マンガ編集者の原点 Vol.7 「僕の心のヤバイやつ」「吸血鬼すぐ死ぬ」の福田裕子(秋田書店 ヤングチャンピオン編集部)

マンガ編集者の原点 Vol.7 「僕の心のヤバイやつ」「吸血鬼すぐ死ぬ」の福田裕子(秋田書店 ヤングチャンピオン編集部)

マンガ家が作品を発表するのに、経験豊富なマンガ編集者の存在は重要だ。しかし誰にでも“初めて”がある。ヒット作を創出してきた優秀な編集者も、成功だけではない経験を経ているはず。名作を生み出す売れっ子編集者が、若手時代にどんな連載作品を手がけたのか、当時を振り返りながら語ってもらい、マンガ家と編集者の関係や、編集者が作品に及ぼす影響などに迫る連載シリーズ。第7回で登場してもらったのは、秋田書店・ヤングチャンピオン編集部の福田裕子氏。桜井のりお「僕の心のヤバイやつ」や盆ノ木至「吸血鬼すぐ死ぬ」の立ち上げなど、キャラがびんびんに立っているヒット作品を手がける編集者だ。

取材・文 / 的場容子

初担当は小沢としお「ナンバデッドエンド」 作家の漢気に惚れた

2009年に新卒で秋田書店に入社した福田氏。もともと、くらもちふさこやいくえみ綾などを愛読し、王道少女マンガが大好きだった。当初はプリンセスなどの少女マンガ誌を志望していたが、配属されたのは週刊少年チャンピオン。

「想定外でしたね。週刊少年誌は同期の男性社員が行くのだろうと思っていたので、まさか自分がと。だけど、昔から少年マンガもすごく好きだったので仕事的に無理だとは思わなくて。少女マンガ以外にも、父親がマンガ好きだった影響で私も小学生くらいから週刊少年サンデー(小学館)を愛読していたことが大きいです。『今日から俺は!!』や『MAJOR』、野球マンガの流れで『ドカベン』も好きで読んでいました。

あとは、週刊少年チャンピオンって編集部が怖い人たちばっかりだと思っていたのですが、当時いた上司が意外にもいい人たちばっかり(笑)。1つ上に女性の先輩もいたのですが、その先輩がまた太陽みたいな人で。ほんと最高の先輩たちばかりだったので、おかげで忙しいながらも楽しくやらせてもらいました」

当時の編集部の男女比は9:1で、女性編集者は福田氏をあわせて2人だけだった。最初にサブ担当でついたのは「ナンバデッドエンド」。不良マンガの名手・小沢としおの作品で、今年、間宮祥太朗主演でドラマ化された「ナンバMG5」の続編にあたる。千葉のバリバリのヤンキー一家で育った主人公・難破剛が、そんな出自を隠して“逆高校デビュー”に右往左往する物語。入社前から好きな作品で、希望して担当させてもらったという。単行本4巻から、小沢担当だった当時の上司とともに担当についた思い出を語ってくれた。

「小沢先生との打ち合せもすごく楽しく、イチから勉強させてもらいました。先生はすごく優しくて面白い方で、初めてでこんなよい先生に当たっちゃっていいのかなと思うくらいで。それに、メイン担当編集の上司がすごく仕事ができる人だったんですよね。ネームの見方も的確ですし、出てくる案も面白いし。

当時、上司が言ったネームの修正案を私が電話で先生に伝えていたんですけど、あるとき、私が上司の言ったことを理解できていないまま先生に伝えてしまい、間違った修正になってしまったことがありました。それで上司に怒られて先生に謝ったんです。『自分が上司の言ったことを理解できなかったのも悪いし、面白い案も出せないし。本当すみません……』って。そうしたら先生は『俺もわからないことはあるし、福田がいいこと言ってるときもあって、気付かされることもあるから。3人でみんなそれぞれ足りないところを補っていけばいいじゃん』って励ましてくださって。自分が言ったことがちゃんと役立ってるんだよとフォローもしてくれて、素晴らしい作家さんだなと思いました」

漢気(おとこぎ)! 小沢の人柄がよく伺えるようなエピソードだ。

「本来なら私は支える立場なのに、支えられましたね。あと小沢先生はマンガの“引き”を強く意識されている作家さんで、その影響で、私もほかの担当作でもしっかり引きを考えるようになりました。

小沢先生とメイン担当の関係も見ていてすごく参考になりました。先生は担当のことを信頼しているし、担当も先生の人柄や作品が大好きだったので、すごく仲がよくて。自分が憧れる2人というか、作家さんとはこういうふうに信頼し合っていきたいなと思えるような関係でした。今の自分の基本となっているものが全部そこにあったのだと思います。小沢先生とは『Gメン』の途中まで、私が2016年に異動になるまで、メイン担当との2人体制で担当させていただきました」

