「BLAME!は増殖していく」と瀬下寛之がうっとり、冲方丁も熱弁のSFナイト

左から塩澤快浩編集長、瀬下寛之監督、冲方丁。 (c)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

弐瓶勉原作による劇場アニメ「BLAME!」のヒットを記念したイベント「SFナイト」が、去る6月1日に東京・新宿ピカデリーにて開催され、瀬下寛之監督、冲方丁、SFマガジン編集長の塩澤快浩氏が登壇した。

本イベントは2015年6月開催の「攻殻機動隊 新劇場版×シドニアの騎士 SFコラボナイト」以来、2年ぶりに実施された「SFナイト」。前回は弐瓶、「シドニアの騎士 第九惑星戦役」の監督を務めた瀬下、「攻殻機動隊 新劇場版」総監督の黄瀬和哉、同作の脚本を手がけた冲方の4名が登壇し、SFについて大いに語り合った。今回で2度目の登壇となる冲方は「本日は残念ながら、弐瓶勉さんが引きこもりになられてしまって(笑)」と、弐瓶が連載中の「人形の国」執筆のために来場できなかったことをジョーク交じりに明かし、「でも、ここら辺にいるかのていで楽しくお話しできればと思っております」と挨拶した。

「BLAME!」の大ファンで、5月に同作のノベライズ「小説BLAME! 大地の記憶」を上梓した冲方。会場を見回して「東亜重工のシャツ率が高いですね! 今日来てくればよかったな」と弐瓶ファンばかりの観客たちに笑顔を見せる。そして映画を観た感想を問われると「弐瓶勉ワールドという、とても味わい深くて大好きだけどとにかくわかりづらい世界観を、ここまでエンタメにできた。最適解を見たな、と思いました」と称えた。

瀬下監督は、冲方が劇場版「BLAME!」に寄せたコメント「CGの最大の特徴はデータの蓄積だ。成長する怪物を見ている気分になる」について「いいところを突かれている」と頷く。「あのアニメのセットはすべてCGで作られていて、それをベースに絵を描いている。あのデータは蓄積されていくんです。個人的な妄想を言ってしまうと、皆さんの応援のおかげで続編ができたり、スピンオフができたりを繰り返していくと、あの(「BLAME!」の)世界はCGのデータ上で増殖していく」と、「BLAME!」の主役とも言える“無限に増殖する巨大な階層都市”との相似にうっとりと浸り、「それがいちCG屋としての個人的な楽しみ。だから冲方さんのコメントはそれを的確に射抜かれている」とまとめた。

また司会から「霧亥のCGモデルは、演算の負荷がすごすぎてポリゴン・ピクチュアズのサーバーが止まった」というエピソードを披露されると、瀬下監督は笑顔に。「(劇場アニメ「BLAME!」の制作手法である)セルルックCGって、例えばピクサーのような作品よりは情報が少ない分、予算的にはリーズナブルに作れるというメリットがあるんです。でも『BLAME!』のスタッフはCGでいろんなギミックやパーツを作り込み過ぎて、セルルックの意味がないくらいのすごい情報量で、何をやってるんだと(笑)。僕ら仕切っている人間が、彼らの増殖を止められない」と、制作スタッフの「BLAME!」愛に苦笑いを浮かべつつうれしそうに語る。

そして瀬下監督は「AIを使って、アニメの群衆を動かす研究をしているんですが、それが進化していくと、僕らが作っているCGデータがCGデータを作り始めてしまうんじゃないかって。その妄想は、あながち非現実的ではない」とSFナイトらしい話題になり、塩澤編集長も「それはまさに『BLAME!』世界そのもの」と相槌を打つ。続けて瀬下監督は「SF的発想でいうと、僕らは、僕らが作り出した(「BLAME!」の)都市に、作らされているのかもしれない」とカッコよく締めようとしたところ、すかさず冲方が「じゃあネット端末遺伝子を持たない監督は駆除されちゃうね」と茶化し、観客からは笑いが起こった。

