集英社、講談社、小学館、KADOKAWAが、アメリカのIT系企業クラウドフレア社に対し、海賊版コンテンツの公衆送信・複製の差し止めおよび損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した。賠償請求額は一部請求として各社1作品、合計4作品の被害総額4億6000万円。
クラウドフレア社は国際的に活動するコンテンツ配信ネットワーク(Contents delivery network、以下CDN)事業者の1社。CDN事業者には、世界各所に大容量のサーバーを設置し、契約先サイトのコンテンツをそれらのサーバーに一時的に複製することでユーザーからのアクセス先を分散、当該サイトの通信速度を確保するといった役割がある。このサービス自体は快適なインターネット環境の保持に欠かせない公共サービスのひとつであり、CDN事業者は多くの場合、当該サイトが違法・不当なコンテンツ配信を行うことのないようさまざまな手段を講じている。
しかし講談社によると「クラウドフレア社のCDN事業は、メールアドレスの登録のみで契約が可能であり、かつ、一定の範囲であれば無料でサービスを利用することができます。また、サイト運営者は同社サービスに登録することによって、氏名や連絡先等の運営者情報を同社に代替させることが可能です。こうした特性から、身元の特定を嫌う海賊版サイトの多くが、クラウドフレア社のCDNサービスをこぞって利用するようになっています」とのこと。また「それら海賊版サイトの中には、月間1億を超えるアクセスをこなし、広告収入を荒稼ぎしている悪質なサイトが複数存在します。一般社団法人ABJが、アクセス数の多い上位10の海賊版サイトで違法に読まれた漫画の小売り額を試算した結果、その額は2021年の1年間だけで1兆円を超えるまでに拡大しています。そして当該10サイト中9サイトまでが、クラウドフレア社のCDNを利用していることがわかっています」という。
原告となった出版4社は、顧問弁護団とともにクラウドフレア社に対し、著作権侵害が明らかな9つの海賊版サイトを示したうえで、そのサイトが違法に蔵置している侵害コンテンツについて「同サーバーを介した公衆送信の停止」「同社が日本国内に有しているサーバーにおける一時的複製(キャッシュ)の停止」「違法であることが明らかな海賊版サイト運営者との契約解除」などを求めてきた。しかし、集英社は「クラウドフレア社からは最終的に、対象サイトについて必要な措置を取ったとの回答があったものの、同社はどのサイトに対して、どのような措置を取ったのかについて何ら具体的な説明をしようとしません。何より対象サイトが従前通りの通信速度を維持したまま活動を続けている現状では、同社が効果的な対応を行ったと捉えることは困難です。また、専門家による技術的な検証によっても、対象の海賊版サイトにおいて引き続き同社のサービスが利用され、キャッシュが行われている蓋然性が高いことがわかっています」としている。
なお2019年6月に集英社、講談社、小学館、KADOKAWAは「4社が指摘した海賊版サイトにおいて、著作権侵害が行われていると裁判所が判断した場合、CF(クラウドフレア)社は、日本国内にあるCF社のサーバへの当該サイトの複製を中止する」を条件に、クラウドフレア社と和解が成立していた。しかし現在でも海賊版サイトがクラウドフレア社のCDNを利用していることを鑑み、原告4社と顧問弁護団は「今回の訴訟を通じ、海賊版対策への協力要請に対してクラウドフレア社がこの数年間示してきた非協力的な姿勢が、通信インフラという公共的サービスを担う企業としてふさわしいものかどうかについても、社会に問うていきたいと考えています」と声明を発表している。