「ジャンプ連載会議でボツだった」、篠原健太が「彼方のアストラ」誕生経緯明かす

左から篠原健太、「BEASTARS」担当の木所孝太氏。

マンガ大賞2019が本日3月19日に発表され、篠原健太「彼方のアストラ」が大賞を獲得。その授賞式が同じく本日、ニッポン放送イマジンスタジオにて行われた。

授賞式ではまず、昨年「BEASTARS」で大賞を獲得した板垣巴留の担当編集・木所孝太氏が壇上に。木所氏はマンガ大賞を受賞したことによる反響について「巴留先生は『マンガ大賞を受賞したことで、初めて単独で週刊少年チャンピオンの表紙を描けたことがうれしかった』とおっしゃっていました」とコメント。また前任から「BEASTARS」の担当を引き継いだばかりだという木所氏は「すごく急なタイミングだったんですが、担当に決まってから前任者と毎晩のようにご飯を食べに行ったりお酒を飲みに行く中で、『BEASTARS』を頼むと熱く言われました。前担当の作品に対する思いを絶やさないようにしたいです」と抱負を述べた。

木所氏はマンガ大賞2019のプレゼンターも務め、「マンガ大賞2019、大賞作品は篠原健太先生『彼方のアストラ』です」と発表し、篠原が迎え入れられる。壇上に上がった篠原は「憧れていた賞なのですが、大人っぽい作品がノミネートされるというイメージを勝手に持っていて。宇宙で冒険するというバリバリの少年マンガが賞を取ったことに驚いています」と挨拶。劇中に登場する食べ物や宇宙船をイメージしたプライズを木所氏から手渡され、篠原は「作品を読み込んで作っていただいてとてもうれしいです」と喜んだ。

学園コメディの「SKET DANCE」から打って変わりSF作品を発表した理由について篠原は「『SKET DANCE』は自分の意志で終わらせた作品なんです。編集部は次回作でも『SKET DANCE』のような作品を欲していたと思うんですけど、同じようなものをやるなら『SKET DANCE』を自分から終わらせる必要はないですし、(ジャンルの)違う作品をやらなければいけないと思っていました」と回想。一方で作品を立ち上げるにあたり「大分悩みました」とこぼし、「最初はバトルものの企画を進めていて1年くらい考えていたんですが、『この作品には勝算がない』とセルフボツにしたんです。その数時間後ぐらいに『もう宇宙に行くか』と、『彼方のアストラ』の骨格が出来上がって。1年間の企画をボツにしたので落ち込んでいたんですが、その開き直りもあったと思います」と振り返る。バトルものをボツにした理由については「どうやって戦うかまでは考えたんですが、何と戦うのかという設定が作れずににうまくいかなかったんです。冒険ものは敵がいなくていいですし、自然と対峙してある意味自然が敵のような部分もある。困難と戦うという形にすれば、敵がいなくてもいいのでこれならやれるかなと思いました」と語った。

さまざまな伏線をちりばめながら5冊で作品をまとめあげたことについて、司会の吉田尚記アナウンサーが称賛すると、篠原は「バトルものでやろうと思っていたネタを持ってきたりと、もともと長い話で考えていてポイントポイントで謎を明かしていく形を想定していたんです。でも企画を縮小して5冊くらいにまとめることになって、読み応えがある感じになりました」と返答。作品を5冊でまとめることになった経緯については、「最初は週刊少年ジャンプ編集部に企画を提出したんです。『ここを直そう』と言われることはあるかなと思っていたんですが、直しのチャンスもなく(企画自体が駄目という)全ボツになってしまって(笑)。僕も担当も『えっ?』てなって、一度『アストラ』の企画を諦めたんです。でもどうしてもやりたいと思って、ちょうどジャンプ+が立ち上がっていたので、『そこで描くのはどうだろう』という提案をさせてもらいました。ただ一度全ボツになった作品なので、これを長々やるのは潔くないかなとも思い、長くならない5冊でまとめたんです。面白いところだけを残す感じにしたので、その分凝縮したシナリオになって結果的にはいい方向に作用したなと思っています」と説明する。一方で篠原は「ジャンプ編集部の名誉のために言っておくと、当時提出した『アストラ』は(実際の主人公の)カナタが主人公ではなく、うじうじしている暗い感じのキャラが主役で、彼の成長物語にする予定だったんです。ほとんどの編集者が連載に反対していたらしいので、多分その1話目が面白くなかったんじゃないかなと思っていますし、今なら僕も打ち切られていただろうなとわかります。そのあとカナタという力強いキャラクターが出来上がったので、結果的に編集部の判断は正しかったんです」とフォローした。