目だけ貼ってください……藤近小梅「ペーパーブレイバー」

秋田書店といえばチャンピオン、チャンピオンといえば不良とヤンキーマンガ──入社早々、会社のカラーを代表するような作品をサブ担当として経験した福田氏は、並行して別ジャンルの作品を企画から立ち上げ始めていた。藤近小梅の「ペーパーブレイバー」だ。

「入社3年目くらいのとき、高知県主催のまんが甲子園というイベントに編集者として参加しました。全国の高校生が学校ごとのチームを組んでテーマに沿ったマンガを描いて競うイベントで、出版社のスカウトシステムもあるんです。そこに出場していたのが当時高校生の藤近さんでした(2011年開催の第20回)。そのとき藤近さんが描いた作品が、すごくレベルが高かったんです。絵もいいしギャグも面白いし、当時から読者を引き込む力が光っていたので、かなり多くの出版社にスカウトされていて。幸運にも最終的に担当させてもらうことになって、まずは正式なデビューという形で、週刊で3話連続のラブコメを描いてもらい、そのあと『ペーパーブレイバー』で初連載となりました。

そこに行くまではすごくスピーディでしたね。私が絶対ほかの雑誌に藤近さんを取られたくないと思い、編集長に押して押して押し通して……みたいな(笑)。編集長も『面白いからこれは載せよう』と協力してくれました。連載前の作品も、最初は1話読み切りの予定だったんですけど、面白いから『3話やっちゃおう』と描いてもらいました」

編集者として、初の単独担当作で高校生のデビューを手がける。責任重大だが、さほどプレッシャーは感じていなかったという。

「藤近さんの作品がすごく好きだったので、担当できたのもうれしかったですし、イチからすべて1人で担当するのは初めてだったんで、単純にワクワクしていました。今思うと、若いノリでやってた気がします(笑)」

「ペーパーブレイバー」は高校を舞台に、白魔道士の能力を受け継いだヒロインが、やる気ゼロの勇者の子孫を焚き付け、なんとか魔王を倒そうと奮闘するRPG系ギャグコメディだ。2013年から週刊少年チャンピオンで連載され、単行本は全4巻が刊行された。

「初めての連載が週刊で藤近さんも大変だったと思います。藤近さんはデビュー後大阪に住んでいて、当時はアナログ原稿でした。原稿が編集部宛に宅急便で送られてくるんですが、『やっぱり目だけ直したいので、別便で送る目のイラストを福田さんが原稿に貼ってください』って言われて貼ったり……(笑)。今はデジタル原稿になりましたし、絶対にそんなことしないんですけど、ほんとにいろいろギリギリでしたね(笑)」

マンガってこんなに売れてないんだ

その後、福田氏は盆ノ木至の「吸血鬼すぐ死ぬ」の立ち上げを手がける。吸血鬼だが弱点が多すぎてすぐ死んでしまうドラルクと、吸血鬼退治人のロナルドを主人公に、豊かすぎる個性のキャラクターたちが攻防を繰り広げるコメディ。1コマごとにオチがつくほど密度の高いギャグ描写も人気の要因だ。

「盆ノ木さんとは、出張編集部に持ち込みに来て原稿を見せてもらったことがきっかけでした。盆ノ木さんが言うには、出会った当時私からけっこう積極的に電話がかかってきたみたいで。あんまり自分はそういうことするタイプじゃなかったので、よっぽど盆ノ木さんのことが好きだったんだなと思います(笑)。読者に好かれる力を持った作家さんに、私自身も吸い寄せられているんだと思います。

『吸血鬼』の原型は、盆ノ木さんが新人マンガ賞に投稿した同名の作品でした。そちらで2013年にデビューしたんですが、そのあと3話の短期連載で全然違う作品を描いて。その作品もすごく人気があったのですが、私は『吸血鬼』の2人で連載をしてもらいたいと思っていたので、『「吸血鬼」のほうでいきましょう』とお願いし、2015年に連載を開始しました。私は立ち上げてから1年で販売部に異動になったのですが、そのあといろんな人が担当を引き継いでくれて、アニメになって。引き継いでからのほうが売れていて、素晴らしいですね」

同作は2021年にアニメ化。来年早々に第2期の放送も決まっている、週刊少年チャンピオンの看板作品の1つである。さて、「吸血鬼」を立ち上げたあとに編集部から販売部に異動となった福田氏だが、そこでの1年間の経験により、編集者として大切な視点を持ち帰ることができた。

