15の夜に読んでたマンガ 第7回 「ゲームさんぽ」運営・いいだと「ピューと吹く! ジャガー」(うすた京介)
2023年12月で開設から15周年を迎えるコミックナタリーでは、15周年に合わせた企画を続々と展開中。人間で言えば15歳とは中学から高校に上がる節目であり、服装から言葉づかいまで心と身体の成長に合わせてありとあらゆるものが変化していく思春期の真っ只中だ。マンガ読みとしても、思春期を境にそれまでと読むマンガの趣味がガラッと変わったという経験を持つ人も多いのでは? このコラム「15の夜に読んでたマンガ」では、そんな15歳の頃に読んでいた思い出深いマンガについて人に語ってもらう。
第7回はYouTubeチャンネル「ゲームさんぽ / よそ見」運営のいいだが登場。うすた京介「ピューと吹く! ジャガー」を題材に「15の夜に読んでたマンガ」を語ってもらった。また「今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガ」も記事末で紹介している。皆さんも、自分の「15の夜に読んでたマンガ」を思い出しながら読んでもらいたい。
文 / いいだ リード文・構成 / コミックナタリー編集部
15歳の頃に読んでたマンガと、読んでた当時のことを教えてください
うすた京介「ピューと吹く! ジャガー」(集英社)
「ピューと吹く! ジャガー」には我々「ゆとり世代」の青春が詰まっている。久しぶりに単行本第8巻をひらいてみた。主人公の“ピヨ彦”が、CDショップで耳にヘッドホンをあて、試聴機にセットされた新譜をチェックしている。
「まいったな こんないいの見つける気なかったのに 今月ピンチなんだけど どうしよう…」
そうだった。2000年代、タワーレコードやHMVにいくと試聴機には大体3枚、多い時には10枚程度のCDがセットされていて、思いがけない良作に出会う、貴重な機会を提供してくれていたのだった。
ピヨ彦はヘッドホンを頭に載せるのではなく、アームがあごの下に来る形で手に持って、パッドを耳に当てて試聴している。この姿はもしかすると、今の10代の若者には奇妙に見えるのかもしれない。でも、当時はみんなこうやって音楽を試聴していたし、ヘッドホンもそれ用にデザインされていた。店頭での試聴には、あの形の方が何かと便利だったのである。
ピヨ彦は手元のCDジャケットから目をあげる。すると、お店の奥に「ふえ科」の講師、ジャガージュン市の特徴的な後ろ姿があるのを認めた。
「ええ!? アレ まさか…ジャガーさん!?」
ジャガーさんもヘッドホンを耳にあて、何かを試聴しているようだった。
「何聴いてんだろ?」
気になってピヨ彦は近寄った。そこでピヨ彦は衝撃の事実を知ることになる。なんと、ジャガーさんは試聴をしていたのではなかった。
「笛ッドホン」(笛とヘッドホンが一体化した結果、外に音を出さずにこっそり練習ができるようになった笛)をくわえて、フガフガ言いながら、ジャガーさんは笛の演奏をしているのだった……
*
……みたいな、意味のわかんないギャグで毎回腹が捩れるくらい笑ってました、15歳のとき。
「笛ッドホン」もそうなんですが、「ピューと吹く! ジャガー」、というかうすた京介作品全般には響きだけで心を掴まれるネーミングセンスがありますよね。その一方で、「酒留清彦」を“ピヨ彦”と呼ぶ。ヒップホップ好きの「浜渡」を“ハマー”と呼ぶ。ロボットの「ハミデント眠都」を“ハミィ”と呼ぶ。こういうあだ名の雑さも心地いい。
ファンタスティックな飛躍と、雑なところはとつぜんめっちゃ雑になる感じ。あの絶妙な塩梅が好きで、教室の後ろの方で繰り返し読んでました~。
今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガはありますか?
あらゐけいいち「CITY」(講談社)
たしか高1の時、友達が「この漫画すげえよ」と言って手塚治虫の「奇子」を貸してくれました。自分はそれを読んですごいとは思ったものの、エロさと怖さについていけなかったんですよね。それでも「これが“ホンモノ”か~」「芸術だ~」「“天才”ってのはこういうのを描くんだな~」という確かな衝撃はあって、だからこそ、それにハマれない自分を恥ずかしく、哀しく思う気持ちも同時にありました。
だけど得手不得手は誰しもあって当然。別にすごい落ち込まないでもいいんですよね。
なので、そういうタイプじゃない芸術的な漫画もあるよ~ということで、ジャガー好きの15歳の自分にはあらゐけいいち「CITY」をおすすめしたいです。
ギャグもアート。普通に。
いいだ(イイダ)
編集者。1989年生まれ。美術科教科書の編集を経てライブドアニュースにて「ゲームさんぽ」をシリーズ化。現在はどこかそのへんの会社で会社員をしながら株式会社よそ見を設立し、YouTubeチャンネル「ゲームさんぽ / よそ見」を運営。