またマンガ大賞が始まって以来、初めてのWeb連載作品での大賞となった「彼方のアストラ」。篠原は「Webで連載してみて、初めて紙のジャンプのパワーがわかりました。雑誌であれば普段は読んでいなくても、絵に魅力を感じてもらえたらページを止めて読んでもらえる可能性があるんですが、Webマンガは情報がバナーとかアイコンくらいなので自分から積極的に宣伝しないと読んでくれない。どうすればいいのかわからないので、Twitterを始めたりしたんですが読んでもらうことがこんなに大変だとは思いませんでした」と苦労を明かす。また「連載当初はほとんど反響がなかった」と自虐しながら、「始まったときも1巻が出たときも話題にならなかったので、このまま何もなく終わるんだろうなと思っていて、『本が出せたんだからいいじゃないか』くらいの気持ちだったんです。それが物語後半の種明かしをするような回になると、そのたびにTwitterのトレンドに入るようになって。そのときに初めて『みんな読んでるんじゃん。どこに隠れていたんだ』って思いました。『彼方のアストラ』は5巻まとめて(読むと面白い)という形で評価していただいていますが、連載マンガなので最初から面白く描かないといけなかったなと反省しています」と述べた。

次回作については「次に何を描いたらいいか迷っている」としながらも、すでに新作の1話目のネームを執筆していることを告白。「SKET DANCE」「彼方のアストラ」の2作品が続けて評価されていることから「プレッシャーがすごいです」と笑いながら、「『SKET DANCE』とは違うものを描こうと思って始めた『アストラ』ですが、結局ギャグもあってミステリーもあってという似たようなものになりました。良く言えばそれが自分の作家性なのかなとも感じたので、3作品目もこれまでと同じ雰囲気を持った作品になるのではないかなと思います」と次回作に言及した。

「彼方のアストラ」は宇宙への渡航が当たり前になった近未来を舞台にしたSFもの。学校行事の一環としてある惑星を訪れた少年少女が、謎の球体に飲み込まれたことから宇宙の彼方で遭難してしまい、サバイバル生活を強いられる。同作は少年ジャンプ+で連載され、単行本は全5巻が発売中。TVアニメ化も決定している。なお篠原は、本日24時よりニッポン放送にて放送されるラジオ「ミュ~コミ+プラス」に出演する予定だ。

マンガ大賞2019最終結果

大賞 篠原健太「彼方のアストラ」(94pt)
2位 田村由美「ミステリと言う勿れ」(78pt)
3位 山口つばさ「ブルーピリオド」(73pt)
4位 ヤマシタトモコ「違国日記」(45pt)
5位 赤瀬由里子「サザンと彗星の少女」(41pt)
6位 入江亜季「北北西に曇と往け」(40pt)
7位 とよ田みのる「金剛寺さんは面倒臭い」(39pt)
8位 鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」(38pt)
9位 樫木祐人「ハクメイとミコチ」(33pt)
10位 コナリミサト「凪のお暇」(25pt)
11位 九井諒子「ダンジョン飯」(23pt)
12位 堀尾省太「ゴールデンゴールド」(22pt)
13位 渡辺ペコ「1122」(19pt)