「書店営業だったので、『マンガってこんなに売れてないんだ!』というシビアな面を見ることが多かったです。編集としては店頭に新人作家さんの作品も置いてほしいですが、書店さんとしては売れる作品を置かないと店がつぶれてしまう。私が販売部にいた1年間だけでも、書店の各担当さんがけっこうお辞めになって、リアル書店を取り巻く状況が相当厳しいことを目の当たりにしました。まずは売れる作品がないと書店も経営していけないし、書店員さんも新人作家さんの作品を試してみるかという気持ちにもならない。売れる作品というのはいろんな意味で必要だから、そうした作品をちゃんと作りたいなと、さらに実感しました」

ネットショッピングの普及や電子書籍の台頭で、リアル書店をめぐる状況は日々厳しい。編集部に戻った後の変化を語ってくれた。

「書店さん目線でも購入者さん目線でも、まずは作品を知ってもらわないといけないという考えが強くなりました。編集として作っている側だと、『この作品は面白いし、当然知ってもらっているだろう』というちょっと傲慢な考えがあったですけど、本当はまず『みんな知らない』という前提から始めないといけない。なので、SNSや 広告宣伝、書店販促活動も含め、知ってもらうために編集ができること──面白いシーン作りとか、話題作りに関しても、作家さんとよく話すようになりました。

その甲斐あってか、桜井のりお先生には『販売部に行ってよかったですね』と言われました。編集になる人は、一度書店営業を経験して、本やコミックという商品に対する意識をまっさらにするのもいいのではないかと思います。営業という職種自体も、重い注文書や販促物を持って各所を回ったり、全然注文もらえなかったり、厳しいこと言われたり……編集者とはまた違った大変さのある仕事なのでいい経験になりました」

「僕ヤバ」はSNSで話題になるような作品にしたい

販売部で1年書店営業を経験した後、再び編集職に。そこで手がけた桜井のりおの「僕の心のヤバイやつ」がヒットする。典型的な中2病で陰キャのイッチこと市川と、クラスの陽キャ美少女・山田の、ほのぼのジレジレ&ほのかにエッチな恋愛模様を描いたラブコメディだ。2018年に週刊少年チャンピオンで連載開始し、現在はWebコミック誌であるマンガクロスに掲載。隔週火曜日に最新話が更新されるたび、ネット上では愛に溢れたツッコミや感想が飛び交う、ファンの強烈な愛が感じられる作品だ。それにしても、「僕ヤバ」にしろ「吸血鬼」にしろ、福田氏が手がける作品には熱心な読者がファンとしてつくことが多いように感じる。

「私がそうなるように戦略を立てているというより、読者に愛される作家さんに私が引き寄せられるんだと思います。実は入社したとき、編集長に『ナンバデッドエンド』を担当したいという希望と同時に、当時桜井先生が連載していた『みつどもえ』も担当したい、という希望も出していました。そのときは通らず、そのあとも何回か出したんですけど、全然通してもらえなくて(笑)。5年目くらいのときにやっと通って、『みつどもえ』を担当させてもらったんですよね。そのくらい桜井さんと作品が好きだったんです。

『僕ヤバ』の発端を辿ると、ヤングチャンピオン編集部に異動してすぐに、桜井さんから初めてランチに誘われました。いつも私からお誘いしていたのですが、そのときはお誘いをいただいたので『わーい!』ってワクワクしながら行ったら、『僕ヤバ』のネームを持ってきてくれていたんです。ただそのとき、桜井先生は週刊少年チャンピオンで『ロロッロ!』を連載していて、最初はそちらと並行しての連載になったので、先生はとても大変だったと思います。

「みつどもえ」や「ロロッロ!」は、女児や女性型の人型ロボットが活躍し、ゆるい百合風味も感じられる作品だ。同2作は男性を中心に絶大な人気を誇っている印象だが、「僕ヤバ」は男女のラブコメディで対象読者層が広く、女性の私も愛読しているように、ファンの性別を問わず熱狂的に愛されている作品だ。

「連載が始まる前に、桜井さんのほうから『「僕ヤバ」はSNSで話題になるような作品にしたいし、女性にも読んでほしい。もちろん、書店でも大きく展開されるようになりたい』と野望を聞いていました。それが全部叶って売れたのはすごいなと思います」

読者に愛される作品の共通点はあるのだろうか。

「作家さんが負けず嫌いというか、絶対に面白くしたい!という思いがすごく強い気がします。だからこそ魅力的なキャラクターが生まれているのかなと。だけど、難しいですよね。いろいろ考えて描いてもらっても人気が出なかったり、みんなが好きだろうってものを詰め込んでもうまくいかないこともある──結局は、応援したくなったり、共感してもらえるキャラ作りが大事なのかもしれないですね。

