現代アニメの“当たり前”作った幻魔大戦をりんたろう監督語る、大友克洋との思い出も
11月19日より行われている「角川映画祭」の一環として、アニメ映画「幻魔大戦」のトークイベントが本日11月21日に東京・EJアニメシアター新宿で開催され、監督を務めたりんたろうと、アニメ評論家の氷川竜介が登壇した。
「角川映画祭」は角川映画の45年記念企画で、市川崑が監督を手がけた「犬神家の一族」の4Kデジタル修復版など、全31作品を劇場上映するイベント。「幻魔大戦」は暗黒の破壊者・幻魔から地球を守ろうとする超能力者たちを描いたアニメで、角川映画のアニメ作品第1弾として1983年に初公開された。イベントではまず氷川がりんたろう監督に、角川春樹の印象を尋ねる。りんたろう監督は「いろんな人に会っていろんな仕事をしたけど、異端児と言えるのはこの人だけ。織田信長かと思いました。異端児的で、颯爽としていて、豪放磊落で。それが第一印象ですね」と語った。
りんたろう監督が「幻魔大戦」に携わることになったきっかけは、角川に声をかけられたことだという。呼び出されたりんたろう監督が銀座のとある店を訪ねると、その奥の席には角川が待っていた。そのときのことについてりんたろう監督は「巨大な丸テーブルがあったんですよ。そこに角川さんがいて、その後ろにはでーんと武田信玄の甲冑があるんです。『なんじゃこりゃ』と思いながら席について」と振り返る。さらに「(角川とは)目を外して話したら負けるなと感じました」「この業界でそういう鋭い目の人と会ったのは初めてでしたね。開口一番『実は自分は角川アニメというものをやりたいんだ』と言われて。『ウォルト・ディズニーを超えたいんだ』と聞いて、『言うなぁ』と思いました」と述懐。一通り話が進んだ後「2億5千万円を渡すから、好きに使え」と角川に予算を提示され、作品の制作が始まったという。
またりんたろう監督は「幻魔大戦」が作られた時代についても、「当時はオカルトブームで、世紀末で、ノストラダムスの大予言なんかがまことしやかに論じられて。社会現象とまではいかないけど、いろんな出版社からエスパーものの本が出ていた時代じゃないですか。僕も『君の潜在能力を活かしてエスパーになろう』と謳っている本を読んでみたことがあって。(超能力者を描く)『幻魔大戦』にはそういう時代のアクチュアリティもありました」と回想。制作時の苦労については「オーラが出るなんて、どう表現すればいいかわからなくて。そういうものは見えないからこそ怖いはずなんですけど、見えないものをアニメで表現するのは難しい。それをやったら面白いかもしれないんですけど、観客は納得しないだろうというので、ガスバーナーみたいに出してね(笑)」と話す。氷川がそれを受けて「この作品の公開後は『聖戦士ダンバイン』とか『魔法のプリンセス ミンキーモモ』とか、オーラをああいうふうに表現する作品が増えましたよね」と言うと、りんたろう監督も「特許取っておけばよかったですね(笑)」と応じていた。
さらにキャラクターデザインを手がけた大友克洋との思い出について話す場面も。大友の「ショート・ピース」「ヘンゼルとグレーテル」を読んで「幻魔大戦」にぴったりの絵柄だと感じたりんたろう監督は、大友に話を持ちかけ、喫茶店で2時間ほど相談をしたという。キャラクターデザインの作業は制作スタジオで大友と机を並べて行ったとのことで、「丸山(正雄)が、ルナ姫のデザインを見て『かわいくねえなあ』『アニメの女の子はかわいくなくちゃ』と言って。大友くんは『ちょっと直してみるわ』って言って描き直すんだけど、これが変わらないんだわ(笑)。最後には僕が『勘弁してあげてよ』と言ってかわいくないままのデザインにしたんだけど、それが結果的によかったんです」と語る。その後も「そんな感じのやりとりをして、ああじゃない、こうじゃないと飯食ったりしながら、冗談で作ったキャラクターが永井荷風をモデルにしたカフーです」「当時、キャラクターがどんな靴を履いているかなんてことはどうでもよかったんですよ。でも『幻魔大戦』では大友くんと『主人公が履く靴はどんなものなのか。ワークブーツなのかウィングチップなのか』『肩からかけるセーターは何色にするか』『ベルトはどうするか』といったことも話し合っていました」と大友との思い出を次々披露していた。
また「幻魔大戦」の冒頭では、宇宙の闇を描いたカットや、高層ビルが林立する夜の都会を描いたカットが映し出されていく。これらの映像の構想を膨らませた過程について、りんたろう監督は「(制作当時の)夜の新宿は、暗いと墓場にしか見えないんです。これは世紀末の墓場だなと思った。この風景にどういう音楽をつければいいかなと考えたときに、鬼太鼓座が演奏するような太鼓の音が聞こえてくるといいんじゃないかと思いついて『これしかない!』と決めました」と話す。そして「黒ベタの画面を映すのは斬新でしたよね」という氷川のコメントに対しては「父親から『映画っていうのは光と影で構築されているんだ』と教わっていたので、常に光と影を意識して作っていました」と映像作りへの思いを告白。ほかにもアナログでアニメ制作が行われていた時代を振り返り、透過光の撮影での試行錯誤や、カメラのレンズにリップクリームを塗ることによって画面ににじみを出すテクニックなどについて語っていた。
その後、話題は金田伊功が携わった終盤の火竜のシーンに。りんたろう監督は「金田さんは本当にとてつもないアニメーター。彼といろいろ話しながら、動画のシートの間に1コマだけ真っ白いシートや真っ黒なシートを入れてみたりして。これがまた映像にすると面白い効果を生むんですよ」「幻魔って表現のしようがないですからね。顔を持ってくるのもおかしいし、抽象的すぎるとわからないので、ほどよく抽象的な表現を考えて、火竜だろうということになりました」と述べた。
イベント終盤には作品に対する思いが語られる。りんたろう監督は「この作品を作ったのは40代でしたが、40代は人生における1つのターニングポイントを迎える時期です。そんなときに春樹さんと出会って、面白い連中がサポートしてくれてできあがったのが『幻魔大戦』。もちろん作品について自分の中で忸怩たる思いもあるけど、総じてこの作品をあの時代に作れたということは僕にとって非常に大事なことだったし、その後も角川アニメをいくつか作って、一時代を作り上げたことは僕にとって重要な経験でした」とコメント。また氷川は「もしかしたら今日作品を観た方も『当たり前だな』と思って観てた要素が多いと思うんですけど、この映画がのちの当たり前を作ったんだということを思っていただければ」とメッセージを送り、イベントは幕を閉じた。