メディア芸術祭、池辺葵の2作品が大賞で競る「ねぇ、ママ」は“テーマがより深化”

第21回文化庁メディア芸術祭の記者発表会の様子。

第21回文化庁メディア芸術祭の記者発表会が、本日3月16日に東京・国立新美術館にて行われた。コミックナタリーではアニメーション部門とマンガ部門の受賞作品発表時の様子をレポートする。

アニメーション部門では「この世界の片隅に」と「夜明け告げるルーのうた」が大賞を受賞。2作品同時の大賞は、2001年の第5回以来とのこと。壇上へは「この世界の片隅に」のプロデューサー・真木太郎氏が上がり、「片渕(須直)はモロッコの映画祭に行っております」と前置きして片渕監督のコメントを代読。「振り返れば2009年のこのメディア芸術祭で、こうの史代さんのマンガ『この世界の片隅に』が優秀賞に輝き、翌2010年に自分の映画『マイマイ新子と千年の魔法』が優秀賞をいただきました」「その2010年のメディア芸術祭の控え室で、この人が『この世界の片隅に』の監督です、と人に紹介していただいたのが、『この世界の片隅に』の監督として自分自身を確かめた初めてのこと」と、メディア芸術祭との不思議な縁を語った。

真木氏は「クラウドファンディングという資金調達の手法にはじまり、映画興行そのものは大型の宣伝を行わず、というか行う資金もなくゲリラ的な手法で宣伝を行った。TwitterなどSNSを含めたデジタルの口コミと、通常のアナログの口コミの相乗効果によって、非常に多くのお客さまに映画館に詰め掛けていただいて。一昨年の11月に公開した映画が、未だに上映されている。本来エンターテインメントの趣旨である、クリエイターとお客様の非常に幸せな融合がこの映画を支え続けている」と、「この世界の片隅に」について分析した。

続いて、「夜明け告げるルーのうた」の湯浅政明監督が登壇。湯浅監督のスピーチが始まる前、スクリーンにはルー役の谷花音の姿が映し出される。谷は「ちょっとだけシャイな監督さんの代わりに」と同作のあらすじを元気いっぱいに紹介。湯浅監督は相好を崩しながら「周りを気にして正直にものが言えない少年が、好きなものに対して正直になる話なので、自分たちも子供の頃に観たアニメの影響を素直に出しました。いろんなところにその部分が散見されると思う」「ポニョ(『崖の上のポニョ』)のパクリではないかと思って劇場に行くのをためらったという意見をたくさん言われましたが、作っているときはまったくポニョを意識してなくて。でも子供の頃に観た宮崎駿作品には大きな影響を受けています。似ているかどうかは自分の目で確かめてください」と茶目っ気たっぷりに答えた。

そして「小さい頃から変わってるとか偏屈だとか言われてきたので、僕もみんなに理解されたいしみんなを理解したい。今作はそのメッセージというかラブコールでもあります。今回、この賞をもらって、理解されたと理解させていただきます」と笑顔を見せる。なお湯浅監督は2004年に「マインド・ゲーム」、2010年に「四畳半神話大系」でも文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門大賞を受賞。3回目の大賞受賞はメディア芸術祭はじまって以来だという。

マンガ部門の大賞を受賞したのは、池辺葵の「ねぇ、ママ」。秋田書店の担当編集者が登壇し、池辺のコメントを読み上げる。「賞をいただき、ただただうれしくありがたい気持ちです。読んでくださった方、制作・出版・販売でお世話になった皆さま、応援してくださる方、支えてくれる音楽、毎日の生活、たくさんの方や出来事にありがたい気持ちです。また気合を入れ直してやっていこうと思っています」と喜びの気持ちを明かした。

マンガ部門の審査委員・門倉紫麻氏は「『ねぇ、ママ』というタイトルですが、母親だけでなく大人というそのものへのエールのような作品。審査のときにはモニターに作品を映しながらみんなで見たりするんですが、そのときにも分析的にというよりは『本当にいいよね』とエモーショナルな発言が出た作品でした」と称えた。また「池辺さんは、もう1作の『雑草たちよ 大志を抱け』という作品も最終選考に残っておりまして、面白いことに自身の作品が最後まで大賞で競るという状況でした。『ねぇ、ママ』が大賞に決まったのは、これまで池辺さんが描いてらした『1人であること』というテーマが、より深化しているから」と授賞理由を明かした。

また門倉氏は選考対象に多様な作品が集まったことを喜び、「ギリギリのところで賞に入らなかった作品がたくさんあって、それが審査委員会推薦作品に入っているので、ぜひチェックしてほしい」と呼びかけた。審査委員会推薦作品の一覧は第21回文化庁メディア芸術祭の公式サイトに掲載されている。

文化庁メディア芸術祭はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で優れた芸術作品を顕彰するメディア芸術の総合フェスティバル。第21回には4192作品が寄せられ、過去最多となる世界98の国と地域から応募があった。受賞作品を紹介する作品展は、6月に国立新美術館を中心に開催される。

第21回文化庁メディア芸術祭 受賞作品

マンガ部門

大賞

池辺葵「ねぇ、ママ」

優秀賞

伊図透「銃座のウルナ」
高浜寛「ニュクスの角灯」
上野顕太郎「夜の眼は千でございます」
山田胡瓜「AIの遺電子」

新人賞

久野遥子「甘木唯子のツノと愛」
増村十七「バクちゃん」
板垣巴留「BEASTARS」

アニメーション部門

※カッコ内は作家名・受賞者名。

大賞

「この世界の片隅に」(片渕須直)
「夜明け告げるルーのうた」(湯浅政明)

優秀賞

「ハルモニア feat. Makoto」(大谷たらふ)
「COCOLORS」(「COCOLORS」制作チーム 代表:横嶋俊久)
「Negative Space」(KUWAHATA Ru / Max PORTER)

新人賞

「舟を編む」(黒柳トシマサ)
「The First Thunder」(Anastasia MELIKHOVA)
「Yin」(Nicolas FONG)