その点、『ナンバデットエンド』の剛はみんなが応援したくなる主人公だったので、そういうキャラクターが好きで、最初に担当させてもらえたというのは自分の中で大きかったと思います。『みつどもえ』も三姉妹みんなキャラが立ってるんですよね。私はみつばというキャラがすごく好きなんですが、連載当時、週刊チャンピオンでトップを争うくらいキャラが立ってるんじゃないかなと思っていました」

女性キャラクターに関しては、「とにかくかわいく描いてほしい!」というのが基本方針だというが、依頼の仕方にもコツがいるのだという。

「作家さんって、基本的にこちらが提案したキャラクターにはそんなにノリ気になってもらえないんですよね(笑)。作家さん自身が楽しんで描けるキャラクターじゃないと、結局キャラの魅力も作品の面白さも半減してしまうので、こちらは上がってきたキャラに対して、魅力がわかりにくいなと思ったときは『このキャラじゃないと思います』と言いますが、こうしてほしいという具体的な例は言わないことが多いです。作家さんのモチベーションは下げたくないので、キャラ作りは基本的にはお任せして、魅力的に映らないときは早めに言うようにしています」

編集者としては、「カッコつけすぎない」作品を意識しているとも話してくれた。

「作風にもよりますが、なるべく難しく考えすぎず、ちょっとアホっぽく、がちょうどいいかなと。自分が楽しまないと読者も楽しくないと思うので、そうしたさじ加減を大事にしています」

“褒め”はコミュニケーションを円滑に

福田氏とはこの取材で初対面だったが、リモート取材にもかかわらず、話すテンポといい表情といい、話しやすい人特有のオーラが湧き出ているように感じた。担当作家陣も、福田氏相手ならなんでも安心して話せていることが想像できる。そんな福田氏が作家との打ち合わせで心がけているのは、「作家が話しやすい土壌づくり」。

「まずは作家さんにとって信頼される人になることを目指しています。例えば、ネームに関して『こう直したほうがいいのでは?』と言ったとき、作家さん側には実は意図があったのに、何も意見できず編集に言われたままに直しちゃうのだともったいなくて。作家さんから『本当はこういうことがしたかったんです』と伝えてもらえる関係になれるように、なるべく私も話はするし、しゃべってもらえるようにこころがけています。

実際には、打ち合わせでは雑談が多いですね。最近読んだマンガとかTwitterで見たこととか、会社のどうでもいい話とか、真剣な話はあんまりしていないです」

作家との関係では、シンプルに「いいところをたくさん見つけ、伝えること」、つまりは“褒め”が大事だという。

「私も経験が浅いうちは、褒めるのがおべっかみたいに思われたら嫌だなと思っていたこともあります。だけど、大御所の先生含め、どの作家さんも褒められたいとおっしゃるし、自分の言葉が力になるならありがたいので、積極的にお伝えするようにはしています。

私はけっこう淡々としているって言われるので、あんまり感情的な言い方はしないんですけど、真摯に『めちゃくちゃ面白かったです』と伝えます。そんな長時間は話しませんが、自分が思ったいいところをひたすらしゃべる感じです。桜井先生は『はい。はい』って聞いてくれていますね(笑)」

下ネタでも、好きなものはいつか武器になる

ヤンキーからラブコメ、ギャグまで、さまざまなジャンルの作家を担当している福田氏に、“天才”について聞いてみた。

「担当している作家さんはみんな天才というか、才能ある方ばかりです。わかりやすい例で言うと、『吸血鬼』の連載が始まってすぐのときに、美味しいネタは序盤に積極的に入れて欲しいという願いから盆ノ木さんと『もしこの連載があと3話で終わるとなったら、次の話は何やります?』という話をしたんです。そうしたら即答で、『股間に花を咲かせる吸血鬼を出そうと思うんですけど、薔薇とゼラニウムどっちがいいですか?』と。その発想はなかったと思いながら『ゼラニウムにしてください』って答えました(笑)。その結果誕生したのが吸血鬼ゼンラニウムというキャラクターです。すごくバカバカしくて天才だな、と思いました。私がそのネタがあまりに好きだったので、話数の入れ替えもしてもらいました。桜井先生も藤近先生も小沢先生も、読者を引き付けようとする力がすごく強い人たちなので、そういうネームを目の当たりにするといつもすごいなと思います」