塩澤編集長は「僕としては階層都市があって、遠景から豆粒みたいな霧亥がひたすら都市を登っていくさまを、延々と写すようなアニメでもいいんじゃないかと思ってた」と、原作マンガ「BLAME!」を読み込んだうえでの発言も。瀬下監督は笑いながら「弐瓶原理主義の方からも、『延々歩いていて映画になるのか』って心配の連絡が来ました」と、独特な世界観を持つ「BLAME!」を映画化するにあたり、ファンからの憂慮があったことを明かした。そして「原作の主役は、人というより世界なんです。そのすごさに、いきなり映画で切り込むのは不可能だなあって思いがあって。弐瓶先生ご自身も『僕の原作は難しかったんで簡単にしましょうよ』って言っていただいたので、『じゃあそうしましょ!』って作り始めました。それでできたのが“電基漁師”が主人公のこの映画です」と、企画のスタートラインを明かした。

そしてトークは冲方によるノベライズ「小説BLAME! 大地の記憶」の話題へ。自らノベライズの作家に立候補したという冲方は「映画の脚本を見て、小説はその相互補完的にやろうという気持ちがあった」と執筆の意図を語り、「弐瓶さんともディスカッションしました。担当者さんも交えて何時間も飲みながら」と話す。その場にいたという塩澤編集長が「だいぶ飲みながらだよね。ついでに打ち合わせ(笑)」と水を差すと、「いやいや、だいぶ打ち合わせしたよ! 僕、聞かなきゃいけないこといっぱいあるんだもん」と弐瓶との綿密なやり取りを強調。「弐瓶さんが映画のイメージボードをいくつも作ったおかげで、何年も前の自分の記憶を掘り起こしていたところで聞けたので、有利なスタートを切れた。これは本当に考えて描いたの?なんとなくなの?ってところを、ちょっと開き直った弐瓶さんから聞き出せたんです」とエピソードを披露する。また「講談社の初代担当が『雑誌のアンケートがぶっちぎり最下位で、1巻で打ち切られる予定だった』って。だから1巻の表紙は、2度と刷らないと思ってめちゃくちゃ印刷にお金かかるものにしたらしいんです。そしたら単行本がめちゃくちゃ売れて、即重版が決まって。このカバーすごく高いけどもう1回刷るのか……ってなったと(笑)」と話すと、瀬下監督は「僕に十数年前『BLAME! 』を教えてくれたスタッフは、ジャケ買いだったって。成功だね」と頷いた。

イベントの途中では、弐瓶からのコメントも。「冲方さんをはじめとした国内SF界の第一人者のみなさんに『BLAME!』を小説化していただけたのは、本当に幸運なことでした。ノベライズもアンソロジーのどの作品もどれも素晴らしかったです。僕の中のSF魂を大いに刺激してくれました。今日はアニメ版についても語ってもらえるということで、とても楽しみです」と感謝の思いが読み上げられ、登壇者たちは相好を崩した。最後の挨拶で冲方は「『BLAME!』世界は連載で読んだときから衝撃で、ずっと追いかけてきた。今回、小説でどうアプローチしようかと思ったとき、孔子とかの言葉を注釈する人がいるじゃないですか。朱子学とか、そういう解釈のひとつとして小説を出せたらと思いました。反射的にノベライズ担当をやると言ってしまったので、あとからスケジュールがめちゃくちゃなことになっちゃったんですけど、やってよかった」と満足した様子を見せ、イベントは幕を閉じた。

劇場アニメ「BLAME!」

2017年5月20日(土)より2週間限定で全国公開

スタッフ

原作:弐瓶勉「BLAME!」(講談社「アフタヌーン」所載)
総監修:弐瓶勉
監督:瀬下寛之
副監督/CGスーパーバイザー:吉平”Tady”直弘
脚本:村井さだゆき
プロダクションデザイナー:田中直哉
キャラクターデザイナー:森山佑樹
ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
美術監督:滝口比呂志
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
主題歌:angela「Calling you」
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
製作:東亜重工動画制作局

キャスト

霧亥:櫻井孝宏
シボ:花澤香菜
づる:雨宮天
おやっさん:山路和弘
捨造:宮野真守
タエ:洲崎綾
フサタ:島崎信長
アツジ:梶裕貴
統治局:豊崎愛生
サナカン:早見沙織

※島崎信長の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記。

(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局