とか4巻ばっかり読んでいるような子供でした。
──1巻から順番通り読んでないというのは気になりませんでした?
小さい頃だから、「1巻から読まないと」というこだわりもなかったので、あまり気にしてなかったですね。けっこうめちゃくちゃな順番で読んでました。たまに1巻に当たるとラッキー、みたいな(笑)。
──お父様と同じマンガを読んでいるので、共通の話題もできそうですが、そういう話はされていましたか?
いや、隠れて読んでたのでできませんでした。別にマンガを読むのを禁止されていたわけではなくて、自分で買ったマンガを読む分には問題なかったんですけど、父親のマンガは過激な描写が多いので、読んでいることを知られるとちょっとまずいかなと……。「寄生獣」も小さい頃に内緒で読んでいました。あと、父が持っていたマンガなんですけど、「シグルイ」は表紙が怖くてなかなか読めなかったんですよ。でも成長した今読んでみたら面白かったです。「ホムンクルス」や「T・Pぼん」とかも記憶に残っていますね。
体験レポ配信に活きた清野とおる作品からの気付き
──お父様の集めてきた作品の中から印象的なものを語っていただきましたが、月ノさんご自身が買ったマンガですとどういうものを選んできたんでしょう?
全巻持っていたのは、「銀魂」や「ボボボーボ・ボーボボ」「ピューと吹く!ジャガー」とかギャグマンガが多いです。思い返すと、週刊少年ジャンプの連載作品で好きなものはギャグマンガがほとんどですね。あとは「さよなら絶望先生」や「かってに改蔵」、「鋼の錬金術師」「金色のガッシュ!!」「うる星やつら」などですかね。
──これまで挙がった作品の系統をまとめると、少年誌や青年誌で発表されていたものが多いですね。少女マンガなどはいかがでしたか?
小学生のときにちゃおを読んでたぐらいですね。「チャームエンジェル」「スパーク!!ララナギはりけ~ん」のもりちかこ先生が好きで、男の子があまり出てこなくて女の子の友情をメインに描いている作風が、なんとなく「ちょっと硬派なマンガを読んでいるぞ」という気がしていました。あと「ぴちぴちピッチ」はTVアニメを観て原作を買いました。でも、大人の女性向けのマンガはあんまり通ってきていないかもしれません。
──なるほど。ちなみに、これまで出てきた作品の中で一番思い入れが深いものはなんでしょう?
「かってに改蔵」ですね。おそらくマンガに対して脳の容量を一番割ける時期に読んでいたからだと思います。私、久米田康治先生の作品が大好きで、「かってに改蔵」と「さよなら絶望先生」からはかなり影響を受けていると思うんですが、その頃からマンガに登場する言葉やエピソードの元ネタを調べるようになって、オタクの文化を知ったような気がします。あと影響を受けているとしたら、清野とおるさんのマンガでしょうか。
──以前、インタビューで「東京都北区赤羽」がお好きとおっしゃっていましたね。
そうですね。ただ、清野さんご自身はそういうはつもりないのかもしれないんですけど、すごい勢いでガーッと相手の懐に入り込んでいける方だと感じていて、そういう気概を私もめちゃくちゃ見習いたいなと思ったんです。というのも私、昔コミティアで偶然清野さんとお会いしたことがあるんです。
──おお、すごい!
そのときは押切蓮介先生のマンガを買いに行ったんですが、押切先生のところに清野さんがいらしたんですよ。何をお話したか覚えていないんですけど、清野さんにすごいニコニコしながらワーッと話しかけられて。そのあとに清野さんのマンガ読んだとき「この感じか!」とハッとしました。自分が気付いてなかっただけの町に行く「全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの」っていう清野さんの作品があるんですけど、町で出会った見知らぬ人に対して、臆せずパッと話しかけに行く取材力がすごい。そういうムーブを真似していた時期がありました。私が時々する体験レポ配信は、清野さんの影響を受けているところがあるかもしれません。
──最近ですと超能力を使える方が経営しているたこ焼き屋さんに行かれてましたよね。体験レポの場所選びも清野さんの影響が?
かもしれないです。でもあんまりヤバいところに行くと配信でご紹介できなくなっちゃうんですけど(笑)。清野さんのマンガを読んで「グイグイいっちゃったもん勝ちなんだな」ということを学びました。
樋口楓にお薦めしたいマンガは「明日、私は誰かのカノジョ」
──最近読んでいるもので、続きが気になっている作品はなんでしょうか?
ずっと追いかけている「マイホームヒーロー」ですね。主人公が娘に暴力を振るった彼氏を殺してしまったことから始まるお話で、単行本も10巻ぐらい出て物語的にも大きな山を2つぐらい越えているんですが、主人公が本当にずっと戦っていて、今後が気になります。「マイホームヒーロー」はほかのライバーにもお薦めしました。
──にじさんじメンバーや配信者のご友人だと、どういう方とマンガの話をされているのか気になります。
名取さなとリゼ(・ヘルエスタ)、あと剣持(刀也)さんとお話しすることが多いです。剣持さんはすごくマンガ好きで、会話で出てくるマンガはだいたい読んでらっしゃるんですよ。リゼからお薦めされた「舞妓さんちのまかないさん」も好きで読み続けているんですが、この作品って不思議なのが、だいたいキヨさんの作ってくれた料理を食べる前に話が終わりますよね? そういうグルメマンガがあるんだ!と新鮮でした。そのことを話したら、リゼは全然そこに疑問を持ってなかったんですよ。リゼはグルメマンガは作る過程とビジュアルがあればよくて、私は「食べるところこそ大サビでしょ!」と意見が割れたことがありました(笑)。
──なるほど(笑)。先ほど、ライバー仲間にもマンガをお薦めすることもあるとおっしゃっていたんですが、最近読んでいるマンガの中で誰か特定のライバーに読んでほしいものはありますか?
「明日カノ」(「明日、私は誰かのカノジョ」)の続きが気になり過ぎて、アプリで最新話を読んでいるんですが、(樋口)楓ちゃんにお薦めしたいです! さっき私が女性向けのマンガをあまり通ってきていなかった話をしたんですが、楓ちゃんは私があんまり読んできていなかったジャンルのマンガをよく読んでいるので、たぶん「明日カノ」の雰囲気も楽しんでもらえるんじゃないかと思ってます。
──「明日、私は誰かのカノジョ」は4月からドラマも始まりますし、この機会にぜひ樋口さんにも読んでいただきたいですね。最後に、月ノさんが今リスナーさんに読んでほしい作品をお教えください。
リスナーさんか……悩みますね。うーん……石黒正数先生の「天国大魔境」ですかね。荒廃した未来の日本が舞台の物語なんですが、地球がめちゃくちゃになったあとの世界をどう生きていくかというシミュレーションをするだけでワクワクしてきます。主人公のマルとキルコのサバイバルパートと、選ばれた子供たちが暮らす学園パートの2つが主に軸になっているんですが、私はやっぱ探索冒険がそういう要素に惹かれます。ぜひ読んでみてほしいですね。
月ノ美兎(ツキノミト)
にじさんじ所属のバーチャルライバー。バーチャル世界の女子高生として、YouTubeの生放送を中心に活動している。性格はツンデレだが根は真面目な学級委員。本人はがんばっているが少し空回り気味で、よく発言した後で言いすぎたかもと落ち込むことがある。