そんな福田氏に、“編集者の心得”を聞いてみたところ、「好きなものがたくさんあること」と、らしい答えが返ってきた。

「好きなものが支えになったり、役に立ったりすることがあります。意外なものが役に立ったりするんですよ。私は、当初少年マンガならスポーツものをやりたいと思ったんですけど、実際やろうとしたら全然向いてなくて。スポーツマンガになると、マンガ家さんへのアドバイスも全然センスがなくてダメなんですよ(笑)。

一方で、担当作でうまくいくようなマンガはギャグが多いことに気付きました。私は小さいころからギャグマンガが好きだったんですが、読みすぎていて逆に意識していなかったんですね。『魔法陣グルグル』は私のギャグマンガの土台になっているし、『音無可憐さん』に『泣くようぐいす』『かってに改蔵』──下ネタマンガも多いですが(笑)、小さいころから好きだったことが30代になって役に立ったりするのかも。私自身は決して面白いことは言えないんですよ(笑)。だけど、面白いものに惹かれていく嗅覚はあるかもしれない。特別意識していなくても自分のルーツになっているのかもと思います。

そのことに気付いたのは、先輩に『福田さんは下ネタマンガが好きだな』って言われたからなんですが、確かにそのとき担当していた『Gメン』も『みつどもえ』も『吸血鬼』も、下ネタが面白い作品だったんです。自分が意識してないところで助けられることがあるので、なるべくいろんなものを見ておいたほうがいいですね」

得意ジャンルで道を極めようとしている福田氏。今後、当初志望していた女性誌にチャレンジすることはあるのか聞いてみたところ、「センスが全然足りないと思うので……」との謙遜が返ってきた。

「たぶん行ってもお役に立てないと思います(笑)。秋田の女性誌系で最近のヒット作だと、『凪のお暇』や『海が走るエンドロール』がありますが、『エンドロール』担当の女性の先輩は企画力がものすごいんです。自分はこうはなれないと思うので、違う分野でがんばろうと思っています。13年も編集をやっていると、向き不向きがあることはわかるし、全部なんでもできる編集になろうと思わないようにしようと。それよりも、好きなことを活かすことに注力しようと心がけています」

髙橋ヒロシも担当中、Webtoonで試行錯誤

現在はヤングチャンピオン編集部に在籍しつつ、マンガクロスでも担当作を持つ福田氏。現在の担当作を語ってくれた。

「マンガクロスでは『僕ヤバ』と藤近先生の『隣のお姉さんが好き』を、ヤングチャンピオンでは高橋ヒロシ先生の『ジャンク・ランク・ファミリー』と、高橋先生が原作、カズ・ヤンセさん作画の『OREN’S』を担当しています。それ以外には、外部のフリー編集さんと組んでいくつか作品を作っています」

不良マンガの大家、髙橋ヒロシとはどんなふうなやり取りをしているのか聞いてみた。

「髙橋先生はあんなに大御所なのに、ネームの修正も『なるほど! それ、すごいいいね!』という感じで、すごく前向きに聞いてくださるんですよ。そうすると私も気後れしないで言いやすくなるんですよね。作家さんが私の言葉が活力になると言ってれるからこそ、自分の言葉も引き出されるし、お互いに引き出しあってるのかもしれない。作品を面白くしようと全力で取り組んでくださり、今なお進化し続ける先生の姿勢から学ばせていただくことがすごく多いです」

今後、力を入れていきたいのはWebtoon。試行錯誤の日々だという。

「今、若い人がWebtoonをすごく読んでいるので、これから主流になっていくかもしれない。私のほうでもヤンチャン編集長指令のもと、外部の編集さんに協力いただいてWebtoonの企画を作っているんですけど、これまで作っていたマンガとは観点が違うので、なかなかついていけてないんですよ。教えてもらっている段階なので、もうちょっと自分の中で経験や知識を増やして、ちゃんと担当できるようになりたいと思います。

数年前に電子でマンガが読めるようになったときにも、『スマホでなんて、ちっちゃくて読めないよ!』ってみんな言ってたけど、今では普通に読んでるじゃないですか。60歳過ぎの私のおばもスマホで読んでいる。なので、出始めのときは『あるわけない』と思っていたことが、すぐ先の未来にやって来る可能性が高い。がんばりたいと思います」

福田裕子(フクダユウコ)

2009年に秋田書店に入社。入社後、週刊少年チャンピオン編集部に配属されたのち、販売部を経て現在はヤングチャンピオン編集部に所属。主な担当作品に小沢としお「ナンバデッドエンド」、盆ノ木至「吸血鬼すぐ死ぬ」、桜井のりお「僕の心のヤバイやつ」、いちかわ暖「新しい上司はど天然」など多数。